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タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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9


 結局わたしは医師の勧めにより、二日も城に泊まることになった。

 その間わたしがしていたのはエドワードや王妃に会うこともなく、ただベッドで眠るだけの生活。

 休暇と言っても差し支えない生活は快適で心地よく、張り詰めていた神経をほんの少しほぐしてくれるものであったーーだから油断していたのかもしれない。



 嵐が起きるのはいつも突然だ。

 例えば今日、屋敷に帰るのだと思っていたのにそれがあっさりと反故されるのだから。



「……お父様どういうことです?」

「だから言っただろう。お前はもう屋敷に帰らなくとも良い」


 わたしが泊まっていた客室にやって来た父は顔色一つ変えることもなく、殿下の『友達』としてわたしにこのまま城に残れと告げた。

 



「急にそのような大事なことを言われても困ります」

「お前が困るかどうかはどうでもいい。大事なのはお前がスペンサー伯爵家に少しでも利益を上げるかどうかだ」

「……殿下の『友達』であれば、わたしよりも愛想のいいミアが適任かと思いますが?」

「ああ。私もそう思ったさ。しかしこれはエリザベス王妃とエドワード殿下の意思らしい」



 相変わらずの妹贔屓も此処までくれば清々しいというもの。苛立ちを飲み込む為に努めて冷静に情報を父から引き出そうと質問する。



「エドワード殿下の意思とはなんです? わたしはお茶会で殆ど殿下と会話をしておりませんが」

「だからこそ気が引けたのではないか?」



 投げやりに答える父の関心なんか既にーー否、最初からわたしにはない。


 どうしてこうなのだろうか?


 何度も何度もタイムリープしているのに、両親の関心がわたしに向くことはないし、ミアだけが愛される。わたしがどれだけ努力しても、決して返ってくることのない愛情。その原因がなんなのか何時まで経っても解明できないでいることが悔しくて堪らない。



 用意されたお茶に手をつけることなく、用事は済んだとばかりに立ち上がる父に一体何を言えようか。ガラス玉のように無機質な眼で見られると心が苦しくて、どうしようもない程に泣きたくなる。



(なんでミアだけは愛されれるの?)


 血の繋がった姉妹であるのに、どうして彼女だけが愛されるのか。

 父も、母も、エドワードも、使用人も皆わたしよりも彼女を愛す。


 そして誰からも愛されているミアはわたしだけを嫌うーーその理由を無性に知りたかった。






 一年ちょっとの庶民生活はエドワードの手によってあっさりと幕を閉じる。

 他の人生では国外逃亡したり、修道院に入ったりとあの手この手で逃れようとしていた時期もあったけれど、それらも全て彼が自ら指揮を執って見つけ出された。

 恐ろしいのはわたしが計画を立てた段階で気付かれてしまう時すらあることだ。



(きちんと計画を練らないと屋敷から逃げだすのは却って立場を危うくするわ)



 庶民としての生活は問題ないとはいえ、この先下手にエドワードに勘繰られることは避けたい。

 エドワードはわたしに傷を付けることを極端に嫌う為、捕まっても痛いことはされないが、神経質にわたしを言葉と快楽で嬲りたがる。

 彼のことが好きだからこそ傷付くし、言われる前に逃げ出したい。

 グルグルと思考の渦に囚われていると客室の扉をノックする音が聞こえた。


「はい」

「失礼致します。エドワード殿下の指示により、リリー様がゆったりと休める為の着替えを持って参りました」

「ありがとう。ではお願いしても良いかしら?」


 深々と頭を下げた年若い二人の侍女に身を任せ脱がせて貰うと、途中ピタリと彼女らの動きが止まる。


「どうかした?」

「……あのリリー様。背中に傷があるようですが?」


 彼女の言葉にハッとする。きっとそれはミアがお茶会でわたしの背中をガリガリと引っ掻いていた傷だからだ。

 そのことが表沙汰になるのは醜聞的に宜しくはない。第一、ミアがわたしを傷付けただなんてきっと誰も信じてはくれないのだ。であれば無駄に騒ぎになるのは避けたい。



「虫に刺されて痒くなってしまったものだから、つい自分で引っ掻いてしまったの」

「そう、ですか」


 下手な言い訳だが、所詮今のわたしは『エドワードの婚約者』ではなく、ただの『宿泊人』だ。

 たった一日泊まるだけの子供に王家に仕える侍女が深入りすることもないだろう。


 現に彼女達はまたテキパキとわたしを仕立てていく。無駄のない流麗な動きにぼんやりとしていれば、医師を呼んでくる間ベッドでお休みくださいと通達された。



 そうしてベッドに転がると過去を思い出した疲れも相まって、とろりと眠気が押し寄せるーーこの時わたしは背中の傷が王妃とエドワードに報告されるだなんて夢にも思わなかったのだ。





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