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第五章:その三

またまた更新おそくなりました。言い訳がましいのですが、原因はPCが故障してたのと、期末テストの2つにあります。待っていてくださった読者様方、申し訳ございませんでした。

 長い一本道をえっさほいさ歩む。相変わらず気温は高く、生理的現象により身体中の毛穴から汗が大量に噴き出してくる。この真夏の炎天下のような暑さはどうにかならないのか。

「ぶつぶつ言ってねぇでさっさと歩け。門までもうちょいだ」

 もうちょいだ、などと言っていて、さらに門の姿はでかでかと見えているが、ここで騙されてはいけない。この門は通常では考えられないくらいの大きさであり、以前見た記憶からして今の大きさだとまだ距離があることは少し考えれば分かる。あぁ、早く着かないだろうか早く着かないだろうか革靴買わないだろうか。

「落ち着けそして気を確かに持て。てめぇそれ以上脳みそイカれたら取り返しつかなくなるぞ」

 失敬な。俺は断じて変態露出狂ではないぞ。

「そこまで言ってねぇというかてめぇマジでそっち側の人間だったかというかもう着いたぞ変態誘拐癖露出狂」

 だから何度言ったら分かる。俺は断じて変イタしゅケぴオロぺね。

「ついにイカれやがったかご愁傷様。そんなてめぇに発狂特典として、それ以上俺に近づいたらもれなくてめぇが腰にぶら下げてる黒いL字型で全身蜂の巣式肉抜き大サービスだ、っておい、どうした。おい!」


「………ん……」

 遠くで何かが聞こえる。

「……ん……きるに……」

 それは聞いたことのある声で。

「…しん……やく……おき……」

 むしろ聞きなれた女の人の声。それは、

「しん! 寝てないではやくおきるにょぃるんけるん」

 語尾が明らかにおかしい、いつもどおりの姉だった。きっと幻覚。

 俺はとりあえず現状を確認した。とにかく広いフロア。高そうな絨毯。中央やや奥から始まる幅広の階段。あの奥には確か王様(仮)がいるはずだ。となるとここは王室前の広間か。

 俺が身体を起こすと眼前に手が差し出された。俺は開いてこちらに向けられたその手を一度半目で見つめると、敢えて無視して起き上がった。頭が少し痛く、身体がフラフラする。

「お姉ちゃんを無視した!? それとも一人で起き上がれる強い子だっていう自己主張!?」

 頭が痛いせいか意味の分からないつっこみが聞こえてくる。きっと幻聴。

 それにしても谷川はどこだろうか。というよりどこで(はぐ)れたのだろうか。思い出そうとしても門に辿りつく少し前までの記憶しかない。暑さにやられたか。

「うぅ、体言止めのつっこみという難度ウルトラCの技を持ってしても弟君は振り向かず。お姉ちゃん8000のダメージ。ところがどっこい、なんとお姉ちゃんはお姉ちゃんにしかできない精神的な自己回復を使うことによって、むしろ回復前よりパワーアップできるのだ! ……ってあれ? 進がいない?」

 幻覚が意味不明な幻解説を幻握り拳を掲げながら幻熱弁してる間、俺はなんともウザったい幻感覚を覚えながらすでに階段を上り始めていた。

「あ、いた! 止まれー!」

 幻覚相手に反応してる暇は無い。行く先を遮る扉の向こうでは、もうすでに会議とやらが始まっているかもしれないのだ。あぁ、急がねば。

「止まってって言っても止まってくれない、そんな君には奥の手だー!」

 突如後方から聞こえていた足音が消えた。何事かと思い、後ろを振り向くとどこにも姉の姿は無い。代わりに、

「つーかまーえたー♪」

 幻聴と肩に手を置かれるという幻感覚の再来。背中を氷で撫でられるような現実の感覚を覚えながら再び扉の方に顔を向ければ、予想通りの満面の笑みがあった。幻覚であって欲しい。

