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第五章:その四

単純に更新遅れました↓一ヶ月のブランクでしょうか。

今回の話の前知識:「タマちゃん」とあるゲームのキャラクターで、緑色のまん丸浮遊生命体。関西弁使用。赤になると爆発5秒前で、黒色はヤクザさん。

 ……谷川。落ち着いたか?

「あぁ、安心しろ。俺はスイカの種はきちんと放物線を描かせて飛ばす派だ」

 谷川は虚ろな視線を天井に固定したまま口だけを動かし言葉を放った。俺はそれを同じ高さから横目で見ている。俺たちは今個々の寝台の上にいた。

「しかしあれだな。あの丸みが何ともイカすな。それにあの淡い緑色。かぁ〜、たまらん」

 谷川は(おもむろ)に両手を上へと突き出し、何やら虚空に浮かぶ妄想球体を愛でている。どうやらまだショックが抜けきってないらしい。何のショックかなど思い出したくもない。

「な、おめぇもそう思うだろ、進」

 いきなり話の矛先が俺に向いた。何をどう思えというのか。あれか、今も愛で続けてるその妄想球体についてか。丸く、淡い緑色。最初のネタがスイカだというところから予測するとメロンあたりであろうか。なんとか話を合わせておこう。

「そうだな。あれはうまいよな」

 言うと谷川は驚愕の表情を持って飛び起き、

「おめぇあれ食ったことあんのかよ!? 何味だ! 何味だったんだ!」

 どうやら貧困家庭に育ったらしいことを言い始めた。しかも何味って。メロン味以外にどう表現しろと?

「爆発はしなかったか!?」

 あれはそんな危険物だったのか。平気でスーパーに並んでいることを考えると恐ろしいな。

「赤とか黒とかはいなかったか!?」

 ひどい腐り方だな。店頭に並んでいるわけがない。

「そうか…。実は食べ物だったんだな……タマちゃん」

 果物に名前を付けるイタい人間発見。しかもタマちゃんて。

「元気にしてるだろうか…」

 いつ購入したかによるな。場合によっちゃ赤や黒になっているだろう。

「こんど会ったら食べてみっかな」

 自殺願望もあるようだ。やめとけ、胃が溶けるかもしれんぞ。

「王水!?」

 残念ながらメロンでは金は溶かせない。人の体調が溶けるように悪化するだけだ。

「タマちゃん……グッジョブ」

 そういって谷川は再び布団を(かぶ)った。終始意味が分からない。

 谷川が死んだように寝入ったのを見計らって少し身体を起こしてみる。寝台から角度をつける毎に節々が軋みと痛みをあげている。筋肉も硬直しているところや小刻みに震えているところがある。それだけえげつない拷問だったということだ。

 あのときの王様(仮)の目はヤバかった。とにかくヤバかった。死んだ魚の目にデーモンの目とメデューサの目を足して3掛けたくらいヤバかった。人を平気で殺してそうな目をしてた。

「実際に人を殺したことはないが殺しかけたことはあるな」

 言葉と共に木のドアが軋む音と、部屋と廊下の温度差による冷風。誰にというわけでなく言い忘れていたが、王城敷地内は何故か熱帯ではなく、むしろ寒いくらいで、それに準じて城内も寒く、しかし部屋内部は暖房で温めてある。だから冷風が流れ込んできたというわけだ。

 そしてその冷風を肌で感じた瞬間に鳥肌が立った。だがそれは決して風が冷たいから、とかそういう理由ではなく、その証拠に背筋を冷や汗が伝う。心臓の鼓動がいつもよりかなり速い。

「どうした、そんなにダラダラと汗を流して。部屋が暑かったか?」

 コツコツと響く革靴の底が固い床を叩く音が近づいてくる。その音に対しておまえの所為だ、などとは死んでも言えない。家系全代が呪われる可能性だってある。

「ほう。私の所為とな。それは私の目を宛も殺人鬼のように表現したのと関係しているのか」

 はい死んだ。もうだめだ。父さん、僕はもうすぐあなたのところに行きます。お茶とお菓子用意しておいて下さい。

「死後計画と依頼はもっと歳を取ってからにしろ。そんなことで私は人を殺しはしない」

 嘘吐け。信じられるわけが

「そんなことで殺しはしない」

 ……はい、分かりました。分かりましたからその背中に回した手を元の位置に戻して下さい。

「……ちっ」

 この人殺る気満々だったよ!!?

