Ep.30 燃え上がるイグニスの一族
今年最後の投稿です。
来年もよろしくお願いします。
「たすけてー!!! だれかたすけてえええ!!!」
叫喚。悲痛な助けを呼ぶ声。
「いやあああああ!!! やめてえええええ!!!」
絶叫。乙女のような悲鳴。
「イヤだ! 置いていかないでくれええええ!!!」
「離せ! 足から手をはなせえええええええ!!!」
怒号。醜い足の引っ張り合い。
「……………………(シーン)」
昇天。股間を抑えて気を失う、ただの屍のような男。
「はーっはっはっ! 早く逃げないと潰しちゃうぞ!」
哄笑。駆動系安全装置解除で全身から放電し、高笑いするハチ。
輩どもは必死に逃走――――ですが。
「メイドさんからは逃げられない」
「「「「ひぃぃぃぃ!?」」」」
疾走。逃げた先に回り込み、輩どもは怯えた顔で地面にへたり込みました。
迸る重圧と希望を断つセリフが、対象の敵意を喪失させています。…………本当に、どちらが悪者なのでしょう?
「どうした人様よ。さっきまでの威勢はどうした! はーっはっはっ!」
戦慄。人間の前に立ちふさがる絶望の権化。その姿はさながら魔王のよう。
…………一体いつからメイドは魔王になったのでしょう?
「謝る! 謝るから見逃してくれ!」
「あん?」
「ちょっとした小遣い稼ぎだったんだ! 出来心だったんだ!」
「ほら! 巡回人形って良い装備持ってるだろ?」
「魔が差したんだよ! 誘惑に負けちまっただけなんだ!」
「それにむしゃくしゃしてたから気晴らしに……な?」
「ほ~ん?」
「まさかガチの戦闘タイプ人形に出くわすとは思わなかったんだよ!」
「『究極の芸術』は竜も殺せるんだろ!」
「そんな人形に一般人の俺たちが勝てる訳ねぇじゃないか!」
「逃がしてくれるなら、なんでもするから!」
「なんでも? …………わかりました(にこっ)」
「「「「(ぱあっ)」」」」
希望。輩ども、当機の笑顔から許されたのだと顔を明るくし――。
「今日から女の子として生きてください(ニヤっ)」
「「「「………………はい?」」」」
キョトンとした顔になりなりました。
「「「「アッーーーーーー!!!」」」」
繰り返される惨劇。木霊する断末魔。連続する衝撃音。
股間を襲う無慈悲な一撃――――容赦がないですね……。
「やっぱヤンチャ者には去勢が一番だよね♪」
合唱。ご冥福をお祈りいたします。
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≪しばらくして。大通り≫
認識阻害再設定――――報告。治安維持魔導人形の信号途絶から、地域管理機構が動き出したものと予測します。まもなく、現場に上位機種が到着するはずです。
「そっか。じゃあ、アイツら放置でいいな。処遇は上位機種さんにお任せしよう」
過剰。さすがにやりすぎたのではないのですか?
あそこまでやらなくても、少し懲らしめる程度で良かったのでは?
「いーの、いーの。ああいった連中は痛い目見ないと懲りないから。ムスコさんは異世界のお薬をキメれば元気になるでしょ」
表現……。まあ、当機も多少はスカッとして――――警戒。
前方から脅威。急速接近。
「きゃー! 強盗よー!」
「へっへっへ。おい、そこのお前。金目の物をよこし――――へぶっ!?」
「お呼びじゃない。お還りください」
平手炸裂。強盗を撃退。良い音が鳴りました。
――――次、七時の方向からひったくりと思わしき人物接近。
「クックック、隙だらけだ。その収納もらった――――あぶしッ!?」
「メイドさんへのおさわりは禁止です」
反転上段蹴り。ひったくりの側頭部直撃。意識を刈り取ることに成功しました――――市民が通報したのを確認。まもなく治安維持魔導人形が到着します。あとの事は任せて先を急ぎましょう。
それにしても次から次へと……。
荒くれ者が近場でパーティでも開いているのでしょうか?
エンカウントしすぎです。
「ほんとにね。なんで立て続けにトラブルに出くわすんだろ。この街って、実は物騒?」
否定。この街は治安がいい方です。普段、このようなことは起こりません。
なぜ今日に限って…………。
「連中、俺たちがお金持ちになるのがよほど許せないのかもね――――」
≪君に決して栄華は訪れない。常に貧し、金銭は身につかない≫
≪【極貧】の生活が日常になる≫
「あ」
疑問。どうしました。ハチは心当たりがあるのですか?
「あー……。たぶん」
「おい、お前。珍しいもの持ってんだろ? ちょっと見せてみろよ」
「――――って、またか……――――お呼びじゃねえって言ってんだろうが!」
目的地到着。声紋識別。背後からの声掛け。
この声は――――ッ。
停止! ハチ、殴りかかってはいけません!
「あぁ?」
「へ?」
障壁確認……。ハチの拳は魔術による障壁で止められました。
ですが――――緊急事態発生。
「おい、オクトー。これはどういったご挨拶だぁ?」
「あれ~……?」
「てめぇ。己に拳を向けたのか? この己に?――――いい度胸だ」
(……オクトーさん説明プリーズ。もしかして、この緋髪の少女って知り合い?)
…………回答。その方は今回、取引する相手であり、お嬢様のご友人。
ヴァンブレイク家のご令嬢――――
「このヒナミ=イグニス=ヴァンブレイク。売られた喧嘩、買ってやらぁ!」
とても気性が荒い、対応は気をつける必要のある『火』の一族です。
「もしかして――――やっちゃった?」
肯定。やっちゃいました。
オールドヤンキー令嬢登場!
次回の投稿は元旦の朝の予定です。