「ふふふ、逃げる弟にはどんなお仕置きをしてあげよっかなぁ? くふっ。これもいいしなぁ、あれもいいしなぁ」

 明らかに危機感を覚えたくなるニタニタ笑いの姉の指は奇怪な動きをしている。お仕置きのイメトレか、はたまた脳内デモンストレーションか。いずれにせよ姉の指の動きを見てる限りでは生還率が極端に低そうなことは明らかだ。これ以上ないくらい怖い。怖いが、逃げれない。肩はいまだにもう片方の手でがっちりと掴まれたままなのである。あぁ、どうやら俺の短い人生も終わりが近づいてきたらしい。ドンマイ、俺。いい夢見ろよ、俺。転生したら普通の家庭に生まれたいです。

 と、俺が自暴自棄になりかけたところで突然、

「……おやや、エマージェンシーだよーん」

 姉が眉尻を下げながら溜息を吐いた。それと同時に肩から圧迫感が失せる。

「じゃ、進。気を……いんや、門限守りなさいころすてーき」

 そう言って片手を挙げた姉は、そのとき俺が瞬きをしたあとにはもうすでにそこにはいなかった。というか我が家には門限などない。サイコロステーキは結構好きだ。どうでもいいな。

 と、ちょっと待て。忘れ物は忘れてから気付くというが、似たような理由で、何故姉はここにいたのだろうか?ここは物理的には来れるはずがない世界。我が姉はそんな壁もよよいと超えてしまえるような変態なのだろうか。そんなばかな。いや、しかし、変態か。変態とは周囲から見て異質な存在を指す。その方向からのみで考えてみればあながち不適合ではない、というより完璧だ。あぁ、完璧な変態、まさに姉のことである。だが、そんな有機物生命体と二親等以内の存在が自分であるとはなんたることか。それではまるで俺にも変態の素養があるみたではな

「なんだ起きてんじゃねえか。んなとこ突っ立ってぶつぶつ言ってねぇで早く中入れや」

 顔を上げれば、眉間に皺を寄せて扉を両手で勢いよく開いたらしい谷川がいた。眉間に皺、扉を勢いよく……結婚式の邪魔をする気か!

「話が飛躍しすぎだ馬鹿野郎。それも脱線した状態で。んなことより、あとはてめぇが来りゃ会議始められんだ、話はあとでゆっくりとイヤホン越しに聞いてやるから早くしろ」

 姉に関しては考えると面倒なので、ひとまず考えないことにしよう。


 そんなこんなで王室内。

 谷川が開けた扉から中に入ると、予想だにしない数の人がいた。人と人の隙間がほとんどないくらいだ。半分くらいはこの城に常駐してるであろう軽い防具等を装備した兵士としかいいようがない奴らだが、残り半分はおそらく俺や谷川と同じようにあっちとこっちの世界を行き来してる奴らだろう。私服姿がよく目立つからな。

 遠くに見える王様(仮)に近づくためには人を掻き分けて進まねばならないほどだが、正直面倒なのでこのままここにいたい。いたいのだが、

「到着したことを伝えに行くぞ」

 とのことらしく、仕方なく人を掻き分け進もうとしたら、

「馬鹿野郎。この人ごみの中進んでたら日が暮れちまう。退こうにも退けないくらい人が詰まってっからな。つーわけだからちょっと身体貸せ」

 何する気だ、と言おうとして谷川がいるはずの背後を振り向こうとした直前。突如背後で微風が渦巻き、そしてほぼ同時に俺の両脇から灰色の毛で覆われた手が出てきた。うひゃひゃ、くすぐったい。

「力抜きやがれ。持ちづらい。いくぞ」

 その言葉の直後、俺の視界にはたくさんの頭頂が映っていた。段々と小さくなるたくさんの頭頂の中、禿げてるやつもいるな。などと呑気に観察していられるのは、今の自分の状況が概ね理解できていて、尚且つこの先の展開が予想できたからだ。そして予想通り、俺の身体は空中において一瞬停止し、そして、

「よっと」

 前方、王様(仮)のいる玉座に向けて俺の体は飛んだ。たくさんの視線がこちらを見上げてくる中、その視線の持ち主の頭上を通り過ぎ通り過ぎ、

「着地どうすっかなぁ」

 考えてねぇのかよ!と突っ込みたくなったが、徐々に近づく玉座と地面を見ていてはそんな余裕はない。今の俺と谷川の位置関係だと先に地面または玉座に衝突するのは俺だからだ。

 正面の王様(仮)の方を見てみると、ちょうど目が合った。かと思ったら王様(仮)は目を瞑り、そして一歩左にずれた。結果、今まで王様(仮)がいたところに人影は失せ、玉座だけが眼前に迫っており……って眼前?

