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第四章:その一

 最悪だ。全くもって最悪だ。

 この学校の教育方針は一体どうなってやがる。もし学内アンケートたるものがあるならば、俺はこのことを書いたあげく、さらには大量印刷して計画性のない教師どもに憤怒の申し立てをしてやりたい。

 俺がここまで怒ってるというのも、この学校が入学して三日しか経ってない俺らに対して急な授業変更なんかしやがるからである。いきなり朝のショートホームルームで白川が「今日の国語の授業は、担当の先生の都合により急遽家庭科に変わった。教科書を持ってない奴は他のクラスに借りに行くなりして準備すること」なんてことを言ってきたのだが、そのときの俺のテンションはだいぶ低めであり、「あぁ?」などと言ってしまい、それが内診に響かないかどうか今頃心配し始めた俺である。すぐに、まだ三日目じゃないか、という思考と、高校はほとんどがテストの結果だ、という現実情報が脳裏を同時によぎり、安心したのだが。

 しかし、朝の出来事のせいもあってか、俺の苛立ちはそう簡単には消えず、結局そのまま授業には集中できずに4時間を過ごし、現在調理済意図的箱詰食料集合体(弁当)と格闘中である。それにしても、くそ、塩焼き鮭め、どうせ俺に食われるんだから初めから骨無しでいろ。痛っ。

 ところで今俺はちょっとした異常事態に巻き込まれている。しかもその対象は俺一人なのであって、これが迷惑でなくて一体なんなのであろうか。

 つまり、今俺は他人から見ればお熱い状態春真っ最中、机なんぞくっ付けて二人で昼食を取っているのだが、その相手といえばなんでこうなったか、夢矢瑠璃である。

「何よ、美少女と昼食取れるのがそんなに嬉しいわけ?」

 本当の美少女は少なくとも自分をそう呼んだりはしない。確かに顔はいいのだが。

「まぁいいわ。とにかくさっき話したことを整理するわよ。今週の日曜日に未来人探索をするわ。以上」

 整理するも何もそれ以外何も言ってなかったじゃねえか。つーか未来人言うな。大声で。

「はン。何を隠す必要があるのよ」

 ありすぎて反論する気も失せるくらいだ馬鹿野郎。あぁ、クラス中の視線が痛い。違う、違うんだクラスメイト達よ。これは何かの間違いだ。

「何ごちゃごちゃ言ってんのよ。それより集合場所と時間だけど、駅東口前午前10時集合。分かったわね?」

 分かるかそんなの。第一、俺に予定があったらどうする気だ。

「無いんでしょ?その口調じゃ。じゃ決定ね。覚えられないならメモっときなさい」

「了解」

 突然真後ろから声がしたので振り返ってみれば、そこにいたのは真剣な顔で安物のメモ帳にカリカリとシャーペンを走らせている小学校以来の腐れ縁、竜だった。

「よし、完了っと」

 完了じゃねぇ!てめぇメモって何する気だ!

「決まってんじゃねぇか。今をときめく青春ラブストーリー四車線ど真ん中素足激走中の大親友の高校生活少々早すぎるんじゃないか初デートを尾行・調査するつもりだ」

 馬鹿のアホ発言に対して突っ込むべきところが何箇所か見つかったのだが、ここは敢えてどれも追求せず、そのかわり馬鹿が誇らしげに持っている大量小型用紙を奪い取り、

「…………!」

 無言で何のためらいも無く一気に破り捨てた。

「ぐぁ!?俺の“妬み満天奴逆襲用弱みを握ってやるぜ!”ノートがぁ!?」

 馬鹿が訳の分からないことを言っているので、俺はその略してネタ張を完膚なきまでに粉々に破り捨てた。できるかぎりの無表情で。

 両手両膝を地面につけてわなわな震えだした馬鹿は放っておいて、本題に移ることにする。

 しかし、行きたくないと言ってのけるのはもう骨折り損のくたびれもうけだということが分かった俺に何ができるのだろうか。

 妥協である。とりあえずここは一度やらせてくれ、

「はぁぁ……」

 うむ、ため息をつくと擬似的にだがすっきりした気分になれる。

 そんな俺の色で示せば紫と黒を混ぜて酷くしたような吐息と同時に昼休み終了5分前の鐘が鳴り、これまた同時に瑠璃は勢いよく机を離し、元の位置に戻した。

 瑠璃はそのまま席にどかっと座ったのだが、なんでずっとニコニコしてんだこいつは。何がどうおかしくなって発言した張本人よりも話を聞いた被害者の方が気を落として周りに気を配らなきゃいかんのだ。そのポジティブシンキングを俺にも分けて欲しいものだ。余計な脳内情報はいらないが。

