ひとりぼっちな青色の目
本作は、孤独を抱える「氷の女王」と呼ばれる先輩と、どこか冷めていながらも放っておけない性格の少年の交流を描いた物語です。雨の中、傘を差しだすという些細な行動から始まる二人の距離感の変化をお楽しみください。
店の軒先に立つ**結城和樹**は、白に近い銀髪を揺らし、ハニーブラウンの瞳で降りしきる雨を眺めていた。予報通りの土砂降りだ。
帰路につく途中、公園のベンチに人影を見つける。和樹はその姿に既視感を覚えた。
(……まだ、そこにいるのか)
銀色の長い髪、吸い込まれるような深い青の瞳。和樹の先輩であり、学園で「氷の石像」と恐れられる**灰宮山城**だ。感情を見せず、常に怒りを孕んだような冷徹な雰囲気。噂では男子の首を素手で折ったこともあるなんて言われているが、和樹は信じていなかった。
和樹は無言で彼女に近づき、差していた傘を二人を覆うように傾けた。
山城がゆっくりと顔を上げる。その瞳の奥に、和樹は言いようのない「孤独」を見た。
「……自分に何か不満でもあるんですか」
和樹の問いに、彼女は感情を削ぎ落とした声で答える。
「……いいえ」
「じゃあ、なんでこんな嵐の中に座ってるんです?」
「……いなきゃいけないから」
理屈ではない、拒絶に近い答え。和樹は溜息をつくと、手に持っていた傘を彼女に押し付けた。
「なら、これ使ってください。じゃあ」
返事も待たず、和樹は雨の中を走り去った。傘を握りしめた山城は、雨に濡れながら遠ざかる彼の背中を、ただじっと見つめていた。
翌日。学校の廊下は、山城が歩くだけでモーセの十戒のように道が割れた。誰も彼女の視界に入る勇気を持たない。
自席に座る和樹の肩を、陽気な金髪の少年が叩いた。
「よお、和樹さん!」
「……『和樹』でいい、和泉」
「わかったよ、ブラザー。それより試験が近いけど、どうするんだ?」
和樹が「魂が抜けてるぞ」と冗談めかして笑うと、和泉は「勘弁してくれよ」と顔を歪める。彼は和樹の目を隠す長い前髪をひょいと持ち上げた。
「そんな風に顔を隠してないで、ちゃんと出せば彼女の一人や二人できるだろうに」
「興味ないよ。それより、今日は保健室の清掃当番だろ」
放課後、二人は保健室を掃除し、校門へと向かった。そこへ黒髪の快活な少女、**沙羅**が合流する。彼女は挨拶代わりに二人の背中を軽く小突いた。
「だから彼女なんていらないんだ」
ぼやく和樹に対し、和泉は「俺は欲しいけどな!」と笑って先に帰路についた。沙羅が和樹をからかおうとすると、和泉が慌てて彼女の口を塞ぐ。
「あんまり和樹を怒らせるなよ。あいつ、キレると相手が男だろうが女だろうが容赦しないんだからな」
「えー、私には優しいよ?」
その帰り道、和樹は行きつけの店の前で、再び山城の姿を見つけた。
「……俺に用ですか?」
和樹が声をかけると、周囲の通行人が山城の放つ威圧感に震え、道を開ける。山城はバッグから和樹の傘を取り出し、彼に差し出した。
「……返しにきた。あなたのものだわ」
低く、周囲の空気を凍らせるような声。だが和樹は動じない。
「学校で返してくれればよかったのに」
「学校で渡せば、噂になる。……あなたに迷惑をかけたくなかった」
不器用な気遣いに、和樹は少しだけ目を丸くした。「そうですか」と短く答えると、彼女はスマホで時間を確認し、駅の方へと歩き出した。
電車に揺られながら、山城は窓の外を眺める。
(……あんなに普通に、怖がらずに話しかけられたのは初めてかもしれない)
一方、アパートに戻った和樹もまた、独り言をこぼしていた。
「……やっぱり、ただ孤独なだけなんだな、あの人は」
雨上がりの夜、二人の間には、誰にも見えない小さな道が繋がり始めていた。
言葉数の少ない和樹と、誤解されやすい山城先輩。二人のやり取りはどこか冷ややかですが、その根底には優しさが漂っています。和泉や沙羅といった友人たちが今後どう物語に絡んでくるのか、そして山城の「孤独」がどう解けていくのか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




