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洗濯工場

作者: みくた

 核戦争による世界の崩壊から数世紀。崩壊を生き延びた人々は環境に適応し、身を寄せ合うようにして日々を送っていた。


 荒野の真っ只中に存在する中規模都市“ウェザー”。

 その軍事組織“都市連合防衛隊”が運営する洗濯工場では、同組織所属の兵士である猫型ミュータントの“オム”が、当番勤務のため早朝より軍服やベッドシーツの洗濯を行っていた。

「このペースなら昼前には帰れるな。」

 大型のドラム式洗濯機に洗濯物を放り込みながらオムは呟いた。

 不意に背後の入口ドアがノックされる。

「はーい。」

 ドアを開けると小柄な犬型ミュータントが立っていた。

「お疲れー、差し入れ持ってきたよ。」

 そう言って小さな紙袋を差し出す。

 彼は街でカフェを営む友人の“ネウ”だ。

「お、ありがとう。小腹が空いてたんだ。」

 礼を言い紙袋の口を開けると、コーヒーとチョコベーグルの良いにおいが鼻をくすぐる。

「それで、ついでにこれもお願いしていい?」

 ネウが追加で一抱えほどの布袋を差し出す。恐らく中身は洗濯物だろう。

「いいよ。ちょうど今から回すとこ。」

 快く了承したオムは、ネウから布袋を受け取った。

 このように軍服だけでなく外部の洗濯物を請負こともある。


 ネウを見送ったオムは布袋から出した洗濯物を追加で洗濯機に投入し、スタートボタンを押した。

 運転を始める洗濯機、その前で差し入れを食べ始めるオム。

 しかし突然、洗濯機は停止し異常な唸り声を上げた。

「はいはい。」

 オムは慣れた手付きで唸る洗濯機の操作盤を二回叩く。

 すると、洗濯機は再び回り出した。

 この洗濯機は戦前から存在する代物で、現在に至るまで修理を繰り返して使われてきたため、色々な所にガタがきている。

 そして、再びオムは洗濯機の中で回転する衣類を眺めながらベーグルを頬張った。


「よーし、やっと終わった。」

 全ての洗濯作業が完了し、作業台の上に仕分けられた衣類の山をオムは満足そうに見回す。

 突然、緊急事態を告げるサイレンが街中に鳴り響いた。

「・・・!」

 驚いたオムは天井付近の壁に設置されたスピーカーを凝視する。

「警報、警報。侵入者あり。B3地区に逃走中。」

 そこから淡々とした声で情報が流される。

 洗濯工場があるのはB3地区だ。

「おい、マジか・・・」

 オムが声を漏らすと、派手な音を立てて入口から何者かが飛び込んてきた。

 反射的にそちらを見ると、カーキ色のマントを羽織った黒い猫型ミュータントが佇んでいる。

「お前は・・・!」

 その人物は街の近隣で暴れ回っている盗賊の“ロゥ”だ。

 少しの間睨み合うと、オムは僅かな隙を突いて壁にある非常ベルへ走りだした。

 しかし、ロゥは電光石火のタックルでオムを後方に吹き飛ばす。そして、さらに追い打ちを掛けようとするが、仰向けに倒れていたオムは起き上がる勢いで両足蹴りを食らわせる。

 強制的に間合いが確保され、互いにファイティングポーズで睨み合いを再開する。

 そして、また僅かな切っ掛けを見抜き二人は飛び掛かった。

 突き、蹴り、防御、回避を高速で繰り出し合い、一進一退の攻防を続けていく。

 永遠に続くかと思われた闘いだったが、突きを蹴りで弾かれたロゥの上半身が大きく揺らいだ。

 オムはすかさずガラ空きになった上半身に、全身の力を込めた両手突きを放つ。

 渾身の一撃を受け吹き飛んだロゥは、非常ベルに叩きつけられ床に転がった。

 ベルがけたたましく鳴り響く。

 オムは気絶するロゥに向けて走り出すが、横から凄まじい衝撃を受け洗濯物の山にダイブした。

「いってぇ・・・」

 痛みを堪えながら身体を起こし辺りを見回すと、目つきの鋭い白い猫型のミュータントが気絶するロゥを蹴り起こしていた。

「女帝・・・!」

 その新手はロゥと同じく悪名高く、女帝の異名を持つ女盗賊“ベレーザ”だった。

 すぐさまオムは洗濯物を跳ね除け、ファイティングポーズを取る。

 ベレーザも復帰したロゥとともに戦う姿勢を取った。

 しかし、睨み合う間もなく入口ドアが開放され、非常ベルを聞きつけた兵士達が突入し銃を構える。

「動くな!」

 リーダー格のニンゲンが叫ぶも、ベレーザとロゥは互いにアイコンタクトを送り、それぞれ別の窓から逃げて行く。

「あ!・・・行け!」

 ニンゲンはチームに追跡を命じると、オムと軽く挨拶を交わし工場を出て行った。

 静まり返った洗濯工場。オムは一息ついて辺りを見回すと、洗濯物が全て散乱している。

「おい、全部やり直しじゃねぇか・・・」

 惨状を認識したオムは絶望の声を上げた。


 その後、午前中で終わると思われていた洗濯は結局、夜まで掛かることになり、工作活動のため侵入した盗賊二名も取り逃がしたという話を聞いたオムは、二重で落胆するのであった。

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