Ep.34 犯人はメイドさんです
極天光最大出力。魂光最大放出。
【時間膨張】並列発動。体内第五霊石残量から発動時間を逆算。
【限界突破】。予備霊石を含め、稼働限界まで残り六十秒です。
「上等!」
「それは、魂の輝き……。お前、やっぱり――――」
「呆ける暇があんのか!」
「!?」
神速。拡張された時間感覚の中。踏み込んだ足は地を砕き、二つの光を二重螺旋のごとく立ち昇らせ、ヒナミ様の横に回り込み接敵――――油断大敵です。
ハチの狙いは炎熱範囲の一番薄い場所。呆気に取られる貴方の『顔』です。
一歩。踏み出した烈脚で勢いをつけ。
二歩。音の壁を超えた破裂音が衝撃波を生み出し。
三歩。勢いを落とさないまま、軸足で地を蹴り――――跳びました。
接触面積は炎熱範囲を避け最小限。されど破壊力は最大限。
空中で両足を折りたたむ姿は、『撃鉄起こし』を想起させ。揃えた足裏は、まるで撃発前の銃口のよう。
表面強化装甲よ。砕けろ、と意志を込めた、その蹴りの名は――――。
「ドロップキックだ!!! おらぁ!!!」
「ぶッ!?」
直撃。放たれた強烈な空中跳び蹴り。芸術的な姿勢から生み出された絶大な破壊力。的確にヒナミ様の顔面をとらえ、障壁まで吹き飛ばし、叩きつけました。観客たちの悲鳴が響きます。
甲高い音を確認。
装甲第二層突破を確認しました。残り一層。これで当機たちと五分です。
全運動エネルギーを伝えたハチは空中で一回転して着地に成功。
両手を天にあげました――――満足そうです。
令嬢の顔にドロップキックをかまして満足そうなメイド。
絵面がやばいですね。
「やったよ。隣室にいた山田くん。俺たちのプロレスごっこで培った技術は無駄じゃなかった」
幻影。なにやら存在しない記憶が伝わってくるのですが……。
病院の個室。殺し屋のごとき鋭い眼光の壮年男性。「貸せ!」、「貸さん!」と小説の貸し借りを巡る闘争の日々。繰り出される様々な戦闘技術。煽り合い、ど突き合いをする元気な入院服を着た男たち。挟まる医者の制止。最期の時、「この形見を受けとってくれ……」と渡され、涙で濡れる小説……。
……言いたいことは色々ありますが、病院内で騒ぐのは迷惑ですよ。
(あの頃は、山田くんとじゃれ合うくらいしか娯楽がなかったからな~)
疑問。じゃれ合い? 殺し合いではなくて?
途中から山田様から殺意が見えましたよ。ナイフがチラリと見えましたよ。
(ははは。遊びは本気でやらないとね。大丈夫、大丈夫。なんかあっても病院の中だから、すぐ蘇生してくれたよ)
それは大丈夫ではないのでは?――――と、雑談してる場合ではありません。
時間感覚を拡張していると言っても時間の流れを止めることは出来ません。
【限界突破】の残り稼働時間、四十秒を切りました。
「了解。じゃあ、追撃を――――」
「「「「「ヒナミ様、それはまずいです!!!」」」」」
「……………………なに、あの火柱」
最終段階。ヒナミ様が全力を解放しました。
全開した大焦熱の魂光は火柱となって燃え盛り、障壁は悲鳴を上げ、大気を焦がし、地面が溶解していきます。
観客たちが言っている通り、あの状態は危険です。
現状、一層しかない表面強化装甲ではヒナミ様の攻撃は防ぎきれません。貫通します。
迎撃態勢。ヒナミ様、静かに拳を構えました。
当機たちの状況を鑑みて、短期決戦で終わらせるつもりです。
「どこからでも来い」という意志が感じ取れます。
(言葉はもう無用ってか……。なあ、あれに近づけるか?)
