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第三章:その四

「なんかてめぇと俺でタッグ組むことになっちまったが、あの糞白髭ジジイの言うことだから気にすんな。意識するこたねぇ、必要なときは呼ぶから普通に高校生やってろ」

 そう言い終わるや否や、谷川は右足を軸に後方180度回転。そそくさとアスファルトを夕日に向かって歩いていってしまった。

 さて俺はどうするかなどと考えたところで、選択可能な解答は“帰宅”の二字熟語に限定されているため、言葉通りの行動を実行するより他ない。

 俺は無駄にしつこく残り続けようとする陽光を背に、再び帰宅の家路を歩き始めた。


 あの後(思い出したくもないお仕置きのことである)いつの間にか意識を失っていた俺が目を覚ますと背中に柔らかい感触があり、何事かと振り返るとそれはベッドで、そこでようやくお仕置きが終わったのだと理解した俺は、追憶による身震いと既過による安堵のため息とを同時に行うという高等技術を行った。

 横を見ればまだ谷川がうなされており、これからは発言に注意しなければ、と新たな心の教訓ができたのは収穫というべきなのだろうか。本来ならあってはならないものな気がしてならない。

 しばらくすると谷川はベッドから跳ね上がるように起き、

「……はっ!!ぱ、ぱぱぱ、パイナップル!?」

 などと訳の分からないことを叫びながら両手の肘を90度にして80年代のおもちゃロボットのようにカクカク上下させている。余程辛いお仕置きだったのだろう。お気の毒である。

 谷川はその状態で部屋を2〜3周ほどすると元に戻り、しかし俺のことを見るや否や頭を抱えて俺に背を向け何やらぶつぶつ言い出した。忙しいやつだ、本当に。

 その後すぐに兵が一人部屋に入ってきて谷川を見て可哀想なものを見る目になったあと、俺に、少し訓練をしましょう、と言ってそのまま郊外まで連れていかれた。

 出てくる小動物、もといモンスター達を倒しているうちに力の制御ができるようになってはきたが、狙いの正確さにまだ自信がない。

 そのうち慣れますよ、と言われて城まで帰ってくると、さすがにもう谷川の精神状態は普通に戻っていた。

 だが、俺を見つけると狼時に負けず劣らずのスピードで俺に詰め寄ってきて、

「てめぇ向こうの世界でさっきのことぜってぇ言うんじゃねぇぞ」

 と鬼のような形相で言ってきたのだが一体何のことやら。

 その後兵のひとりから俺の二丁拳銃専用のホルスターを渡され、それを腰に巻き拳銃を指した状態で元の世界に戻れば、次この世界に来たときホルスターと拳銃が装着された状態で存在することができる、と言われたので素直にそうした。

 あとは来たときと(たぶん)同じ方法でこの世界へと戻り、冒頭の部分へと続くというわけだ。

 それにしても、今はずいぶんと落ち着いている。人間の環境適応能力というものは計り知れないな。まだ非日常に足を踏み入れてから二日だというのに、昨日と今日では精神的な部分がかなり違う。

 こうなったらもう並大抵のことじゃ驚かない自信がある。普通のサプライズよ、どーんと来たまえ。

 さて、そうこうしているうちに家についたな。さすがに家の中まで非日常は侵食していないだろう。

 俺は一度ため息をつき、ふと学校の方に視線をやると、何やら青い光が一瞬屋上付近に瞬いた気がしたのだが、どうせ谷川か某か気のせいのいずれかだろう。明日にでも何があったか聞けばいい。

 俺は誰もいないアスファルトに向かい一度肩を竦めると、開きなれたドアを開け、中へと入っていった。


 現在時刻は8時10分。場所は開かれた門の前であり、門の横の表札には“朗安高校”と書いてある。言わずもがな通学途中である。ほぼ完了してはいるが。

 来る途中であるひとつの事柄が脳裏に浮かんだ。時間旅行者某も正義組織一員狼野郎谷川も、どちらも一昨日俺に自己紹介してきたやつなのである。これが偶然でないとすれば(というかもはや必然としか思えないのだが)、俺に自己紹介してきたもう一人の黒縁幅広メガネ、張とかいうあの男も非日常人種の可能性が高い。というかきっとそうに違いない。

