Ep.56 黙れ、パチモン
見えるのは、眠るウナさんの肩に凛と立つミニウナさん。
ディフォルメした姿からでも、芯の強さを感じる佇まい。
気の強さを思わせる表情に、吊り上がる目は彼方を見据え、指を差している。
そちらに、なにかがあるとでも言うように。
凛然高潔とした立ち姿。
メイド服に身を包んでるけど、「この人、実は王族なんじゃないの?」と、思わせるような特別かつ、高貴なオーラを放っている。
護衛の人たちから忠誠心を感じる理由がわかったわ。
思わず、跪きたくなる衝動に駆られる。
婚約者を捨てたらしい外道。アヴィオール殿下には感じなかった、畏敬の念が湧いてくるよ。
(確定。そう感じるのであればウナ姉様で間違いありません。彼女は最初に造られた『アルテアリス』。女神アルティメシア様の神性を色濃く写し取られており、万人を惹きつける魅力を持っています。ですが、彼女の真価はそこではありません)
真価?
(特殊技能。ウナ姉様は『感知力』に秀でています。索敵や脅威発見に特化しているのです。彼女は王族に仕えることが決定されていた魔導人形。主君に迫る危険をいち早く察知する能力が求められていたのです)
索敵に脅威発見……。
てことは、ミニウナさんが指さす方向に――ッ。
(終点。再生力の根源――尾を咥えたウロボロスの頭部があります)
おお、希望が見えた!
あとは殿下たちにこの事を伝えるだけだな。
(難題。ハチの存在を伏せて説明するのは難しいですね……)
別に隠す必要ないんじゃね。非常事態だし。
異世界人の存在がバレると後々が面倒くさいのは分かるけど、今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょ。
まずは、アルティメシア様の褒美?とやらの為にも、この試練を乗り越えることを考えようぜ。それに、バレても意外と騒がれないかもよ。
(無自覚。ハチは自身の価値に気づいてません。異世界人であることや、エーテル体が見えることを差し引いても、アルティメシア様に『選ばれし者』である貴方は、この世界において特別な意味を持ちます)
選ばれし者?
俺って、いつそんな厨二心くすぐられる存在になったの?
(判明。【八極星】への道を開いた、その時に。この特級試練はハチに与えられたものです)
ちょっと待って。俺なにもやってないぞ。
「身に覚えがございません」は十中八九、身に覚えがあるヤツの言葉だけど、俺はちがうよ。
マジで身に覚えがございません!
(根拠。【八極星】に至るには、神に出会うこと。並外れた強き魂を持っていること、と言い伝えがあります。当機は、このメンバーの中で条件が当てはまる人物をハチしか知りません)
身に覚えがあったわ。
神モドキどもや尊大幼女神との遭遇。
いまだ計測できてない、俺のストロングな魂。
心当たりしかないわ。
(疑問。ハチに『呪い』を与えた神の話は以前聞きましたが、尊大幼女神? それはどなたですか?)
あれ、言ってなかったか?
ゴブ王を倒した後に、アルティメ――――
「風景が塗りつぶされていく! 全員、警戒だ!」
『過去・現在・未来は一つの円環。過去から現在に至り、現在は未来へ続き、未来は過去に繋がっていル。いま一度、己が運命と向き合え』
ッ!? 護衛リーダーの焦った声と、空間に響くウロボロスの重い声。
風景が塗りつぶされる? どこが?
俺にはさっきと変わらない天変地異のごとき悪路しか見えないぞ。
「あ……あぁ……」
「ちがう……自分はそうじゃない……」
「すまない、ローズ。だが、私は……ッ」
「否定……。当機はそんなことを願っていませんッ。当機は……当機はッ」
オクトー、みんな。足を止めて、どうした!?
後方の悪路に流されていくぞ!?
見えない誰かを振り払う挙動をする、護衛リーダー
耐え難いなにかから目を背け、頭を抱える、護衛くん。
罪悪感に塗りつぶされた顔をする、アヴィオール殿下。
目の前にいる誰かに否定を投げかける、オクトー。
まさか、これは――――精神攻撃。
みんな幻覚を見ているのか!
なんちゅう性悪な試練だ!?
強制マラソン大会で肉体を苛め抜いた後は、精神も責めてくるのかよ!
「ちがうぅぅぅッ! 自分は魔導人形も好きなだけだ! ――あうッ!?」
あ、俺たちから離れた護衛くんが唐突な性癖の暴露した後、盛大にコケた。打ち所が悪かったのか、白目をむいて後方に流されていく。
これ、本格的にヤバいぞ。錯乱したら一気に脱落コースだ。
殿下たち人間は、アルティメシア様の加護があるから最悪死んでもなんとかなるはずだけど、オクトーはどうなる?
