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タイムリープn回目。殿下そろそろ婚約破棄しませんか?(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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 涙で濡れた顔を誰にも見られたくなくて、わたしは城にある秘密の抜け道を幾つも通り抜けて、庭の外れにある東屋に引き篭もる。

 皮肉なことに何度もエドワードの花嫁として城で暮らしていた人生が何度かあったお陰で、どこに居たら人に会わずに済むか知っているのは不幸中の幸いなのかもしれない。



(嗚呼、どうしてこんなにも上手くいかないのかしら?)


 実際のところ、わたしがタイムリープしてからまだそこまでの日にちは経っていない。その間に両親と話す機会も殆どなく、ただ無意に時間を過ごしたーーその結果がこれだ。



(だって仕方ないじゃない。わたしだってタイムリープを繰り返していた最初の頃は家族と仲良く出来るように頑張っていたわ。けれど、何度やっても必ず失敗するし、必ず嫌われる。だったらもう最初から何もしない方が無駄に傷付かなくて済むじゃない!)



 誰に言い訳するわけでもなく、自分に言い聞かせる様は根暗そのもの。しかしどうせ此処には誰も居ない。後ろ向きで誰にも好かれない女を見る者は誰も居ないのだ。

 人の目を気にしなくても良いならと靴を脱ぎ捨てて、足を三角に折りたたむ。膝に顔を埋めて自分の世界に引き篭もると少しだけ安心する。



「殿下と友達になんてなれる訳ないのに」


 ポツリと洩れた本音は誰にも聞かせられないもの。もしもそんなこと万が一にでも誰かの耳に入りでもしたらとでも背筋がゾッとする。東屋に入る前に辺りに人が居ないかキチンと確かめているからこそ好き勝手に言えるのだ。



「わたしがミアだったら良いのに」



 重たい溜息を吐き出して今まで口に出来なかったことを呟いた。

 人を惹きつける華やかな風貌に、人に愛される天性の才。どうせタイムリープを繰り返さなきゃいけないのならば、いっそのことミアとして生まれ変わりたかった。



(でも、どうせ中身が変わらなければ結果は一緒か……)



 わたしだって本当は自分が変わらなければいけないことくらいは分かっている。だけど、失敗を繰り返すことで、すっかり自信を無くしてしまったのだ。



「もう死にたくないの」



 死の痛み一つ一つをわたしは覚えている。

 忘れることの出来ない鮮烈な痛みは、わたしが決まって運命に足掻くほどに無残な死に繋がる。




(痛いのは嫌……!)


 この先も繰り返さなければならない死への恐怖を克服することが出来ない。

 震える腕で自分を掻き抱き、眦に溜まった涙を乱暴に擦る――そして俯いた視界の端に、他の誰かの靴先が見えた気がした。





(ああ、もう。なんでこんな所にやって来るのよ)


 分かっている。これが八つ当たりに違いないことを。

 けれど誰も居ないと思い込んでいたから胸に閉まっていた本音を無防備に口から出した気恥ずかしさからどうにも感情が荒れ狂い、早く立ち去って欲しいと願ったが、どういう訳かその人物は立ち去ることなく、あろうことかわたしの隣に腰を下ろす。


(なんで立ち去らないの!)



 せっかく顔を膝に埋めて、乱入者に気付いていないフリをしているのに、その人物もただ黙って座り込むものだから、どうしたら良いのか分からなくて唇を強く噛む。



(……それにしても一体いつから此処に居たのかしら?)


 自分の発言を聞かれたかもしれない危うさに背筋に冷たい汗が流れる。

 だって先程わたしが口走ったのはーー『殿下と友達になんてなれる訳ないのに』『わたしがミアだったら良いのに』『もう死にたくないの』の三つ。

 どれを聞かれたとしてもまずい。


(こんなことならたとえ苦しくとも胸に閉まっておけば良かったわ)


 冷静でなかったとはいえ、溢すべきではなかった本音を口にして聞かれてしまったかもしれないことが恐ろしくて、身体がガタガタと震えるリリーを見て、隣に座る人物は自分の羽織っていた上着を脱ぎ、彼女の肩に掛けた。


「あ、ありがとうございます」


 そのまま口を閉ざしていれば良いものの人の優しさに触れたことでついリリーはお礼の言葉を口にするーーそして『彼』はそれに驚いたように口を開く。


「……大丈夫か?」


 それは何についてのことだろう。

 自分の身に待ち受ける難題の数々が頭に駆け巡ったが、その事実を知らないであろう彼に何を相談出来るというのか。苦悶しながら、のろのろと顔を上げた彼女は彼と視線がかち合う前に()()()()()()()()()()



「ええ。殿下の優しさに触れましたもの」


 王城での笑顔は身を守る鎧となる。そのことを幾度となく経験したリリーは弱みを打ち明けることなく笑うことを選択したーーしかしそれは自分の領域に踏み込ませない逃げに過ぎない。

 やんわりとけれども確かな拒絶を目にしたエドワードは僅かに口端に自嘲を刻む。しかしそれは一瞬のこと。



 十歳の子供らしからぬ昏い表情は刹那の間に切り替えられたことで、リリーは絶対に見逃してはいけないその表情を見逃したのだ。



 

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