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タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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 エドワードの部屋を出たわたしはまた妹と鉢合わせしないように、大人しく与えられた部屋に戻ることにした。


 部屋まで戻ろうと歩いていると年若いメイドがわたしに気付き、迷っているのではないのかと声を掛けてきてくれた。


 本当は王城の隠し通路だって知っているのだけれど、と内心苦笑するが、よくよく思えば今世で王城で暮らす期間はまだ短いものだ。

 広く入り組んだ王城にまだここにやって来て間もない十歳の子供が一人で歩いているとなると確かに迷子になっていないか心配するだろう。



 快活で明るい彼女は部屋に戻る道のりの間、ついでとばかりに軽い道案内を買って出てくれる。それだけでも彼女の性根が優しいものだと分かり、その優しさが眩しかった。



(過去に彼女と話したことはあったかしら?)



 そう思い至ってーー彼女どころか今まで自分の世話をしてくれた使用人達の顔を思い出せないことに気付き、その事実に青褪める。



(家族の顔は思い出せるのに、どうしてわたし直属の使用人の顔が思い出せないというの?)



 

 確かにここ最近は気持ちが閉塞的になったことで、自ら進んで使用人と話してはいない。けれどだからといって靄が掛かったかのように誰の顔も覚えていないのは不自然にも程がある。


(なんでわたしはこの事実に気付かなかったのかしら。自分が住んでいた屋敷の使用人の顔ですら覚えていないだなんて明らかにおかしいでしょう!)


 使用人の名前は覚えているし、過去に話していた内容も覚えている。

 だというのに顔だけは曖昧で、明確に脳裏に思い描くことが出来ない。

 突然ピタリと足を止めるものだから横で歩く少女はどうしたのかと驚いた様子で此方を見やる。


「あの、貴女の名前を教えて貰っても?」

「ああ、挨拶が遅れまして申し訳御座いません。わたしはサラと申します」

「サラ、ね」



 忘れまいと心の中で何度も彼女の名前を反芻するーー記憶の中で彼女と話したことはない。けれど、それは本当に事実なのだろうかと不安な気持ちになって、自分自身が一番信じられない感覚に足先までも冷たくなる。


 あからさまに口が重たくなったわたしを気遣ってかサラは部屋までの道のりを黙々と歩き、部屋に着けば医者を呼びましょうかと案じてくれもした。

 しかしわたしはそれを断り、その代わり横になって眠って休むわと人払いをお願いする。



 がらんと誰も居なくなった部屋でわたしは自分の記憶に穴がないか――まず最初の人生を思い起こそうとしたのだった。




***





 目を閉じて思い出すのは遥か彼方の記憶。

 擦り消えて朧げになる恐ろしさを回避する為にわたしは久方ぶりに過去を思い返すことにしたのだ。






 わたしの人生の起点はやはり王宮のお茶会に参加した時のことだった。

 まだあの頃のわたしは考えが幼く、自分よりも妹に関心を持つ両親の気をなんとか引きたくて堪らなかった。



(もしもわたしがお茶会で殿下に見染められでもしたら、少しはお父様とお母様はわたしを凄いと褒めてくれるかしら?)



 それは何時か自分の元にも白馬に乗った王子様が現れるのではないか、と少女の頃に誰しもが抱く夢の微睡み。

 現実に対面する機会があっても王子様は自分なんか見向きもしないことは分かってはいる。けれど現実逃避に似た夢を見ることで自分の居場所を得られるのではないかと浅ましく期待してしまう。



 お茶会であるエドワードの風貌は噂程度に聞いたくらいだが、皆一様に褒めちぎっているーーその方に自分が対面出来るとなると高揚から胸が早鳴る。



(早くお会いしてみたい……)


 今日の為に用意された白いドレスはレースがふんだんに使われており、遠目から見ても一等華やかなものであると認識出来る。

 間違いなく自分の持っているドレスの中で最上位に値する。朝早くから幾人ものメイドに髪を結われ、丁寧に丁寧に薄化粧を施されると立派なレディーになったようで嬉しくて鏡を何度も見やった。



 くるりと回ってドレスを靡かせる程に浮かれるさま――それを戻ってきたミアにまさか見られるとは思いもしなかった。



(恥ずかしい……!)



 馬車の準備が出来るまでの僅かな自由時間。王宮へ向かう手筈で屋敷の中は慌ただしく使用人達が駆け回っていて、わたしの支度を終えた彼女達もそちらの準備の応援に回っているから屋敷を発つ時間までは衣装部屋には誰も来ないだろうという油断から、無防備な姿を見せてしまった。

 羞恥で打ち震えているとミアは鬼の首を取ったかのようにニンマリと唇の端を釣り上げる。



「あらあらお姉様は随分とご機嫌ですのね」

「……別にどこかおかしなところがないか見ていただけよ」


 下手な言い訳をすれば尚更彼女は口撃できる材料を手に入れたといわんばかりに嬉しそうに顔を歪ませる。

 父も母も使用人も誰にも見せないわたしだけが知っている妹の素顔ーーわたしが特別だから見せるのだとミアは嘯くけれど、その『特別』は到底嬉しいものではなかった。

 


 



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