Ep.23 『なんでも』という言葉にご用心ください
『我は古来から面白き者が好きでな。楽しませた者には褒美を与えるようにしている。アマデウスもその一人だ。だから、与えたのだよ。まず、拝謁の栄誉を』
「もしかして、その時に見たアルティメシアさまの姿をモチーフにオクトーをつくったんですか?」
『そうだ。だが――――あ・の・狂人めッ』
あ、めっちゃ怒ってる。
『我の尊き姿を見てあろうことか、「足りん」とか抜かしおった! 足りんってなにがだ! 背か? 胸か? 胸なのか!? だから、己が作った人形には背と胸を盛ったのか! 我の原型はどこにいった!』
「あ~……優れた容姿は残ってましたよ?」
『そうだな! それはいい――――だがな! なぜ、我を模した人形に召使いの服を着せた! 不敬にもほどがあるぞ! 我、星廻魔導世界の主だぞ!』
「あ~~…………それはまずいですね」
『であろう? だから、再度呼び出して問いただした。その時に奴は言ったよ「だって、わたし胸の大きいメイド好きだし」だぁ? 己の性癖で我の偶像を汚すんじゃない!』
「あ~~~…………――――」
アマデウスさん思ったよりヤベえヤツだった件。
そりゃあ、アルティメシアさまが狂人って呼ぶわけだ。
『下界の者たちは下界の者たちで姿を歪めた偶像を崇拝する始末……ッ。それ我じゃないからな! 我の宗教画で本当の姿を知っておるだろうがッ! お前らすべてに神罰落としてやろうか!』
「…………それで、アルティメシアさまはなにか罰を与えたんですか?」
『なにもしとらん』
「へ?」
意外だ……。真っ先に手が出るタイプだと思ったのに。
『腹立たしいことこの上ないが、我は寛容だ。下界の者が愚かなことをすると理解しておる。我を虚仮にした程度で罰したりはせん』
「おおぅ……本当に寛大だ。マジもんの女神さまだ……」
見てるか神モドキども。
これだよ。これが本物の神様だよ。マジで見習え。
『我は赦したが――――アマデウスはそうではなかった』
「え?」
『奴は究極を望む求道の怪物でな。究極でないものを赦せんかった。だからこそ――――自身の創作物に『罰』を設定した』
「それって――――」
『永遠を備えたはずの人形に【終わり】を与えた。百年という期間に『魂』を持つことができなければ自壊するように設定したのだ。恥にしかならぬものなど、後世に遺しておけん、とな――――短気なことだ。そのような短い時間ではなにも変わらぬというのに……』
<造物主が望んだ『究極』に届かなかった欠陥機です>
<『究極の芸術』に終わりが設定されたのは、期待に応えれなかった罰なのです>
――――オクトーが言ってたのはコレか?
「……アルティメシアさまは、大事にされた道具には魂が宿るっていうことをアマデウスに教えなかったんですか?」
『ああ』
「なんで……ッ」
そのせいでオクトーがあんなに苦しんでいたのに……ッ。
『怒るな。教えるのは容易いが、それでは人は自立できなくなる。有事の際になにもできなくなる。神に縋るしかできなくなる。――――そのような惰弱な生き物に生きる資格はない』
「――――ッ」
『怯えるな。我は人を見放している訳ではない。むしろ愛しておる』
「あ、い……え? 愛?」
『そうだ。愚かしくも素晴らしき愛し子たち。可能性の【星】。我は【星廻】に住むすべての生命を愛しておる。だから、我が可能性の芽を摘むわけにはいかん』
………………………………はっ!?
やべ、一瞬見惚れてた。アルティメシアさまの慈愛スマイル破壊力やばい。
オクトーと顔立ちが似てるから余計にドキドキする。
――――って、いまそんなこと考えてる場合じゃないッ。
「…………じゃあ、その『罰』をどうにかする手段も教えてもらえないんですか?」
『かっ。結論を急くな。まだ我が汝を呼び出した目的を言っておるまい。我が汝を呼び出したのはな――――素晴らしき戦いをした汝に褒美を与えるためだ』
「褒美…………ですか?」
『そうだ。お主の願いを言ってみよ。なんでも一つ聞いてやろう』
「なんでも!?」
アルティメシアさま、気前良すぎない!?
マジのマジで神モドキはこの方を見習え!
『本当になんでもいいぞ。ただし、気をつけろ。過ぎた願いは己の身を滅ぼすぞ』
「オクトーのクソッタレな運命をどうにかする方法を教えてください!」
『即答か……。今までこれを聞いたものは数時間は悩んだものだがな――――まあよい。ところで、願いはそれでいいのか? 運命を直接変えることも出来るぞ?』
「そっちは危険な匂いがプンプンしてるからいいです」
『かかっ。本当に感がよい。――――正解だ。もし、それを選んでおったら特級の試練が汝らを襲っておったわ』
あぶねー。神様からのうまい話には裏があるのは常識だからな。
ラノベ見て知ってんだ、俺。
ありがとう、隣室にいた山田くん!
君が貸してくれたラノベの知識が役に立ったよ。
『――――まあ、試練は我がなにもしなくても、な(ボソッ)』
「いま不穏なこと呟かなかった?」
『気のせいであろう。願いはたしか、人形の運命をどうにかする方法だったか』
「話逸らしたよ」
『その方法は――――汝の中にある。答えはすでに得ておる』
「そのまま話し続けるんかい――――って、え? 俺の中にある?」
どういうことだ?
神さま特有の意味深な発言はやめて。
俺はそれを理解できるほど頭よくないんだぞ。
――――ん? なんか俺の身体光ってない?
この光なんか、見たことあるような――――。
それに身体半分消えてない?
『考え、足搔き、抗え! 降りかかる災いのすべてを越え、運命を超えてみせよ! 幸運の数字を名に持つ者! その先に汝の求めるものがある!』
「あの~……なんか俺の身体が半分消えてるんですが?」
『目覚めの時だ! 元の場所に戻るがよい!』
「具体的な答えわかってないんだけど――――仕方ない。アルティメシアさま、また会うことって出来ますか?」
『かかっ、よい。汝が偉業を達成した時に拝謁することを赦そう』
「じゃあ、いまはそれでいっか――――俺は八神 八満。また会いに来ますんで、その時にさっきの答えを詳しく教えてくださいね」
ぜってえ、また来てやる。
『よかろう、ハチマンよ。また会える日を楽しみにしておるぞ』
あ、意識が闇に落ちていく……またかよ…………
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※要注意ポイント。
アルティメシアは「なんでも願いを聞く」と言っただけで、「叶える」とは言ってません。
身の程を弁えた願いなら問題なく叶えますが、弁えなったら……。
きっと、ロクでもない結果になっていたでしょう。
※小ネタ
配信に来ていたリスナーがオクトーのことを『様』づけして呼んでいたのはビジュアルの良さもありますが、一番の理由はアルティメシアを連想する姿をしているから。本当の意味での偶像崇拝。『アルテアリス』の人形は一般市民にとって気軽に見れる神仏の像なのです。
ちなみにアルティメシアは偶像崇拝を禁止していません。
敬いたければ敬えというスタンスです。
次の更新は12/25の7:00です