「なんのことかな?」

 同時に王様(仮)は背後の開けっ放しにしてあるドアに向けて、背中で掴んでいた何かを投じた。その姿形は王様(仮)に隠れて見えなかったものの、

「サクッ」

 という音と、

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!? 赤が! 赤が迸るぅぅぅ!?」

 という悲鳴プラス駆けていく足音で、ついさっきまで自分がどんな危機的状況にいたのかがよく理解できた。

「あー……最近、食事の用意ができた合図を人の悲鳴に似た音にしてみたんだ。どうかな?」

 無理があると思います。

「……掃除終了の合図とか」

 無理があると思います。

「……日本からハワイ沿岸までの太平洋北西部および日本海の水深100mまでの大洋に生息し、温帯域の回遊魚で、日本付近では春から夏に日本列島を北上し、初冬から春に南下する魚には?」

 (ぶり)があると思います。

「……秋の食材として庶民に愛され続けて云十年。和菓子洋菓子に利用され、食卓にも並ぶ世界各国御用達のブナ科の落葉樹の種子には?」

 栗があると思います。

「それだけできれば大丈夫。君は何も心配することはない」

 もはや心配することしかないような気がするが、ここは敢えて心配しないことにしておこう。

「さて」

 王様(仮)の表情が引き締まる。ギャグパートは終わりということであろうか。

「先ほどの会議での話は聞いていたかな?」

 どうやら真面目な話に入るらしい。しかし入ろうにも俺はその話をほとんど聞いていない。きちんと言うべきか、それとも…。

「まぁあの調子じゃきっと聞いていなかったんだろうがな。私がここに来た理由もそこにあるわけだしな」

 王様(仮)が心を読んだかのようなことを言う。

「で、とりあえず最初から説明するが、隣で白目剥いてる犬を起こしてくれるか?」

 背後を見れば確かにアホが白目を剥いている。どうやって起こそうか。

「これを使うがいい」

 そう言って王様(仮)が砲丸を渡してきた。7.26kgの大人男子用だ。さぁどこに落とそうか。

「鳩尾いけ、鳩尾」

 ほい。

 俺の手から離れた重鉄球は、加速に加速を重ねて目指す場所に吸い込まれるように……

「自由落下の重力加そぐふっ」

 胸骨の下あたりにめり込んだ。直前に吐いたセリフは何か予知していたのだろうか。的中したわけだが。

 谷川は少しの間呼吸すらしていない状態だったが、

「味噌田楽!」

 と言って飛び起きた。本格的に脳細胞がイカれて来たのかもしれん。ご愁傷様とでも言っておこうか。誰かに言われたことがある気がするのは気のせいだろう。

「い、いい今のは何だ!? なんかこう、頭の中が一瞬春を迎えた感じになったぞ! タマちゃんか!」

 まだ引っ張るのかそのネタ。いい加減元に戻れ。

「で、何の用だ。じじい」

 だからっていきなり戻るなよ。対応しきれねぇじゃねぇか。

「あぁ、お前らが雑談に夢中になってて聞き逃した討伐対象についての話をしに来た」

 あんたも普通に返すなよ。少しはうろたえろよ。

「で、全部話すと長くなるから討伐対象についてだけ話すぞ」

 俺の突っ込みお構いなしに王様(仮)は口を開いた。

「まず対象イーターの身体的特徴だが、容姿の大小は不明、その形容も不明、おそらくは幻姿型だと思われる」

 幻姿型?

「まるで幻のようにその姿をコロコロと変えるからその名称が付いた。このタイプは見つけづらいから厄介だな」

 変幻自在ってやつだな。というより、イーターってこの間のマントヒヒみたいなのばかりではないのか。

「あぁ、いろんな種類がいる。まぁそれは奴らが食ったマイナスの感情の種類と質によるものだがな。だからこそ千差万別だ。種類こそ分けることができるが、同じ奴など一匹たりとも存在しない」

 さて、と言葉改め、

「話を戻すぞ。身体的特徴は今話したとおり幻姿型なのだが、今回は出生元がどうもおかしい」

 おかしい、というと?

