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John side 疑問、疑念、疑惑


「あなたが、ジョン・エウさんですね?」


絶対安静ときつく言われているジョンが、面会希望者という少女に会って開口一番に言われたのがこの言葉だった。


「はい、そうですが…?」


彼の知り合いではなかったが、受付が通したのであれば少なくとも不審者ではないのだろうと、首を傾げつつも答える。


「あなたに聞きたいことが──」


「ちょっと先生!流石に名乗るくらいはしましょうよ!」


そのまま続けようとする少女を、傍らに立つ青年が慌てたように止める。


「調査に私の名が必要か?」


「当たり前じゃないですか。ほんと社交性ゼロっすね先生…」


青年が肩を落とすのも無視して、少女はジョンを真っ直ぐと見つめ、言った。


「私はマイヤ・フローヴェ」


「本当に名乗るだけなんすね…。あぁ、僕はディド・ダラベールっす。先生の助手をやらせていただいてます」


話には聞いていた。最近世間を賑わす探偵コンビ。特に、マイヤは『名探偵』であると。


「ジョンさん、あなたが火傷を負った火災現場で、あなたの魔力の痕跡が見付かりました。何故なのかご説明いただけますか?」


この世界における『名探偵』の条件とは、知識量や推理力がずば抜けていることでも、地道な調査を続ける根性があることでもない。


魔力の痕跡を辿るのが上手い、ただそれだけである。


「…あぁ、そのことですか」


とはいえ、この質問であれば全く問題はない。


「申し訳ありません、──火を少しでも抑えようと、魔法を上書きしまして…。結果として火を止めることもできず、捜査を撹乱してしまうだけとなりました…」


「では、なぜ痕跡を隠そうとしたのですか?事実、私でなければ自力では見付けられないでしょう」


「先ほど言ったことにも関係がありますが…捜査の邪魔をしたくなかったので、なるべく目立たないように、と。結局、犯人の魔力は残っていなかったようですが…」


「…なるほど」


「だから言ったじゃないですか!事件後の事情聴取でこのことは申告済みだって!」


「君は信用ならない」


「酷い!」


どうやら探偵と助手と言っても、気の置けない関係であるようだ。ディドが敬語を使ってはいるが、その距離感は友人の物に近い。


「すみません、うちの先生が…。被害者の方を疑ってしまったこと、代わってお詫び申し上げます」


こうして困ったように謝るディドは、マイヤの幼さも相まって保護者のようにも見えるのだから、一言では言い表せない関係性なのかもしれない。


「いえ、大丈夫ですよ」


ジョンが微笑ましい物を見るような目をしているのに気付き、ディドは居たたまれなくなった。


「さて、とりあえず今日はもう用はありません。ディド、帰るぞ」


「先生!ただでさえ怪我人の病室に押し掛けてしまっているのに、失礼っすよ!」


「いえいえ、話し相手になってくださって、嬉しかったですよ」


「もー…ジョンさんが人格者すぎる…!すみません…!!」


ぺこぺこと頭を下げて、扉を閉める。


二人が去った病室で、ジョンがぽそりと呟いた。



「"今日は"って言ったか?…何か受け答えミスったかぁ…?」





※ ※ ※




「もー!先生!聞いてます!?」


「聞いてない」


「もー!もー!!」


「牛にでもなる気か?」


「もーーーーーーーー!!!!」


すたすたと歩みを止めないマイヤに、ディドは分かりやすく怒る。


そうしている彼らは年の離れた兄妹にも見える──し、事実関係性を問われたときはそういう設定にしている──が、彼らは他人である。


元々、マイヤの魔力捜査に感銘を受けたディドが頼み込み、探偵としての技術の教えを請うたのが始まりだが…生活力及び社交性が皆無のマイヤを放っておけず、世話係になっているのが現状だ。


「先生!やっぱジョンさんには"エトニコネ"には関係ないんですよ!」


エトニコネ──約30年前から突如現れた、炎の化け物。デャン領ネケーメナ街に伝わる伝承である。彼らはそれが本当に人外の仕業なのか、はたまた人為的な物かを調査していた。


「あんな優しい人が凶悪な放火事件を起こすなんて考えられませんよ」


「だが、彼は"エトニコネ"発生当初からこの街にいて、かつ火災に遭遇して生き残っている人間の一人だ。火魔法の扱いも相当の熟練。疑わない方が不自然だ」


「この街が発展したのは今の領主からですし、街が小さかった昔からいたなら、遭遇頻度が高いのも当然じゃないっすか?生きているのも、火魔法の使い手なら何とか致命傷は避けるようにしたとか」


証拠がない。故に、彼らの話は全て憶測だった。むしろ、証拠がない分、ディドの方が的を射ているまである。



「──それでも、彼は怪しい」


「りょーかいです。先生がそう言うなら、自分は付いてくだけっすよ」


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