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歴代最強の魔女なんて肩書きはいりません。母になって最高に幸せなので愛息と平穏に暮らしたいだけです  作者: もーりんもも


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8/8

8 息子が魔法を使える理由

「ママン!」


 ダニエルも何かよくないことが起こっていると勘付いている。

 笑って、「大丈夫」って言ってあげなくっちゃ。


「ダニエル。ちょっと馬車が揺れているけれど、おじさんが急いでくれているからなの。心配いらないわ」

「……うん」


 どうしよう。上手に微笑むことができなかった。

 それにしてもどこに魔獣がいるのかしら?

 唸り声とかも聞こえないし、姿が見えないんだけど。


「おい! あんた! 手伝ってくれねーか? いつもは野郎どもを乗せているから、万が一の時には手伝ってもらってんだが、今日はあいにく――おっと!」

「あの。本当に魔獣が出たんですか?」

「はぁっ? あ、まあ、そうか。慣れていないと見えねーかもな。普通の人間が魔獣の姿を直視している時ってーのは、死が迫っている時だからな。遠くの異様な砂埃とか、そういうのをいち早く見つけて、後はひたすら逃げる。それだけさ! ほらっ。いざという時のためにあいつらを足止めする肉を積んでるんだ。そこの赤い扉を開けて出してくれ!」


「足止め用の肉?」


 何、その気持ちの悪いワードは?

 豚の頭とか出てきたらダニエルが卒倒しちゃうかもしれない。


「そ、それって、ちなみに何の肉?」

「はぁん? ごちゃごちゃ言ってねーで早く出してくれ!」


 そうね。とりあえずは危険を回避するのが先決ね。


「分かったわ! ダニエル。いい子だから、ほうら、こうやって毛布に包まっていてね」

「うん」


 頭からすっぽり毛布で覆ったダニエルをベンチの端に寄せて、幌と馬車の接合部にある赤い扉を開ける。

 違和感があると思ったけれど、そういう物を入れていたのね。



 馬車が激しく揺れるので、壁をつたいながら慎重に近づく。

 赤い扉を開けるとずた袋が入っていた。

 底の方に赤いシミが広がっている。

 ……え?

 恐る恐る中を見てみると、首が曲がった鶏が入っていた。


「きゃーっ!」

「ママン‼︎」


 ダニエルが毛布を跳ね除けて立ち上がった。


「危ない! ダニエル、座って! ママンは大丈夫よ。座ってちょうだい!」

「う、うん。ねえ……ママン。それなあに?」


 うわっ。床が――床に落としたせいで、床にまで赤いシミが付いてしまった。


「おい! 何しやがる!」

「な、何って――これ――」


 扉が赤い理由が分かった。

 エマージェンシーではなく、血を隠すためだ。

 

「今朝締めたばっかりなんだぞ! せっかくいきのいいのを持ってきたってのに!」

「知らないわよ!」


 ペリーは御者台で、「くそ」を連呼している。


「くそっ! ついてねーな! あーくそっ!」


 本当に口が悪い人だわ。子どもの前で汚い言葉遣いは止めてほしい。


「やべー‼︎ おい! もう見えるだろ? 近づいて来たら、そいつを投げてくれっ!」

「え?」


 慌ててダニエルの頭に毛布を被せて外を見てみれば、本当に魔獣がいた。

 しかも予言したかのようにべウルフだ!


「ねえ、ペリー。聞きたくないんだけど、ベアウルフは三体よ? この、コレなんだけど。一羽しか入っていないわよね? 三体のベアウルフを足止めできるの?」

「聞かねー方がいいぞ!」


 やっぱり?

 でも、どうするの?

 運よく一体を足止めできても残りの二体は?