「とりゃ」

 背中に踏まれたような感覚。それと同時に眼前の玉座に向かって加速。そのまま一直線に頭から

「ぐえっ」

 玉座に突っ込んだ。意識が飛びそうになったが、

「リカバー」

 とどこからともなく聞こえてきた声が耳に入った直後、全身を襲った鈍痛は寝違えたような首の痛みだけになっており、位置的には玉座共々4〜5メートル進んだところにいた。でもなんで首だけ。

「随分と派手な演出だな進君」

 玉座近くにいた兵士2〜3人に手伝ってもらい身を起こすと、王様(仮)が無表情で腕を組んで言ってきた。だがちょっと待った。この過激スタントは俺の計画ではなく谷川の所為だ。もしあの思い出したくもない部屋に連れて行かれるのだとしたら、それは谷川だけの話であって俺は違うと主張したい。

「しかし実際にぶつかったのは君であろう?」

 それは確かにそうなのだが、しかし!

「まぁ二人の処理についてはまたあとで考えよう」

 そんな理不尽な!

「さて、まだ一人来ていないようだが、まぁいつものことだな。説明を始めるとしよう」

 俺の悲痛の叫びを完全無視の方向性で話し始める王様(仮)。この会議のあとの俺の処遇については身の安全を諦めるものとして、俺が最後の一人じゃなかったのか谷川?

「俺はてめぇが来れば会議が始まるって言っただけで全員集まったとは言ってねぇ」

 全員集まらなくて会議を始めてもいいのか?

「あの人はこういう会議には一切来ねぇ。じじいもそれ知ってっからあの人が来なくても会議始めんだ」

 あの人?谷川が言うにしちゃ随分と畏まった言い方だな。

「当たり前だ。姉御は唯一俺が尊敬してる人だ」

 会議に参加しないような人なのにか?

「普通ならできねぇことをやってのけちまうすげぇ人なんだよ。この会議を欠席し続けることなんて俺だって無理だ。すぐに捕まって強制送還だからな。ところが姉御は捕まらない。というか捕まえられないし、たとえ捕まっても逃げれる人だ」

 逃げることに特化した能力の人なのか?

「そうじゃねぇ。あの人は動くのが見えねぇんだ。というか動いてる時間そのものがない」

 それじゃ結局動いてねぇじゃねぇか。

「違ぇんだよ。動いてるんだが、そうしてる時間が存在しねぇんだよ。だから俺らには動きが見えねぇ」

 まったく、体力バカの言うことは意味が分からない。

「あ? そうとしか言えねぇんだよクソが。喧嘩売ってんのか?」

 いや、俺商売人じゃないし。

「そうじゃねぇ!」

「おまえら、少し黙れ。お仕置き追加な」

「そんな!?」

 そんな!?

「おい、ハモるほどの仲良しタッグのために拷問器具2つほど増やしておけ。じゃぁ今話したイーターの特徴だが……」

 言いながら王様(仮)は再び前を向いた。谷川は何やら白め剥いて放心状態になっている。俺も全身に鳥肌が立っている。そりゃぁただでさえ死にかけるお仕置きなのに、その上拷問器具2つ追加ってことは……いや、考えるのは止めよう。

 谷川はさっき、その姉御という人物が『動いているが、その時間が存在しない』と言った。これはどういうことであろうか。動くが、時間が存在しない。彼女自身は普通に動くのだが、その動いてる過程は俺らの時間には存在せず、つまりは瞬間移動しているように見えるということであろうか。姿が消えて別のところで現れる。ん?なんかついさっきそんな光景を目の当たりにしたような……あ。いや、いやいやいや。それはない。というかあって欲しくない。欲しくないが、しかし────。

「…というわけだ。じゃぁ担当場所についてだが…」

 頭に浮かぶ変態の顔の所為で、王様(仮)の話し声など耳に入るはずがなかった。

評価基準が変わり、現在ファンタジーランキング50位。皆さんの評価・感想・メッセージをお待ちしております。

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