7 旅の始まり
誤字報告ありがとうございます。
「さあ、ダニエル。今から冒険の始まりよ! 『冒険に出たい』って言っていたでしょう?」
「え? うん……でも。パパンにあいにいくんでしょう?」
「……。あのね。パパンの願いはダニエルが幸せでいることなの。だからダニエルが冒険に出てワクワクしているって知ったら、とっても喜ぶと思うの。だから何も心配しなくて大丈夫。ママ――お母様と一緒に冒険に出ましょう!」
「うん! わかった!」
世のお母様方は子どもにどんな風に説明しているのかな。
でも今はまだ、私自身、エイダンの話をしたくない……。
ごめんね、ダニエル。
◇◇◇ ◇◇◇
旅行中はあまり綺麗な格好をしない方がいいので、食料品店のトイレを借りて元のヨレヨレの平民の服に着替える。
異世界って絶対に治安が悪いと思うから。
馬車乗り場はすぐに分かった。
道沿いに馬車がたくさん並んで停まっている。
御者に順番に尋ねていこう。
「すみません。サファール自由区に行きたいんですけど、どの馬車になりますか?」
「あぁん?」
うわっ。ガラの悪い人に当たっちゃった。
「そんなガキ連れて大丈夫か?」
可愛いダニエルをガキ呼ばわりするとは許せない。
「大丈夫です。ご存じないなら結構です」
「待てよ。気が短ぇ女だな。サファール自由区行きなら五日後だ。だけど一人小銀貨五枚だぜ?」
ほほう。運賃の情報は助かる。ぼったくられないように注意しよう。
でも五日後かぁ。宿を探す必要があるなぁ。
「それはご親切にどうも」
踵を返したら、「ちょい待ち」と引き止められた。
「何か?」
「金があるなら貸し切りって手があるぜ?」
お‼︎
それは願ってもない。
ダニエルのために休憩をたくさん取りたいもの。
「つまり、時間通りに決まったルートを走る馬車以外に、目的地も出発時間も自由に決めていい馬車があるっていうことね?」
「ああ、そうだ。ちなみにその自由な馬車は、今日はオレのだけだぜ?」
つまり、客として乗っていくかどうかって尋ねているのね。
うーん。
改めて御者台に座っている男を観察すると、ガタイのいい体に四角い顔がのっかっていた。
前世の『スポーツ刈り』みたいな短髪で、意外にも髭は剃ってある。
ニカッと笑った顔は悪人ではなさそう。
「あんた、ついてるよ。オレは普段なら南の担当なんだが今日は客がいなくてな」
じゃあ、私の話を聞いて、急遽『目的地自由』に変更したっていうこと?
まあ、商売人として逞しいっていうことか。
今日出発できるなら、それに越したことはない。
「ええと。料金だけど――」
「おっ! 乗ってくかい? 乗り合いの馬車で二人だと銀貨一枚だから、貸し切りだと五割り増しなんだが、まあ、二割り増しにまけてやってもいいぜ」
おいおい。子どもが大人と一緒な訳ないでしょう?
「随分荒っぽい料金設定じゃない?」
「どこがだよ」
「こんな小さな子が大人と一緒の料金なはずがないでしょう?」
「あんた町を出て行く馬車に乗ったことがないのかい? 膝の上に乗せる乳飲み子以外は大人と一緒の料金って決まってるぜ?」
え? そうなの?
嘘を言っているようには見えないけれど。
「子どもを連れて大変だろうから、まけてやろうっていうのにさ」
「そうねぇ……」
ま、お金はあるからいいか。
「じゃあ、お願いするわ。それと、小さい子どもが一緒だから、まめに休憩をとってね」
「ああ。任せときな」
交渉成立。
幌付きだから雨も大丈夫そう。
馬車の中は、向かい合うようにベンチ型の座席が設置されていた。
トランクから毛布を取り出して敷き、その上にダニエルと二人で座る。
「出していいか?」
「ええ。お願い」
カタカタと小刻みな振動はなんだか懐かしい気がする。
そういえば私はこの異世界で貴族の家に生まれたんだった……よね?
馬車にも乗ったことあるよね?
まだその辺の記憶がぼんやりと霞がかかったよう。
「ねえ、ママン」
「『お母様』でしょう?」
「そうだった。おかあさま。ぼくたちドラゴンをやっつけにいくの?」
「うふふ。大丈夫。まだまだ初心者だから、ドラゴンがいるところには行かないわ。せいぜいベアウルフくらいよ」
「そっかー」
息子と他愛のない話をしていたら、「おいおい、勘弁してくれよ! そういう不吉なこと、言うもんじゃないぜ」と前方から男性が割り込んできた。
「ちょっと! よそ見しないでくれる?」
「はぁ? そんな邪険にしなくてもいいだろう? オレはペリーだ。あんたは?」
「マリラよ。この子はダニエル」
「おじさん、こんにちわ!」
「おっ! ちゃんと挨拶できたな。立派だぞ」
あら?
「あなたもお子さんが?」
「ああ。坊主よりも大きいがな。あっという間にでかくなっちまって。最近じゃろくに話もしねえ」
わあ。思春期かな?
ダニエルもそんな時期がくるのかな。
ダニエルに無視されたら、寂し過ぎて泣いてしまうかもしれない……。
でも、そうだったのか。
ペリーも子育ての経験があったから、本当に親切で私たちを乗せてくれたのかもしれない。
◇◇◇ ◇◇◇
その後も、ペリーはちょこちょこ話しかけながら、私たち親子の様子を伺ってくれた。
ダニエルもすっかり懐いて話しかけている。
「ペリーはドラゴンをみたことある?」
「ドラゴンを見て生き残ったヤツは知らねーな。間違っても会いたいなんて思うなよ?」
「えー? どうして? あ、そっか。けんがなきゃたおせないんだった!」
「そうそう。お城の騎士団長様みたいな強い人じゃなきゃ倒せないんだぞ」
それは違う。あの騎士団長は飾り物だから、とてもドラゴンなんて倒せやしない――――って、え? え? 何でそんなこと思うの?
「ちきしょう! 本当に出やがった!」
私が内心でパニックになっていると馬車が急停止した。
慌ててダニエルを抱き抱える。
「すまねー。子どもは無事か?」
「ええ! それで? 何なの?」
「魔獣だ!」
……え? 本当に魔獣が出たの?
ええと……これ……こういうの、なんて言うんだっけ?
言霊だ!
『ブックマーク追加』と下にある☆☆☆☆☆評価をよろしくお願いします!