「どうする気? まさか――まさか――私とこの子を――」

「おい! アンタ何を想像してんだっ! そんなことする訳ねーだろ!」


 ガルルルルー。


「ママン?」


 ベアウルフの唸り声が聞こえてしまった。

 ダニエルにはこんな怖い体験をしてほしくなかった。


「馬車に飛び乗って来そうになったら投げろ! もう少ししたら小さな村がある。そこは魔獣対策の防壁があるから、逃げ込めればオレたちの勝ちだ!」


「わ、分かったわ」


 グルルルル。


 ベアウルフが狙いをすましているのがわかる。

 飛び乗ろうとしているんだわ!


「そうはさせないわよ!」


 床を這ってずた袋を掴むと、真ん中のベアウルフめがけて投げつけてやった。

「アウ」というような情けない声を出して立ち止まると、そいつはずた袋ごと牙で割いている。



「一体は足止めできたみたい!」

「よくやった! 後は馬車から落ちないようにしがみついていろ!」

「分かったわ!」


 馬も捕食者が迫っていると本能的に分かるのだろう。

 信じられないくらいのスピードを出している。 


「ママン?」


 毛布をかぶっているのが我慢できずにダニエルが顔を出した。


「ダニエル。大丈夫よ。大丈夫だから――きゃっ」

「ママン‼︎」



 ダニエルは反射的に私を庇おうとしたのかもしれない。

 ガタガタと大きな音を立てて揺れながら走る馬車の中で立ち上がって私を抱きしめようとした――その時だった。


 馬車が一際(ひときわ)大きく揺れた。

 車輪が大きな石を弾き飛ばしたのかもしれない。

 ダニエルの両手は空を掴んで、そのまま床を転がっていった。


「ダニエル‼︎」

「ママン‼︎」


 嘘でしょ! 嫌よ! 嫌だ!

 小さな子どもの体が弾むように床を転がり馬車から落ちると思った。


「ダニエル‼︎」


 手を伸ばしたのに届かなかった。

 ダニエルは馬車から放り出された時、しっかりとベアウルフを見ていた。

 そして彼が地面に叩きつけられる前に、ベアウルフに向かって、「しっしっ」と、まるで犬でも追い払うような仕草をした。

 子どもなりの本能的な自己防衛?

 それを見た瞬間、私の中で何かが勝手に発動した。




 獲物が落ちてくると思っていたベアウルフたちは、予想に反して強い衝撃波を受けて後方へ弾け飛んでいった。


 …………‼︎

 そして、その衝撃波を発した反動でダニエルの体は再び馬車の中へと戻ってきた。

 それら全ての出来事が私の手の中にあると感じた。

 …………どういう意味?

 いや……意味なら分かる。なぜか知らないけれど分かる。



 ダニエルが魔法を発動すると分かったので、広範囲に結界を張ったのだ。

 その結界の発動も、結界解除後の残滓も完璧に消した。

 露見は免れたはずだ。


 何なのこれ――私――何でこんなことができるの?



「おいっ! 今、何をした! あ、あんたら――まさか――」


 いつの間にか馬車が普通のスピードに戻っている。

 魔獣の姿はもう見えない。

 ペリーは、「ああくそっ」と独り言のようにぶつぶつ何かを言っていたが、振り返って私を見ると見当違いことを言った。


「アンタ、どこぞの貴族のお手つきだったんだな。いやいい! 何も言うな! 貴族とのゴタゴタに巻き込まれたくないからな!」


 失礼な!

 ダニエルは正真正銘、私とエイダンの子どもです!

 あーでも、まあ、そうか。

 私は貴族だった。

 あら? だからダニエルも魔法が使えるの?

 待って。待って。私もさっき魔法を使ったよね?

 何気に凄い魔法だった気がするんだけど……?

 貴族だから――なのかな。



 打ち解けたと思ったペリーだったけれど、それからは会話らしい会話はなくなってしまった。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 夕暮れ時にサファール自由区に到着した。


「じゃあな。オレはここまでだ」

「ありがとうございました。道中お気をつけて」

「ああ」



 後味が悪いけれど仕方ないか。

 それよりも宿を見つけないとね。

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