6 【アリソン視点】あの大罪人が生きていた?
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マリラが小さな町で息子とタルトを食べていた頃。
王都にある大きな屋敷の一角で、筆頭魔女アリソンが、目の前で片膝をついて報告している男性を睨め付けていた。
「……よく聞こえなかったわ。モゴモゴ言っていないで、はっきりと明瞭に報告なさい!」
「はっ、はひっ」
「返事もろくにできないの?」
「……ひっ……ひっ」
国王が座る玉座を真似て作ったのかと思うくらい豪華な椅子の背もたれから背中を離し、前屈みになったアリソンが呪文を唱えようとしているのに気付き、彼女の横に控えていた序列二位の魔女コニーが「コホン」と小さく咳払いをした。
「魔女様。魔女様の威圧が漏れ出ているせいで使者がしゃべれないようです」
「あら、そう」
今にも泡を吹いて倒れそうな男性の様子を見て、アリソンは気を鎮めた。
そして、これまた王笏を真似たような長い錫杖でガツンと床を叩き、深く座り直した。
「それで? 何ですって?」
「は、はい。序列二十位の魔女フェイ様が、東方の視察に向かわれまして――」
「そこは聞いたわ! その後何と言ったの!」
「はっ、はい。タイル地方を通った際、先の筆頭魔女様の魔力に似たものを感じた――ような気がしたと」
『先の筆頭魔女様』と聞いた途端にアリソンが醜く顔を歪めたため、使者は唇を震わせてつっかえたが、何とか最後まで言い切った。
「では、あの大罪人が生きていると?」
「いやっ、いえっ、あの。そ、それは――。フェイ様も気のせいかもしれないとのことで。ただ、疑念を感じた以上は魔女様に報告する義務があるとお考えで――」
「黙りなさい!」
ああ、黙っていいんだと、なぜか使者が安堵するのを見て、コニーは小さくため息をついた。
序列二十位についている従者はこの程度の者かと。
「魔女様。序列二十位の魔女が何となく感じたまでのこと。はっきり確認もしないで魔女様のお耳に入れるとは許し難い怠慢です。あの大罪人が塵一つ残さず消滅した様は、私もしっかりと見届けております。捨て置かれるのがよろしいかと思われますが、フェイを処分するにも証拠が必要でしょうから、手の空いている者を派遣して勘違いだったことを確かめさせましょう」
コニーの進言に気を良くしたアリソンは、「シッシッ」と使者を下がらせてから、改めてコニーに問うた。
「それで? 誰がいいかしら?」
「フェイより上の――そうですね、序列十位の魔女サラが適任かと」
「そうね。ではサラには、フェイと落ち合って彼女から詳細を聴取した上で、二人でタイル地方をくまなく調査するよう命じなさい」
「はい。それではそのように。以後、この件は私が預かりますので、詳細が判明次第ご報告させていただきます」
「頼んだわよ」
コニーが深々と首を垂れて退出した。
◇◇◇ ◇◇◇
執務室で一人になってホッとするなど、まるであの大罪人のようだ。
「はあ。それにしても今更こんな不愉快な話を聞くことになるとは。本当に忌々しい」
窓の外を見ながら錫杖を軽く振った。
庭木が数本、縦に裂けて燃え上がった。
後始末は使用人がするだろう。
一度胸中に燻ったものは吐き出さなければ収まらないのだ。
「ふう」
今や体の一部のように感じられる錫杖を見て、不意にあの大罪人と交わした過去のやり取りが蘇った。
『あなた。実家のオルデンバーグ子爵家に援助を断られたんですって? 実家に捨てられて入ってきた口なのに、随分と余裕のある態度だこと』
『実家に捨てられたのは本当ですが、援助はもともと期待していなかったので、そもそも打診すらしていません。ですから、断られたというのは違います』
『は? 何よ。でもお金がないからそんな短い棒切れのようなものを使っているんでしょう?』
『いいえ? 魔女といえばこれくらいの杖だと思ったまでです。別に杖の長さで魔力が変化するものでもありませんから』
『……!』
最初は他の魔女たちもアレの短い杖を笑っていたのに。
アレの序列が上がるにつれて、魔女たちがこぞって真似をして短い杖を持つようになった。
長い杖に固執した私が馬鹿に見えるほどに。
『あなた。序列が私より上だからといって、年齢も家柄も私の方が上なのよ。だから敬意をもって接しないさいよ』
『……? 魔女は序列が全てと教わったのですが。でもまあ、家柄はともかく、年齢が上の方に対して敬語を使うことに抵抗はありません』
『そ、それならこれまで通り私には敬語を使いなさいよ』
『いいですよ』
『それのどこが敬語なのよ!』
『ええと。あ、そうか。この世界の敬語の定義と私が知っている敬語の定義が違ったみたいです。言い換えますね。アリソンさんに対しては丁寧な言葉を使うようにします』
ああ嫌だ。思い出したくもないのに鮮やかに蘇る。
アレの嫌がらせだろうか。
死んでなお、こうも私をイラつかせるとは。
他人の記憶に己の存在を刻みつけるなんて!
「いつもそう! この私を見下して偉そうに!」
ああ――キャスリーン・オルデンバーグめ!
いまだに歴代最強の魔女として、その名を轟かせている。
あんな地味な女がどうして強大な魔力を得るに至ったのか、せめて殺す前にそれだけは聞き出したかったけれど。
しかも、『筆頭魔女の証』までもがあの女と一緒に消滅してしまった。
それだけは返す返すも悔やまれる。
証をもたいない私を、聖霊王の加護がない魔女と看做す者もいる。
……悔しい!
そんな感情に、やっと折り合いをつけた頃になって……フェイめ。
たかだか序列二十位が、この私にストレスを与えるとは何事か!
それにしても、タイル地方と言った?
貧しい平民たちが住むエリアだが、アレには縁もゆかりもないはず。
どうしてそんなところで、それも五年も経った今になって……?
ふぅ。落ち着くのよ、アリソン。
筆頭魔女として、宰相と共に国王陛下の相談役を務めているのだ。
魔女たちも皆、私の支配下にある。
何も心配はいらない。
全ては私の手の中にあるのだから。
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