 根拠無しの完璧な推測を脳内で何度も繰り返しながら教室のドアを開ければ目的の人物はすぐに見つかった。

 距離的には今いるこの入り口から10歩も掛からないはずだ。さぁその正体を暴いてやるぞ、このナルシストメガネめ。

 だがそんなたった数歩の間、忘れた頃に出現する奴がいた。

「何ニヤニヤしてんのよ気持ち悪い。それとも何?ようやく認める気になった?」

 夢矢瑠璃である。

 そういえばこいつも一昨日俺に自己紹介してやつの一人だが、こいつはたぶん非日常人種ではない。こいつで非日常なのはその爽やかな頭の中だけだろうし、そうでなくともこいつが当事者ではないのは一昨日の会話からも明確になっている。こいつは未来人に‘会っただけ’なのだから。

 とにかく邪魔だ。おまえに用はない。

「ふん、何よ偉そうに。あーそうですか。わかりましたー」

 瑠璃はもう一度、ふん、と分かりやすく拗ねて自分の席へと戻っていった。

 余計な邪魔が入った。残り時間は5分ほどしかない。急がねば。

 俺はそのまま行けばおそらく競歩世界記録を塗り替えられるだろうばかりの速さで張の机の前まで行き、回りの奴らが聞いてないのを確認してから、無表情にこちらを見上げるメガネ面に顔を近づけなるべく小さな声で言った。

「で、おまえはどんな属性を持ってんだ?」

 張は肩眉をピクリと上げ、

「何を言っているのか分からないな。文脈を通して喋りたまえ」

 くそ、昨日も少し思ったのだが、こいつやはりムカつく。

 いや、だが今のは確かに俺が悪い。あれで理解し、答えろという方が無理だ。

 俺はもっとわかりやすく、かつ周囲のやつらにはばれないようにするにはどうしたらいいかを考え、再び小声で言った。

「お前も某や谷川みたいな人種なのか?」

「張君は一般人ですよ」

 答えは意外なところから来た。

「彼は僕らの一般人としての協力者です。主に資金方面での。いろいろな裏での手回しも彼にやってもらっています」

 声のした方を向けばそこには相変わらずの目を弓にした笑顔の持ち主がいた。

「ふん、私をこいつらのような変質者と同じにされては困る。私は見た目どおりに将来有望、行く行くはわが父の会社を継ぎ、一大企業とグループを統制、繁栄させる義務と能力があってだな……」

 なんだか長そうな話が始まったのでこちらの方に対する意識はシャットダウンすることにしよう。質問に答えてくれそうな奴ならすぐ隣に微笑みながら突っ立ってやがるからな。

 さて、何から聞こうか。そうだなまずは、

「協力者ってどういうことだ」

「はい。僕達時間駐在員はそれぞれの時間に入ったあとは上からの援助を得ることができません。よってその時間ごとに協力してくれる人、または家を見つけなければいけないのですが、そう簡単に見つかるものではありません。そこで僕の先代の方達は大昔の有力貴族達数家系を味方につけることに成功し、その本家の血筋に協力してもらえるよう契約を交わしています」

 時間駐在員?

「あぁ、そういえば教えていませんでしたね。薄々感づいているとは思いますが、僕はこの時間層よりも未来から派遣された、言うなればエージェントといったところでしょうか、まぁそういう感じの存在なのですよ」

 某はまだぶつぶつ言っている張の方を一瞥し、

「彼の言っていることはほぼ事実です。少々自己陶酔してる面もありますが、それでもちゃんと現在に生き残るその家系の長男です」

 だからこいつはおまえや谷川が特殊人種だってことを知ってるのか?

「そういうことになりますね」

「ふん、分かればいい。それより早く席に着きたまえ不良ども。無能な教師がもうすぐそこまで来ている。貴様らと同類にされるなど全くもって願い下げだ」

 くそ、やはりこいつムカつく。

 俺は何か言い返そうとして口を開こうとしたのだが、そんなときにかぎってタイミング良く現れた白川によって何も言い返せず、結局そのまま席につく破目になった。

 悪運強い奴め、お前だって十分変質者だこの野郎。

 俺は席につくと、ハッ、と勢い良くため息をついた。

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