Ep.11 俺は生きる気がないヤツが大っ嫌いだ!
(遠くに見える巨影は遠近感が狂うほど大きい。
全身を覆うのは、硬く、分厚い、鉄塊のごとき装甲。
敵対する者を威圧する、鋼の悪魔と呼ぶにふさわしいヘッド。
右肩にキャノン。手には刃が発光するビーム(?)アックス。
大地を揺らす重厚な装甲を纏った脚部。
身体の各所には、蛍光色が迸るライン。
それ意味ある?と言いたくなる、隠れる気のない迷彩ペイント。
重低音を響かせる駆動音。機体の熱を排出する排気音。
命の温かみを感じさせない、無機質な赤く光る二つの眼光。
その姿はまさに鋼鉄の巨人。
その名も禍々しき【森鬼G型】!
…………うん、言っていい? これ、ロボだよね。
ゴブリン要素ドコよ?)
「お前のようなゴブリンがいるかッ――――マズい!?」
不快。いきなりなんですか。
当機の身体で草むらに伏せないでください。服が汚れます
(そんなこと気にしてる場合か!? アイツに見つかるでしょうが!)
無意味。【森鬼】には熱感知センサーが搭載されています。
いまさら隠れたところで意味はありません。
当機たちはすでに捕捉されています――――きますよ。
「へ?」
自動追跡霊具感知。敵性存在が背面ミサイルポッドを展開。
装填数六発。第三霊石反応検出。爆炎タイプです。
すべてのミサイル――――撃ち出されました。
「全弾発射!? なんで初手殺意マックスなのーーー!?!?!?」
警告。背中を見せて逃亡するのは危険です。
すみやかに手に持つ狙撃銃で撃ち落としてください。
「銃撃ったことないのに、んなこと出来るかーーー!!!」
ミサイル接近。迎撃可能領域を越えました。もう間に合いません。
これが当機の最期ですか。あっけなかったですね――――え?
「こんなとこで死んでたまるかぁーーー!!!」
驚愕……。ミサイルは次々に着弾。しかし、被弾はゼロ……。
あのミサイルの死傷圏を逃走しながらアクロバットに躱しますか……。
ハチは曲芸師だったのですか?
「オクト―さんなんてーーー??? 爆発音でよく聞こえなーい!!!」
否定。いいえ、これは第六感の類?
【危険】な領域を感覚で感じ取って避けてるのですか……?
当機にそんな機能は搭載されていません。
あきらかに当機の危機感知センサーの反応速度を越えています。
ならコレは――――ハチの『能力』?
「なんか色々考えてるみたいだけど、このピンチを切り抜ける解決策をプリーズ!」
至極簡単。ハチの持つ銃は飾りですか?
それをゴブリンに向かってぶっ放せばいいのです。
ちょうどミサイルをすべて躱し終えました。いまが好機です。
「そうか! これだけデカいSF銃だ。威力だってあるはず――――なら!
いっけーーーーーーーー!!!」
弾道観測。『ブルーム』から高密度炎霊焼熱光束の射出を確認。
ゴブリンの機体から動揺を検知。ですがもう遅い。
熱線は大気を焼き、間に存在する木々の障害物を悉く貫き通し。魔鉄鋼すら溶解させる第三霊石の一撃がいま――――。
空の彼方に消えました。
目標健在。弾道は目標の頭上三メートルを越えて通過。
よくあの馬鹿でかい的を外せましたね。
「……………………」
〈……………………〉
両者沈黙。
ハチとゴブリン。どちらからも「え? いま当たる流れだったよね?」という空気を感じます。気まずいですね。
〈GYA、GYAAAAAAAAAAAAASUッ!〉
「なんかめっちゃ怒ってる!? 肩キャノン乱射してきた!?」
推測。おそらく照れ隠しです。
翻訳するなら「べ、別にビビってなんかないんだからね!」という感じです。
「特にいらない情報ありがとう! それよりも役立つ情報お願い! 避けるのにも限界があるからぁ!」
情報提供。当機ならあの程度排除可能です。
命が惜しいなら当機に身体の主導権を返してください。
「それが出来るならとっくにやってるから――――ハッ! あぶなッ。いま鼻先かすめたぁッ!?」
唖然。いくら距離がはなれているとはいえ、よく亜音速弾を紙一重で躱せますね。
『アルテアリス』シリーズの当機だってそんなこと出来ませんよ。
それと、当機に身体を返せないなら諦めましょう。
それが一番手っ取り早い解決方法です。
「…………オクトーさん。諦めるの早くない?」
最善策。どうせ当機はひと月も経たずに果てる運命です。
ここで破壊されたとしても大した違いはありません。
「だけどさ――――」
それに、ハチが当機に憑りついてるということは、ハチの身は霊体。
つまり、すでに亡くなっているのでしょう?
もう尽きた命なら、みっともなく生にしがみつかなくても――――
「みっともなくてなにが悪いッ!」
!?
「みっともなくても、みじめでも、カッコ悪くても!
生きたいと望むことのなにが悪い! 明日を願うことのなにが悪い!」
危機感知……!? ハチの存在力増大を再び確認……ッ。
この反応は当機が入れ替わった時と同じ――――ッ!
「俺はお前みたいに生きる気がないヤツが嫌いだ!
諦めてぜんぶ投げ出すヤツが大っ嫌いだ!
くだらねえこと言ってないで――――ッ」
――――ッ。
生きる気がない……?
諦めてなにもしない……?
当機のことをなにも知らないくせに……ッ。
「さっさと働きやがれ!!! オクトーーー!!!」
◐【8 → ∞】
「…………装備確認。当機の身体を奪っておいて、随分好き勝手言いますね」
あー……うん。ゴメン。
ちょっと熱くなり過ぎた。
でも、生きる気がない。諦めてるのは本当だろ?
もし、反論があるなら――――。
ゴブリンロボを倒して証明してみろ。
「次発装填。安い挑発ですね――――ですが、乗せられてあげましょう」
…………言っといてなんだけど、本当にあの巨大ロボに勝てんのか?
オクトーはメイドさんなんだろ?
「出力調整。照準調整。あの程度なら敵ではありません。なぜなら――――」
あれ? なんか…………やけに銃の扱いが手慣れてない?
「当機は戦闘メイドとして名高い【究極の芸術】シリーズの【No.8】です。
戦場でこそ輝くメイドの流儀。とくとご覧にいれましょう」
なんだこの唸るような重低音? いや、駆動音か?
それに全身からバチバチ放電してる――――ッ!?
「駆動系安全装置解除――――準備完了。それでは、戦闘を開始します」
あれ? コメディさんどこいった?
≪シリアスさんとバトルさんが入室しました≫
次の更新は12/13の7:30です
Tips:嫌いなもの
八神 八満が嫌いなものは3つ。
『生きる気がないヤツ』
『諦めてなにもしないヤツ』
そして――――『理不尽な運命を押し付けるヤツ』
彼が生きる気がなければ、諦めていたら、運命だと受け入れていたら。
とっくに輪廻の輪に還っていただろう。
だけど、彼は意思の力。生への渇望で理不尽な運命をすべてねじ伏せた。
超常存在が予想した運命のはるか上をいった。
それがどれだけ異常なことか。
八満はまだ気づかない――――。




