Ep.28 立った! フラグが立った!
≪時間は遡り、山賊に遭遇する前。オクトーが運転する車内≫
外だー! 異世界の街だー! すげえ!
なにこの車(?)。空飛んでる!?
なにあの人たち。みんな同じ顔――これ人形だ!?
なにその小さな結晶。空中に映像が浮かんで――――テレビか!?
見たことのない服装、道具、食べ物。
どういう原理で動いてるのか分からない超技術。
予想の十倍くらいファンタジーな未来都市なんだけど!
昨日のダンジョンはなにがなんだか分からない内に、乗り物に乗ってドナドナされていたから、異世界の光景を楽しむ余裕もなかった。
外にはこんなすげえ景色が広がっていたのか……ッ。
「元気。…………いまさらですが、ハチは一度、超常存在に命を奪われたと聞きました。今も霊体の状態です。なのにまったく悲観の『ひ』の字もありませんね。観光を楽しむ余裕もあるくらいです。その前向き思考はどこからくるのですか?」
あん? そりゃあ姿は変わったけど、俺はココにいるからな。
俺の意思があれば十分。『俺、思う。ゆえに俺は在り』。
俺は『生きて』るのに、悲しむ理由がどこにあるんだ?
「納得――からの疑問。ですが、元の世界に残してきた人たちは――あっ」
やめて。その「そういえばボッチでしたね」ていう気づき。
ボッチじゃないから。たまたま家族の縁を切ってて、友だちが周りにいなかっただけだから。これからたくさんできる予定だったから。
「失言。大丈夫、当機は理解しています。つらい話題は変えましょう」
つらくないよ!? 本当の本当につらくないからね!?
だから、優しい声色やめて。泣いちゃうよ!
「話題転換。ハチは外出した目的を覚えていますか?」
なんという強引な話題転換――――まあいいいや、続けたい話題でもないし。
えっと、たしか今回はゴブ王のドロップアイテムを売却するんだっけ?
「肯定。深淵霊石――――数百年に一度現れる『深淵の王』から確定で入手できる戦利品。深淵霊素『虚』の結晶で、優秀な反魔素材です。その希少性と有用な効果から高額で取引されています」
ほーん? どのくらいで売れるんだ?
「試算。過去の売却事例から照らし合わせると、五十億ステラはくだらないかと」
五十億……? ステラ……?
ステラが通貨の単位として、その途方もない金額はどんだけ凄いもんなんだ?
「回答。一般市民の生涯年収が二.五億ステラです。なので、この岩っころ一つに二十人分の人生の稼ぎが詰まっていることになります」
マジか。
そんなとんでもないもんを異世界生活初日で手に入れたのか。
バランス調整ミスってんだろ。
てか、そんなものをサンシーロちゃんはポンと渡したのか……。
「お嬢様曰く、『オクトーが苦労して手に入れたもの。わたくしが手をつける訳にはいきませんわ』――――と、おっしゃっていましたね」
つけ加えるなら、『だから、わたくしが着服してないことをSNSで喧伝してほしいのですわ! 今、わたくしのアカウントがありえないぐらい炎上してますの! 火消しを手伝ってほしいのですわ!』とも言ってたね。
オクトーの装備をケチってダンジョンに突っ込ませたあげく、自分は遊び惚けてたとバレたっぽい。そりゃあ燃え上がるわ。
「自業自得。当機が擁護すれば燃料をくべること必至。こういった話題は鎮火するまで静観するのが一番です。お嬢様にはしばらく燃えていただきましょう」
ニートお嬢様には良いお灸だ。
ところで、売却するにしても目的地はどこなんだ?
「第二霊石製『導鏡』起動。仮想画面展開。行き先は『炎は黄金を証明する』。武器や兵器を造るヴァンブレイク重工に属する会社です」
おー、立体画面が浮き出た。
行先は『ブルーム』を製造したところか。昨日、あのSF銃には大変お世話になった。
「補足説明。ちなみに、このヴァンブレイク家はイクシーヴァ家と同じ勇者の末裔。七大名家の一つ。『火』を司る一族です。とても気性が荒いので対応には気をつけなければ――――おや?」
どうしたんだ?
「機関部から異音確認。異常事態発生。車体を路肩に停めます」
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「――――修理業者からの報告。原因判明。動力に用いた『風』の結晶・第四霊石に粗悪品が混じっていたようです」
まじか……。なあ、それってよくあることなのか?
「否定。滅多に起こらない出来事です。近年は特に品質管理に厳しいですから。――――仕方ありません。運が悪かったと思いましょう」
そうだな。運が悪い――――ん?
「早急。取引先と約束した刻限が迫っています。ここからは徒歩でいきましょう。幸い目的地はすぐ近くです」
あの~……、オクトー?
なんでこんな薄暗い路地裏に入ったんだ?
「近道。ここからが最短距離で目的地に向かえます」
大丈夫なのか?
いま貴重品を持っているうえに、かわいいメイドさんが人気のない場所に行くのは危なくない?
「心配無用。例のブツは異次元収納の中。当機の目立つ姿は認識阻害を付与したローブで隠しています。つけ加えるなら、この場所は治安維持魔導人形の巡回コース。荒くれ者は近寄らない安全な地域です。なにも心配いりません」
そっか、心配ないか。
「肯定。ええ、絶対に大丈夫です」
そっか~、絶対か~。
時にオクトーさん。今の状況と発言を俺がいた世界でなんて言うか知ってる?
「後回し。話はあとです。この角を曲がれば目的地はすぐそこ――――」
「「「「「あ?」」」」」
「……危険物所持確認。あきらかに堅気ではない方と不意遭遇。……今日は厄日のようですね」
フラグが立つ。
不幸さんは丁寧な前振りに応えてくれるから気をつけよう。
≪デデン。山賊風の荒くれ者×5があらわれた≫
次の更新は12/30の7:00です。