 まぁ何はともあれ、次の授業は問題になった家庭科である。苛立ちに妥協して他クラスから借りて来た教科書を使うときがようやく来たようだ。早く準備しておこう。

 先生がドアを開けた直後、なんとなく気になって後ろを見てみれば瑠璃はまだニコニコ顔だった。


 何事もなかったかのように授業を始めた家庭科教師に対し、妥協を重ねに重ねた俺にはもう苛立つとかそんな感情は起こらず、ただただ無感動に板書を写す作業を二時限に亘り続けていたら、時経つのいと速し、もうすでに帰りのショートホームルームである。

 曜日にして木曜日。重要な連絡等は金曜日に大量にやってくるのが一般的な学校の(なら)わしであり、どうやらこの学校もその方針を取り入れているようで、結果ホームルームはカップラーメンにお湯を注いだ後いい感じにふやけてくるまでの時間ほどで号令が掛かり、即帰りとなった。

 終わってみて気づいたのだが、俺は今日一日で感情をいくつか無くした気がする。だがそれを取り戻そうなんてことは面倒だから妥協しよう。あぁ、妥協が癖になってしまった。

 俺が机の中にしまっていた教科書類を鞄に捻じ込んでいると、突如肩を叩かれた。

 過去一回の経験から予測するに、これは何か良くないことの前兆である。どうする、振り向くべきか。

 俺は恐る恐る背後に振り向き、そこに立っている爽やかスマイルを見て、正逆のどんよりとした気分になった。

「おや、何か悪いことでもしたでしょうか」

 そうやって俺の後ろに立つことそのものが悪いことだ。

「なるほど。13が付く某ハードボイルドマンガのマネですね。彼のセリフ有名ですよね。『俺とうじ虫誰だぁ!?』でしたっけ?セリフだけ聞くとまるで精神異常者ではないかと思いますが、その本性は第一話からブリーフ一枚で夜景を眺める変態スナイパーですよね。腕は確かだと聞きましたが、一体何の腕なんでしょうか?」

 突込みどころ満載だな、おい。とりあえず言っておくと『俺の後ろに立つなぁ!!』だ。後半合ってるような合ってないようなだが、未来人の付け焼刃の知識だろうから大目に見てやろう。

 で、何の用だ。

「おっと、危うく本題を忘れてしまうところでした」

 忘れてしまえ。どうせろくなことじゃない。

「まぁまぁそんなこと言わずに。単刀直入に聞きますが、今週の土曜日、空いてますか?」

 土曜日、土曜日土曜日……。瑠璃にこじつけられた一方的な約束は日曜日。しまった、何も予定がない。くそ、そんな馬鹿な。

「なんで予定がないことをそんなに悔しがるんですか……。まぁいいです。そんなことより、今週の土曜日の午後2時36分までに、駅前に大型デパートがありますね?その西側出入り口前からデパートから見て左に向かって直進し、二つ目の交差点にあるファミリーレストラン前に来てください」

 ま、まて。そんな一気に言われてもちゃんと行ける自信ないぞ?というか行くかも分からないぞ?

「大丈夫です。あなたは結果的に行くことになります。僕は30分ごろまでには行くつもりなのであなたがそこでしている用事を終えたら落ち合いましょう。というか必然的に落ち合うんですけどね」

 結果的?用事?必然的?全部知ってるような言い方だな。どういうことだ。

「詳しくは機密事項ですので言えません。ただまぁ、そうですね、僕があなたが言うところの未来人だからということで手を打って頂けないでしょうか?」

 手は打てないし、何より釈然としない。しかし、こいつは秘密にしてることは何があっても話さない奴だというのは先日の階段尋問で直感的に明らかになっている。だからここは仕方なく妥協だ。……あぁ、まただ。

 俺は言葉の代わりに片手を挙げることで、再び持ちかけられた一方的な約束に返事をした。すると某は一度笑みを深くし、そのまま踵を返すと、スタスタという擬音語がまさにぴったり当てはまる歩き方で教室をあとにしていった。

 気付けば教室にいる人物は俺一人だけとなっており、そのことに対しても再びため息をついた俺は、気力を失った猫背のまま今度はとぼとぼという擬音語がぴったり当てはまる歩き方で教室をあとにした。

いつのまにか読者数が2000をゆうに超えていました。読んでくださっている皆様、(まこと)にありがとうございます。これからも粉骨砕身の努力……とまでは行きませんが、がんばって更新していくのでよろしくお願いします。評価・感想・メッセージお待ちしております。

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