「イーターが精神世界を出るのは、こっちで暴れて我々に討たれかけたとき、たまたま転移シールドを発生させてしまったというのが常なのだが、今回のイーターはそっちの世界で出生を確認されている」

 つまりあれか、本来こっちの世界で出てくるはずの奴が、何故か俺らの世界で生まれやがった、とそういうことか。

「うむ。そしてその原因として考えられる理由は恐らく一つ」

 王様(仮)は眉間に皺を寄せ、

「何者かがイーターの幼生をそっちの世界に持ち出し、そしてそのまま養ってイーターにしたということだ」

「ちょっと待てよじじい」

 耳のすぐ近くからした声に振り向くと、谷川がいつの間にか俺の隣に座っていた。胡坐に立て肘といった体勢である。

「ならなんでいちいちそんなことをしたんだよ? 良い理由じゃぁねぇんだろぉけどな」

 それに関しては俺も同感だ。何が目的でその何者かはそんなことをしたのだろうか。

「残念ながらそれはまだ不明だ。第一まだ本当に何者かが持ち出したかどうかかすら思案段階なのだ。全く、謎だらけでさすがに私も嫌気が差してくる」

「で、結局俺らはどうすりゃいいんだよ」

 谷川が本来の話題を持ち出す。一番の問題はこれだ。内容によっては学校も休まなければいけなくなる、なんてことはないだろうな。

「安心しろ。元々一般人の君にそんなことはさせない。ただ、進君も犬も、それらしいものを見つけたらこちらへの連絡を即行してほしい。意思の疎通を可能にする力を常備発動させておくから、それで連絡してくれ。今はまだそれだけだ」

 言って王様(仮)は羽織っているマントの内側に手を入れる。

「進君」

 どうやら用件があるのは俺らしい。

「念のためこれを持っていてくれ。それを使えばしばらくの間能力を発動することができる」

 王様(仮)が渡してきたのは何やら錠剤のような物体だ。飲めばいいのか?

「あぁ。一回一粒で十分だ。もしもの場合以外は使うな。いざという時に薬が切れてては話にならんからな」

 よし、と前置きし、

「とりあえず今回の用件はここまでだ。あとは帰って与えられた任務を遂行してくれ。連絡するだけだけどな。こちらからも何か連絡することがあれば常時連絡する。じゃぁ仕事も溜まっていることだし、私はそろそろ下がらせてもらうとするかな」

 そして王様(仮)は踵を返して歩き始める。が、扉をでようかというところで突如立ち止まった。振り向きもせず、どうしたのであろうか。

「進君」

 どうやらまた俺に対する用件らしい。なんであろうか。

「君には確か姉がいたな」

 いきなり姉が話題に出てきた。そのせいでさっきのことを思い出してしまったではないか。俺が会議の説明を聞き逃した、最も根本的な理由である。

「彼女に無断欠席と変態は止めろと言っておいてくれないか。おかげでこっちでの彼女も素行が悪くて困る。話はそれだけだ。ではまた次の機会に」

 言葉に1テンポ遅れて木のドアが軋み、もう一度軋みを上げた後、部屋に入ってくる冷風は途絶えた。

「っしゃ」

 爪先から、ほとんど音を立てずに谷川が寝台から降りる。降りた直後にこちらに振り向き、

「まぁとにかくまずは帰ろうぜ。どうせ何するわけでもねぇんだ。あれこれ考えてても時間の無駄だっつの」

 谷川は踵を返し歩き始めた。俺も寝台から降りてその背中について行く。

 歩きながら俺は考える。広間でのこと、会議中の谷川が言っていた姉御、王様(仮)が最後に言った忠告の依頼。完全無欠の超絶変態一般人であるはずの姉が、今日精神世界に三回も関わっている。

 一体全体どういうことなのか。実は俺が知らなかっただけで、姉は以前から精神世界と関わりを持っていたというのか。そしてその姉が谷川に尊敬されるような人物なのか。

 城の正面玄関を出る。あとは直線上にある巨大門を通れば、谷川が早口言葉を唱えるだけで元の世界に戻れる。だが、そんなことよりも…

「…ん?おい、ぼーっと突っ立ってねぇで早くしやがれ。帰れなくてもいいのかよ」

 あぁ、悪い。今行く。

 俺は再び足を踏み出す。そしてさらに一歩、さらにと踏み出しながら一つのことに思考を巡らしていた。


 姉は一体何者なのだろうか。


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