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歴代最強の魔女なんて肩書きはいりません。母になって最高に幸せなので愛息と平穏に暮らしたいだけです  作者: もーりんもも


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5 現金化してカフェへ

 一番賑わっている通りを歩いていると、宝石店があった。

 買取は古物商かもしれないけれど、聞けば教えてくれるわよね。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ」


 やはり初対面だと見た目が重要だな。着替えておいてよかった。

 

「少しお尋ねしたいのですが、よろしいですか?」

「はい。何なりと」

「実は宝石をいくつか持っているのですが、こちらの店は買い取りもされているのかしら?」

「買い取りですか。まあ、物によりますが」

「あら。では見ていただけないかしら」

「承知いたしました。ではこちらへ」


 店の奥の対面ブースのようなところに通されたので、ダニエルを座らせ、ポケットから皮袋を出す。

 さっき着替えた時に小ぶりな宝石を三つばかり選んで、すぐに出せるように準備しておいたのだ。


「では、拝見します」


 店主がルーペを取り出して宝石の鑑定を始めた。

 断片的な記憶の情報しかないけれど、最上級ではないものの、おそらくかなりいい物だと思う。

 店主がルーペと宝石を置いた。


「まずまずの宝石ですな。これでしたら買い取りは可能です。銀貨五枚といったところでしょう」


 今の私には宝石の真価は分からない。

 でも子連れで宝石を売りに来た時点で、足元を見られているはず。


「そんなはずはありませんわ。これは私が結婚する時に、母が持参金とは別に持たせてくれた大切な宝石です。そんな安物のはずがありませんわ」


 世間知らずの奥様なら疑問を抱かずすぐに承知すると思っていたのだろう。

 言い返されて驚いている。


「しょ、少々お待ちください。もう少しよく見てみますので」


 答えは出ているはずなのに、店主はもったいつけて時間をかけた。


「ふむ。では金貨一枚でいかがでしょう?」


 それでもきっとまだまだ低いわね。


「金貨三枚にはなると言われておりましたのよ?」

「奥様。宝石といえども価値は永遠ではございません。流行もございますし。本日は縁あってお越しいただききましたので、金貨二枚で買い取らさせていただきます。当店ではこれ以上は無理です」


 まあ、いいでしょう。


「承知しました。ああ、それから。金貨は一枚だけにして、あとは銀貨を九枚と小銀貨十枚にしてちょうだい」

「仰せのままに」


 金貨二枚ですって!

 親子三人が一年遊んで暮らせる額よ!

 


 さも当然という顔を作ってお金を受け取ると、いそいそと店を出た。

 足早に移動して、十分離れたと思うと、やっと息ができた。


「ママン。どうしたの?」

「なんでもないの。それと、おかあさまでしょう?」

「あ、そうだった。おかあさま」

「そうそう。忘れないでね」

「うん」

「じゃあ、おやつにしましょうね」

「うん!」



   ◇◇◇   ◇◇◇



 カジュアルなカフェに入ると、やはり丁寧にもてなされた。


「奥様。あちらの奥のテーブルはいかがでしょうか」

「ええ。お願いするわ」


 若いカップルと家族連れで賑わっている様子を見ると、エイダンのことを思い出してしまった。

 親子三人で来てみたかった。

 エイダンとは、こんな風にメニューから選んで注文する店に一緒に入ったことがない。

 二人でデートしたかったな……。


「ご注文はお決まりですか?」

「ええ。このおすすめのタルトと紅茶を二つずつください」

「かしこまりました」


 ダニエルが若い店員の女性に釘付けになっている。

 まあね。村の誰よりも綺麗な制服を着ているんだものね。


「町ではみんな綺麗な服を着ているのよ」

「すごいね。ぼくのこのきゅうくつなふくもきれい?」

「ええ、とっても綺麗よ」

「よかった。ママンもきれいだよ!」


 ――う。

 そうだよね。長年の習慣って、そうそうなおらないよね。

 まして子どもだし。

 幸い、周囲のお客たちは自分たちのおしゃべりに夢中で、私たち親子には興味がないらしい。


「あ! まちがえちゃった。おかあさまだった」

「うふふ。大丈夫よ」


 ダニエルはしょんぼりしているけれど、そんな顔さえ可愛い。

 



 タルトが運ばれてくると、ダニエルの顔がパァッと輝いた。

 見たことのない焼き菓子でも、美味しいスイーツと分かるのかしら?

 そういえば、村にいる時はマナーレッスンをしていなかったわ。


「ダニエル。綺麗な人は綺麗に食べるものなの。このフォークを使って綺麗に食べる練習をしましょう。いい? お母様の真似をしてね」

「うん」

「真似っこだと思えば簡単なはずよ」

「うわあ! まねっこだね!」


 そうそう。まずは遊び感覚でいいから、やってみてね。

 

 少しばかりオーバーリアクションで(顔芸付きで)タルトを食べて見せると、ダニエルがキャッキャッと面白そうに真似をした。

 フォークをカチャカチャと音をさせたが、概ね真似できている。

 器用な子だわ。


「すごいわ、ダニエル! 上手に真似できたわね。私の負けだわ」

「やったー!」



 お茶を楽しんでいると店員が追加の注文がないか聞きに来たので、馬車について聞いてみた。


「ねえ。この町からブールワの森の方に行く馬車は出ているかしら?」

「え? お客様、ブールワの森に行かれるのですか? すごい長旅をされるんですね。通りの先に馬車乗り場がありますが、さすがにブールワの森までは行かないですね。サファール自由区で乗り換えじゃないでしょうか。あそこは商人の街で、国内だけでなく他国行きの馬車も出ていますからね。サファール自由区は、他国からマイセン王国行きの馬車の終着点にもなっているので、異国情緒あふれる面白い所だそうですよ!」

「まあ、そうなのね。ありがとう」

「いえいえ。どういたしまして」


 そうそう。私たちが住んでいるこの国は、マイセン王国というのだ。

 あ、初めて聞いた時のことを思い出した!

 私、吹き出しちゃったんだよね。

 もしかして隣にウエッジウッド王国とかもあるかも! なんて思ったけれど、もちろんなかった。

 ただの偶然の一致だったみたい。

 この国は別に陶磁器の名産地でもないしね。



 よしっ。食べ終えたら早速馬車乗り場に行ってみよう。

 行き先によっては、数日か数十日に一度しか出ていないかもしれない。

 まあ一月くらいは余裕で過ごせるけれど、できれば早くあの老婆に会って、私の身に起こったことを聞きたい。

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