Ep.8 問おう。あなたが俺のご主人様か?
緊急事態。身体の操作権・主導権喪失。
復興&対策プログラムをすみやかに起動────失敗。
セキュリティに応答なし。
当機の行動は完全に封じられました。奪還は困難です。
「これ、まじぃ……? やばぁ……」
疑問。ハチは一体なにをやったのですか。
なぜ、貴方が当機の身体を動かせているのですか?
あと──なぜ、両手をあげているのです?
「知らない。なにもしてない。触ってない! 無実だ! 痴漢冤罪だ! 俺はそれでもやってない!」
支離滅裂。パニックですか?
なに言ってるのか分かりませんが落ち着いてください。当機は魔導機械人形で、生身の女性ではありません。いくら触れたところで罪は問われません。
今のハチは霊体で罪を問える状態ではないので、なおさらです。
「ほ、本当……? 俺、異世界警察のお世話にならない?」
ただし世間一般から見たハチは、命を惜しまず霊体になってまで女型人形に取り憑きアレコレする性的倒錯者────ヤバイ変態です。法で裁けない悪です。
「ふぁ!?」
ハチの存在が明るみに出次第、ソーシャルネットワークサービスに晒されて、世紀の大変態が現れたと盛大に炎上すること必至。
「えぇ!?」
正義を振りかざした、義憤半分面白半分の「ざまぁ」を見たい市民が駆除に乗り出すことは必定です。
「ちょ!?」
最低限の人権も有してないので司法に助けを求めても無駄ですし、なにをやられても警察は助けてくれません。
これからハチを待つ運命は、法外の刑罰。
義勇に駆られた人々による私刑ですね。
「ダメじゃん!? ふつうに捕まるより悲惨な結末が待ってるじゃん!」
安心材料提供。よかったですね。
それまでの間は当機の身体を好き放題できますよ――ド変態(ぼそっ)。
「めっちゃ軽蔑されてる!? 誤解だ! 俺はそんなこと──考エテナイヨ!」
虚偽反応検出。なんですか、その間は。カタコトは。
考えてるじゃないですか。
「仕方ないじゃん、想像くらいはするよ。男の子だもん!」
というか、当機の身体で騒がないでください。
第五霊石を無駄に消費しています。
「エーテリアル? なにそれ────」
「オクトーーー!!! 大丈夫なんですのーーー!!!」
(誰!? 部屋に飛び込んできた薄いピンク巻髪のザ・お嬢様、誰ー!?)
質疑応答。それはこのお屋敷の主人であり、当機の所有者。
つまり──ご主人様である、由緒あるイクシーヴァ家・現当主。
サンシーロ=ルクス=イクシーヴァお嬢様です。
(お屋敷!? ご主人様!? 由緒あるイクシーヴァ家!? もしかしてオクトーさんちってお金持ち!?)
それは────。
「なんか端末に避難指示がきたんですけど! 一体なにがあったんですの!」
(あ、そういえばオクトーさん自爆しようとしてたね)
残念至極。未遂に終わりましたがね。
(このメイドさん、自分が勤める仕事場ふき飛ばそうとしたのに残念がってるよ……)
当機だって最期くらい華々しく散りたいという願望くらいあります。
(さいご……?)
「オクトーどうしたんですの、黙りこくって! 本当に大丈夫なんですの!? もしかしてどこか故障しましたの!」
(超心配されてる。愛されてるな、オクトーさん)
…………無回答。それよりお嬢様を放置してますよ。
(いま話逸らした? まあいいや。俺たちに起こった不幸な出来事を説明──)
犯行告白とは……。
私刑を受ける覚悟ができたのですね。世紀の大変態・ハチ。
(──はやめようか! いきなり俺の存在を話してもサンシーロ?お嬢様も困るよね。この話は時機を見よう、時機を)
抵抗無駄。たとえ時機を変えようとも、現状行われているお嬢様の追及から逃れることはできませんよ。
(そうだね。だから、いま俺がやるべきことは──オクトーさんのフリだ!)
…………は?
「無問題。とーきに異常なところなんて、どこにも無い無い! めっちゃ快調・好調・絶好調です!」
尊厳破壊。当機はそんなアホな話し方しません。
クール系から転身。元気系メカメイド爆誕。
次回更新は12/10の7:30です。




