第17話 7月27日。月曜日。外国の2LDK
どんよりとした曇り空を気にかけず、ママは早朝にスーツに着替えて濃い化粧を施す。スマホで誰かと連絡をとりながら、ママは朝食も取らずに足早に出勤してしまった。
外国の見知らぬ2LDKで、私はまたひとりになった。
午前中は夏休みの宿題をこなし、午後には日傘をさして近くを散策した。暑さに負けてすぐに帰宅した。することがなくて、また夏休みの宿題をはじめた。
「こっちにきても、私は結局ひとりぼっちなんだ」
私はラフなTシャツに短パンの部屋着のまま、無意識にそう呟いた。リビングのソファに座ってスマホを操作しながら、ジンジャーエールをごくごく飲む。そして宿題の息抜きに、SNSを無為に閲覧する。
SNSに投稿された写真の中では、みんなが笑顔を浮かべていて、孤独や劣等感とは無縁のようだった。誰もが思い思いに充実した時間を過ごいる。私も何かアクションを起こしたくなって、昨日ママとふたりで撮った写真をアップロードしようかと迷ったけれど、結局投稿はしなかった。
充実している実感なんてないのに、充実している素振りで自分をごまかすのは、ふとした拍子に無秩序な空虚に襲われそうで、とても怖かった。
はるばる香川までやってきたけれど、私はやっぱりひとりで夕飯を食べた。ママはその日も長時間の残業をして、濃い化粧にやつれた表情で帰ってきた。けれど、ママはその現状にひどく満足しているようだった。
「おかえりなさい」以外の言葉を、私は口にすることが出来なかった。
ママは毎日毎日、朝早くから夜遅くまで仕事だった。
抱えるように持ってきた膨大な宿題の束を、私は数日のうちに終わらせてしまった。
寂しさと物足りなさを伝えることは、気心の知れた相手だからこそ難しい。