不可能。もはや炎熱の薄い場所など無く、近づいた瞬間に燃え上がります。
(あいつのシールドは熱で壊れないのか?)
不壊。ヒナミ様の表面強化装甲は特注。炎熱無効の『魔法』を刻んでいます。
(危険だからやめてくれって言うのは――――無しだな。わからせてやるって啖呵を切ったんだ。引き下がるなんてできねえ)
同意。今の当機たちは妥協を選んだ瞬間に終わってしまう。そんな予感があります。
(そう、妥協は諦めだ。決意に対する裏切りだ。そんな意志の弱いヤツに運命をブッ飛ばすことなんて出来ねえよ。譲れないものは譲っちゃいけない)
継戦了解。では、当機から攻略の提案があります。
(え? あれ、攻略法があるの?)
肯定。ヒナミ様が『炎の試練』と称するものは必ず攻略方法が用意されています。これは当機たちを試す場。攻略不可能では試練とは呼べません。
原始的かつ、効率は最悪で、後が大変ですが、今のピカピカ光るハチなら出来る手段があります。
本日、当機が言った『裏ワザ』の存在を覚えていますか?
(ん? 俺の魂力とか、存在力とかっていう名の死にステータスを活用する方法があるって話だよな? 激しく光って目つぶしでもすんのか?)
否定。絵面が愉快な、光り輝くメイドは隠し芸大会にでもとっておきましょう
稼働限界が迫っています。
説明する時間はないので、当機の言うとおりに行動してしてください。
(了解)
一極集中。内側からあふれる魂の激流をコントロールして、掌に集めてください。普く流れを集めるのです。迅速かつ正確に。
(いや、そんなこと言われても。初めてやるのに上手くできる訳――――できたよ……)
当然。当機の身体は魔導人形。魂の根源、第五霊素『天』を上手く運用できるように創られています。あふれでた余剰魂光の操作くらい容易いです。
(おおぉ……。意識すれば面白いくらい集まっていく。それで? なんか手のひらサイズのボールに纏まったけど、これをどうすればいいの?)
簡単。あとは投げればいいのです。
相手目がけて、真っすぐに。
心配はいりません。道具に見えますが身体の一部なのでルールに抵触しません。
「了解だ! いまなら時速150キロ剛速球を出せる気がする!」
【限界突破】した当機の身体ならもっと出ますよ。
――――魂光を固めたハチは投球姿勢を取りました。
大きく振りかぶり、片足を上げ、腕をしならせ、腰を回し。
そして――――
「すぅー……。せいっ!」
放ちました。
天地一閃。限界を突破した状態で放たれた圧縮魂光は天と地を裂き、音の壁をいくつも突き破り、高回転も加え、引きつった顔のヒナミ様の元へ。
着弾――――いま。
「へ?――――はぁあああああぁ!?!?!?」
着弾の衝撃により圧縮解放――――からの大爆発。
凄まじい魂力をもつハチの圧縮した魂光は予想通りの結果を生み出しました。
敷地内の障壁を破壊。
吹き飛ばされ宙に舞う観客。
舞い上がっていく舗装された地面の欠片。
衝撃波により割れる『イグニス&オーラム』本社の窓ガラス。
着弾中心地には巨大な爆発による煙雲。
まるで『竜の一撃』が墜ちた光景。
まさに大惨事ですね。
「え? これヒナミちゃん生きてる?」
【限界突破】『刻限超過』。稼働限界です。
その答えは起きてからです――――これより完全睡眠モードに入ります。
「待って。超気になる――――」
おやすみなさい、ハチ。
・
・
・
次の投稿は1/5の7:00予定です
少しでも面白い・続きが気になると思って頂けましたら
ブックマークや評価をお願いします!
もし評価を頂ければ創作の励みになりますし、とても嬉しいです。
評価はページの下にある☆☆☆☆☆のマークからお願いします!




