第一章:その四
にわかに信じきれない現象が自分の目の前・身の回りで起きたとき、人間という哺乳類はどんな反応をするのだろうか、という質問に対する答えというのは決して一つであるわけがなく、むしろたくさんありすぎてどういう反応をしていいのかわからない、というのが実は一番多い答えなのではないだろうか。
今まさにそんな状況に置かれているのは他でもなく、俺だった。
えぇっと、これはあれだ。きっと夢だ。もしくは規模のデカい冗談ないしドッキリと言ったところだ。そうに違いない、というかそうであって欲しい。
冷静に判断してみることにしよう。無論、冷静にというからには客観的に、だ。高校の入学式当日、帰り際に突然他中の女子に声を掛けられ、妄想未来人トークをされ、その次の瞬間にはこれまた今日会ったばかりの涼しげなスマイルを存分に振りまいてる時間関係の変人につれられ、二年前に来てしまったかもしれない、とこういうわけか。
ふむ、なるほど。冷静に再確認して分かったことが一つある。
果たしてこれは夢ということで間違いないだろう。冗談でもドッキリでもなく、ただの夢。イッツマイドリーム。初対面のやつに前者みたいなことやる意味が、頭のイカレた連続殺人犯の殺害動機並みに俺にはわからないからな。分からないどころかそんなものやる意味なんかこれっぽっちも見いだせやしない。
よってこの普段の普通の普遍的な日常から脱線事故を起こしている現状は、脱線事故どころかまだ発車すらしてなかった、という結論に至るわけだが如何だろうか?
「名推理ですが、残念ながらハズレです。ここはあなたの言う夢の中の世界ではなく、現実の世界においての過去です。信じられないことだとは思いますが、そちらのT字路を見ていて下さい。もう少しで信じざるを得なくなるはずです」
この状況をか?やめてくれ。こんなことの動かぬ証拠なんか見ちった日には俺の夢オチ説の力が弱くなっちまうじゃねぇか。
などと頭の中で豪語してるせいだろうか、目の前のT字路から目が離せない。右も左も一軒家の塀で見通しが悪く、電灯の光になんだか元気がないせいで、よく目を凝らしていないと見えなさそうだ。
そんなところにそいつは現れた。
俺が目の前を通過する豪速球に書いてある文字を読み取ろうとするくらい、見通しが悪い住宅街T字路を凝視していると、豪速球なんてとんでもない、むしろバッターの手前で落ちやしないだろうかといわんばかりのスローボール並みの速度で現れたそいつ。
おれはそいつの名前を知っている。そいつの顔にも見覚えがある。コンビニ袋をぶら下げたそいつは、短めの黒髪、いまいち覇気の感じられないつり上がっても垂れ下がってもいない目、ちょっと細くしてみた眉、お世辞にも高いとは言い難い鼻、薄い唇、 T字路の左から現れた脳天気な表情を、俺は毎日のように見てる。朝起きた後、目を覚ますために顔を洗いに行くとそいつは寝癖のついた髪をボリボリ掻きながら俺の真正面に立っていて、当然のように俺も同じ行動をしており、つまりそれは鏡であって、そいつは他の誰でもない俺なのである。んでもって今俺の目の前に現れたコンビニ帰り君も俺。
「何が…どうなってやがる」
理解できるはずがない。今の俺は俺でしかあるはずがなく、唯一無二の存在のはずである。
だがこの現状を見てるかぎりではそんな常識は、ダイナマイトで吹っ飛ばされた土くれのごとく粉々に砕かれ、無きものにされたと思ってしまって何が不自然であろうか。
そういえば目の前にいる俺のドッペルゲンガーがコンビニ袋をぶら下げていると言うこと以外のもう一つの特徴を言い忘れていた。実はこっちが現状を認識するための何よりも重要な視覚的情報なのであり、それを見てしまったがために、今の俺は現状理解能力消失的パニック状態なのだ。
その特徴とは衣食住の衣にあたる服装のことであり、薄い光に照らされた服装は、上も下も黒主体で、上に着ている固めのポリエステル生地には5つボタンがついていて、上から2番目までは外してあり、その隙間から白の、俗に言うワイシャツがコンニチワしている。
ここまで言えば分かると思うが、まったくこっちに振り向く気配すらないマヌケ面が着ているのは、公立の中学や高校で広く採用されている通学学校生活両用制服、簡潔に言えば学ランだった。
ここで確認しておくと、今現在俺が着ているのは左胸に校章のワッペンがついているブレザーであり、それは俺が今日から通い始めた(果たして今がその今日であるかは怪しいのだが)高校の制服だからであり、ちょうど1ヶ月前までは別の制服に身を包んでいたというのは、まだ記憶に新しい、変えられない事実である。
そしてその制服というのは学ラン以外の何物でもなく、そろそろT字路の右に消えようとしている学ランとまったく同じであったりするわけで、その視覚的情報は、ついさっき自分の両目で確認した、というよりさせられたというべきかはわからないが、とにかく、先程俺の視界の中央に映ったデジタル算用数字日付と脳内ミキサーにかけられ混合し、俺の知らない間に数字の概念が変わったりなどの事件がなかったかぎり、今見た現実的映像の謎を解明し答えを導き出すモメントとなってしまった。
よって今俺の頭には、デジタル電波時計やらマヌケ面学ランなどにより明らかとなってしまった、ひとつの現在の状況が浮かんでいた。
「まじかよ……」
気がつけば視界に映るT字路には、すでに人影はなく、そこで初めて、俺は腰を抜かしてアスファルトに尻をつけていることを認識した。
ここまでくると夢の可能性ももはやゼロに等しいと言っていい。このしつこく残りやがった冬の寒さが何よりの証拠だ。
どうやら俺は、本当に過去に来ちまったらしい。
冷や汗が一筋、額から頬を経由し、首へと流れた。
最近学校の宿題のせいで更新できなくて、そんな現状を右ストレートでぶちかましてやりたい気分なんですが、できるわけがなく、しぶしぶと宿題を頑張ってるところです。夏休みあけたら今度はテストがあるんで、それがおわるまではまた更新できそうにないんですが、だからといってこの小説をみすてないで下さいね;