4 初めての町
ちゃんとしたお昼ご飯を食べていないので、ダニエルに美味しいものを食べさせてやりたい。
ダニエルは初めて訪れた町の賑やかさに興奮しているようで、落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回している。
「ダニエル。人がいっぱいで驚いた?」
「うん! おおきなおうちがいっぱい!」
確かにね。
お店屋さんって分かるかな?
読み聞かせをしていた古い絵本の中には身近なパン屋さんとかは出ていたけれど、レストランやカフェなどは出ていない。
びっくりするかな?
「美味しいものを食べに行くからね」
「おいしいもの?」
「うふふ。食べたことのない物だから。きっと驚くわよ」
そのためにも、まずはお金が必要だ。
町行く人たちを見ていると、自分たちの着ている物が随分と貧相な物だと分かる。
こんな格好で宝石を売りに行ったら盗品と思われるかもしれない。
まずは着替えが必要だ。
◇◇◇ ◇◇◇
「こんにちは」
程よく客が入っている古着屋を選んで入店した。
店員は迷惑そうな顔をしただけで、接客する気はないみたい。
まあ、お金を持っているようには見えないものね。
「この辺りを見させていただきますね」
一応、声をかけてドレスを選ぶ。
着古した物ではなく、できるだけ新品同様の物がいい。デザインは二の次だ。
手頃な物を取って、もう一度店員に声をかける。
「これをいただきたいのですが」
店員は、「え? 買えるの?」と言いたげな表情で近づいて来た。
「試着なさいますか?」
買えるなら売ります精神かしら?
「ええ。お願いします。それと申し訳ありませんが、着替えている間、この子を見ていてもらえますか?」
「かしこまりました」
最低限の接客マニュアルはあるようだ。
「ダニエル。ママ――私が着替えている間、ここでお姉さんと一緒に待っていてね」
「うん!」
店員もダニエルの天使スマイルに絆されたようで、やっと笑顔を見せた。
袖が少し短かったけれど、他は申し分ないので、このまま着ていくことにした。
「この子のサイズでブレザーとショートパンツをお願いでるかしら?」
「はい。お任せください」
店員は手早く見繕ってくれ、私が荷物を見ている間に着替えさせてくれた。
支払いを済ませると、見事にすっからかんになった。
五年間の蓄えで二着か……。
「ありがとうございました」
購入したので、店員は気持ちのいい挨拶で送り出してくれた。
「ねえ、ママン。すごいかたいふくだね。なんかうごきづらいよ」
それはそうかも。
今まで着ていた服はペラペラの薄い生地だったものね。
大は小を兼ねる的な感じで、成長しても大丈夫なように、ダニエルにはかなり大きめの服を着せていた。
購入した服は、しっかり織られた生地で体にフィットするように仕立てられているから、可動域が狭いのだ。
あーでもでも!
なんて可愛いの‼︎ まるで小公子みたいよ‼︎
「すぐに慣れるから我慢してちょうだい」
「うん。ママンもがまんしているの?」
「そうよ。でもこの方がみんなから大事にされるの」
「? ふーん」
……あ。そういえば、『ママン』だけど。
町中ではさすがにちょっと恥ずかしいかも。
記憶のない私はどうかしていたんだと思う。
「ねえ、ダニエル。格好いい服に着替えたことだし、私のことは『お母様』って呼んでくれない? とっても素敵な言葉なの」
「ママンがおかあさま?」
「そうよ。お母様。ダニエルがそう呼んでくれたら素敵だわ」
「わかった! じゃあママンのことは、おかあさまってよぶよ!」
「嬉しい。早速呼んでみて」
「うん。ママ、あ。おかあさま」
「そうよ」
「おかあさま!」
「そう! じゃあ、おやつの前にあと一つだけ用事を済ませるわね」
「うん!」
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