第21話 8月3日。月曜日。木綿のハンカチーフ_2
「こんばんは。あおいくん、いつもハナちゃんを構ってくれてありがとう」
「逆だよ、先生。ハナちゃんが僕の相手をしてくれているんだ。おかげさまで、お客さんがいないときも時間を持て余さないでいられる」
「それもそうね。あおいくんは年のわりにひどく幼いから、きっとハナちゃんの方が気を使ってあげているわよね」
「ちょっと先生、それは言い過ぎ。僕だってこの店を何とか経営できるくらいには、十分に大人で責任のある立場なんだから」
「冗談よ。あなたの優しさと寛大さに、私は昔からずっと感謝をしているわ」
「いいよ、水に流してあげる。先生がこの店に、たくさんお金を落としてくれているのは事実だしね。少しトゲがある言葉くらい、気にならないさ」
「うふふ。利益率の高いものばかり注文してるのだから、その点はあなたが私に感謝して欲しいわ」
仕事の疲れから饒舌になるママを、おじさんは軽やかに笑顔でいなす。私はその様子を概ね好意的に、けれど僅かに言い表し様のない疎外感に苛まれながら、微笑んで見つめていた。
何気ない幸福は、そうやって足早に過ぎていく。3人でジンジャーエールで乾杯して、まかないのような郷土料理を食べて、そしてママの車で帰路につく。
「今日も全部美味しかったよ。おじさん、また近々来るね」
いつもママの車まで見送りに来てくれるおじさんに、私はいつでもそう伝える。明日も来るね、と言えない消極的な私は、そんな遠回りな言葉で好意を表現していた。そんな私の本心を見透かすように、おじさんはいつでも飄々と、先回りをした優しい言葉を口にする。
「近々じゃなくて、時間があるなら明日もおいでよ」
「え、いいの?」
おじさんは大きく頷く。満点の星空の下、彼は背伸びをして私に笑いかけた。
「もちろん。毎日待ってるよ。おやすみなさい、先生、ハナちゃん」
お手製のジンジャエールが好きです。
気軽に作れていつでも美味しい。