そういえば、ゴブ王が出た場所に魔導人形の墓場があったな……。
もしかしなくても、魔導人形に加護は働かないんじゃないか?
だとしたら――――マズい!?
おい、オクトー聞こえるか! オクトー!
今すぐ交代だ。≪アイハブコン――――
『当機だけ存続できればいい』
ッ!? オクトーの……声と、姿?
いや違う。目の前に現れたのは幻覚だ。
たぶん、オクトーやみんなが見ている視界だ。風景も真っ白に塗りつぶされている。
なんで、今になって見えた?
このタイムラグはなんだ?
ゴブ王の言語を理解した時もそうだけど、なんかがおかしいぞ……。
『優先すべきは自己保存。姉妹機たちを見捨てでも当機は存続したいです』
「再度否定! 当機はそんなことを考えたことはありません!」
『伝承で伝わる、選ばれし者が願った特級試練の報酬――死者蘇生の奇跡。それの対象は一名まで。コレを願えば姉妹の誰かは救われるのでしょう。ですが――――』
…………。
『当機の願いを潰してでも叶える必要がありますか?』
「当然。当機はハチと誓ったのです! 姉妹たちを救うと! その決意を違えるつもりはありません!」
『この試練すら攻略できるか分からないのに?』
「――――ッ!?」
……おい。
『万が一。億が一。奇跡的に攻略できたとしましょう。ですが、救えるのは一体だけ。その次は? 誰を救いますか? 選べますか? 本当に救えるのですか? 次の特級試練は攻略できるのですか?』
「あ、あぁ……」
『分かっているのでしょう? 自分が語っていることがどれだけ荒唐無稽なことか。演算するまでもありません。不可能です』
「でも、当機は……当機は……ッ」
『当機は、なんですか? ハチを利用すれば、なんとかなると思っていますか?』
「――――ッ!? ちがッ」
『ちがいません。不幸な境遇をちらつかせ、同情心を煽り、憐れみを誘う手法。当機は悲劇のヒロインを気取り、ハチを巧みに操っています』
「そんなことないッ。そんなことしてないッ!」
『そんなことあります。証拠に彼を掴んで離そうとしない。彼だけなら逃げる手段がある事を伝えてない』
「それは……ッ」
『ハチは特別。【八極星】に至る資格を得た選ばれし者。眩い輝き放つ、一等星のごとき魂の保持する者。彼ならきっと当機の運命をなんとかしてくれる、そう信じさせてくれる人。だから――――手離したくない』
「あ、あぁ……」
『優しい彼の厚意に甘えたい。愉快な彼が一緒ならなにも怖くない。強き意志を持つ彼に導かれるまま進みたい。死出の旅路への同道をさせていると自覚しているのに』
「ちがう……。ちがうちがう……うぅッ」
『逃げ道を隠したまま、選択肢を話さないまま、特級試練に挑戦した。身勝手にも彼の意思を確認もせずに、【終わる】かもしれない道に付き合わせた。【運命】の道連れにした――――分かりますか? 当機の選択がハチを殺すのです。親切心を利用するだけ利用して殺すのです』
「イヤ……。もうやめて……ッ」
『これが当機の本性。逃れぬ【運命】に彼を巻き込む、醜い魔導人形です』
うん。我慢の限界だわ。
「うるせえ、パチモン! テメエごときが俺たちの運命を語ってんじゃねえ! ウチのオクトーさんを泣かしてんじゃねえ!」
黙って聞いていればいけしゃあしゃあ、と!
許せねえ、偽者が! 俺は完全に怒ったぞ! ――――ん?
「え?」
『え?』
「あれ? 俺、いまどうやって喋った?」
俺まだオクトーと交代してないよね?
Tips:アルティメシアの試練
星廻魔導世界の主であるアルティメシアは、ちょくちょく下界の者たちに試練を与えています。
成長・戒め・面白そう。などなど理由は様々。
この試練には、『お試し』、『本格的』、『ガチ』の三段階の難易度があります。
『お試し』で、人外魔境に放り出される程度。軽く死ねます。
『本格的』で、『ダンジョンの王』と闘う程度。普通に死ねます。
『ガチ』で、【八極星】という伝説への挑戦。ほぼ確実に死にます。
神が設定した難易度はハードを超えて、ルナティック。
巷では「やべぇ神に目をつけられたくなければ慎ましく生きろ」だの、「悪いことをするとアルティメシア様の試練に連れていかれちゃうよ」など。
扱いが、不良とか邪神。試練にいたっては恐怖の象徴。
アルティメシア的には良かれと思っての試練なのに……。
いちおう拒否が出来て、命は取らない親切設計なのに……。
神心は下界の子たちには伝わらないものです。
ちなみに、試練を越えた者には褒美が与えられます。
難易度で褒美のグレードが変わり、最高難易度の攻略。
【八極星】の試練を攻略すると――――……。




