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Ep.43 強き意志で道理を引っ込める


 ……………………

 ………………

 …………

 ……


 思考停止フリーズから復帰。再起動――夢を見ていた気がします。

 夢を見ないはずの魔導人形の当機が悪夢を見ていました。


 あざとい仕草。媚びた声。手でつくったハートマーク。突拍子もない「愛をわからせる」発言。当機の身体でおこなわれた羞恥悶絶行為の数々。


 幻覚。きっと、ここ数日におきた怒涛の出来事でコアに負担をかけたのが原因ですね。そのせいで視覚系に異常が出たのでしょう。そのはずです。


 いくらハチでも、そんな恥知らずな行為はしない――――



質問くえすちょん。ねえ、殿下。とーき可愛くない?」


「あ、上目遣いかわいい――くない! かわいくないったら、かわいくない!」


本当りありー? 本当にそう思う? 本当の本当に?」


「かわいくない! だから、近づくな! 顔が近い、近いから!? 魂光アストラル・ライトがまぶしいから!」 


余所見禁止どんと・るっく・あうぇい。むぅ~、目を逸らさないで、とーきだけを見て」


「ほわぁあああああああ!?!?」



 …………してました。

 頬をふくらませて、キリア第二王子殿下の顔を掴み、無理矢理に前を向かせました。――――なんという、強引で強制的な「かわいい」の強要(パワープレイ)


 当機を間近で見た、女性免疫が低そうな殿下が奇声を上げています。

 計算されたわざとらしい「かわいい」に翻弄ほんろうされています。


 …………説明要求。ハチは一体なにをやっているのですか?


(ん? 最新厨のキリアくんに最古オクトーもいいもんだぞ、とわからせ中)


 説明不足。その行動をする意図を聞かせてください。


(俺なりに考えたんだよ。王族にドロップキックかませないじゃん? かといって、キリアくんを泣かせる形でわからせても遺恨が残るし、後が面倒になる)


 肯定。まあ、そうですね。


(なら残る方法は一つ。こちら最大の武器。オクトーの奇跡的な容姿の良さでぶん殴って、キリア少年を啓蒙さ(わから)せる。心配しなくても大丈夫。こちらの戦力は圧倒的で、すでに勝ちいくさは確定しているEZ(イージー)ゲームだ)


 ……理解。理解したくないですが、手段と目的については承服いたします。

 しかし、その方法だと別の懸念が出てくるのですが……。


(オクトー、わるい。話はここまでだ。いまが攻め時。顔真っ赤で、ノックアウト寸前のキリアくんが冷静さを取り戻す前に一気呵成に責め立てる)


 ……了解。すでに賽は投げられました。後はなるようになるしかありません。

 恥も外聞もかなぐり捨てて、行くとこまで行きつきましょう。 



「(おう、いってくる!) ――そういえば、感情表現バトルの真っ最中でしたね?」


「え、あ、うん」


注目あてんしょん。とーきをよく見ててくださいね☆」


 実況。ハチ。フラフラ赤面状態の殿下から三歩離れてクルリ、と一回転しました。メイド服のスカートがふわりと広がり――――表情変化きます。



じょい



 第一波。当機の視点からは見えない当機ハチの喜色満面の笑顔。

 殿下、「ぐふっ」と心臓を射抜かれたように、胸をおさえました。



あんぐりー



 第二波。腕を組み、そっぽを向く挙動。

 横目に見える殿下は見えない衝撃を受けたかのように、勢いよく頭をのけ反らせます。



すろう



 第三波。手で目元をぬぐい泣く仕草。実際に涙を流しています。……ハチ器用ですね。殿下は罪悪感を抱いたような居たたまれない表情になっています。



はぴねす!」



 最終第四波。一度、後ろを向いてからの振り向き笑顔。

 心の底から楽しい感情が湧きだし、表情に現れているのが感じ取れます。


 今日一番の衝撃。

 強烈な「かわいい」の一撃を殿下はまともに喰らいました。

 足はガクガクと震え、たまらず膝から崩れ落ち――――ない。


 なんと耐えました。

 近くにいた十二号の肩を掴み、地面に膝がつくことを拒否しました。

 荒い息を吐き、赤面の表情から伝わるのは「絶対に屈しない」という断固たる意志。


 まるで、強大な敵に挑む不屈の英雄。

 しかし、これは特に意味のない勝負。意地を張る場面ではありません。

 なにが殿下をそこまで駆り立てているのでしょうか?


 それと、いつの間にか戻ってきた、視界の隅に見える観戦中の護衛の皆さん。

 殿下はいま窮地に立たされていますよ。面白がってないで助けてあげたほうがいいと思います。



驚愕しょっく。耐えた、だと……ッ」


「…………めん」


「え? なんて?」


「僕は認めないからなーーー!!!」



 咆哮。拒絶の意志を乗せた叫びがダンジョン内に響きます。



「僕はお前()()、『究極の芸術(アルテアリス)』を認めない! ()()()()()、人を惑わす邪悪な人形の姉妹機めッ! お前たちが究極に至ることも絶対に許さないからな!」


「…………」


「なにが究極だ! なにが魂の在処だ! ()()()()()()()()()()()ッ! ようやく平穏が訪れていたのに!」


「殿下がなぜ、とーきを敵視するのか分かりません。けど、分かったことがあります――――お前、最初から嫌がらせ目的でオクトー(おれ)を追ってきたな?」


「ッ!?」



 正鵠せいこく。殿下、図星を突かれた顔をしています。

 たしかに王家の情報網を使えば、当機の居場所を補足して嫌がらせを行うのも容易いでしょう。ですが、そうする理由はなぜ?


 王家には、()()()()()()()ウナ姉様を救える可能性を伝えただけです。



「究極になるのが許せない、ね。別にお前の許可なんていらねーよ」


「え、え? なんかさっきからコロコロ雰囲気変わって――――いや、そんことはいい。そんなことより、お前。誰にものを言っている!」


「あん?」


「僕は真星領域国・アステリアの第二王子。キリア・ルキウス・シドゥス・アステリアだ。僕が許可しないと言ったら諦めるのが道理だろ!」


「んなもん知るか」


「なッ!?」



 殿下、無駄です。ハチにそんな道理は通じません。

 気に入らなければ運命――――神にすら逆らう人です。

 一国の王子の発言程度で折れる訳がありません。


 何者にもおかされぬ強き意志と眩い魂の輝き。

 だからこそ、当機は――――



「俺()()は究極ってやつになるし、運命も超える。

 諦めるわけねえだろ、バーカ」



 貴方に希望を見るのです。



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