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夕闇の近づく海岸で

失恋した女子高生が夕陽の見える海岸に立っていました。


家紋武範様の『夕焼け企画』参加作品です。

 海原を夕陽が赤く染めている。

波が静かに岸壁に打ち寄せ、空はオレンジ色に染まっていた。


 加藤ノゾミは一人、海に向かって立っている。

その目に涙を浮かべた彼女は、少し傷ついているようだ。


 彼女は憧れの先輩に告白し、振られたばかりだ。

ノゾミが通う高校の生徒会長でもある先輩は、背が高くてかっこよくて校内の誰からも好かれていた。

もちろんノゾミもその一人だった。


 彼女の目の前に広がる海岸は、幼少期からの思い出が詰まった場所だった。

ノゾミがぼうっと海を眺めていると、近づいている足音があった。

幼馴染の鹿原リョウだ。


 挿絵(By みてみん)


 同い年のリョウは昔からノゾミのことが大好きで、何度か交際を申し込んでは振られていた。

彼はノゾミの横に立つと、隣で海を眺めた。


「リョウ……。あたしのことを笑いにきたの?」


「ばーか。だれがそんなことするかよぅ。オレがここに来たかったから来ただけだよ」


 ふたりとも悲しいことや(つら)いことがあると、よくここに来ていた。

そんな時、かならずもう一人が隣にいたのだ。


「ノゾミ。ほら、みてみなよ。きれいな夕陽だろ。知っているか? 夕陽が見えた次の日は晴れるんだぜ。今は心に雨が降ってても、あしたはカラッと晴れるさ」 


「…………あんた、ずっと前にも似たようなことを言ったよね。あたしは覚えているわよ。あれは小学四年生の夏休みよ。ここで今みたいな夕陽を二人で見て、次の日すごい雨だったじゃない。どっちもカサをもってなくて、二人で濡れたでしょ」


「はっはっは……。すげえなぁ。そんな昔のことをよく覚えているな」


「だてに長年、いっしょにいるわけじゃないわよ。でも……ありがとう。少し元気が出たわ。一回フラれたくらいで落ち込むなんて、あたしらしくないね。そういえば、リョウは三回もあたしにフラれたんだっけ。なかなかタフじゃない」


「おいおい。少なくとも五回以上なんだけど。軽く言った分はカウントされてないんだな」


 リョウはノゾミの瞳をみて、ゆっくりと言った。


「ノゾミ。オレはノゾミが一番大好きだ。オレとつきあってくれ」 


 ノゾミはうつむき、そして小さくうなづいた。

リョウはいつも自分の側にいた。困ったときはいつも助けてくれた。

大喧嘩をしたこともあるけど、たいていはこの海岸で仲直りをしていた。


 リョウの存在は、彼女にとっては特別なものだったのだ。


「リョウ、ありがとう。あたしは先輩が好きだったけど、あの人には他に好きな女性がいるみたいなの。こんなあたしでもいいの?」


 リョウはノゾミの肩に手を置き、やわらかい微笑みで応えた。


「ノゾミ、君は本当に素敵な人なんだから。先輩が君を選ばないなんて、彼は見る目がないってことさ。ノゾミがどんな人間だか知っているから、君を選んでくれないのは、きっと先輩の損失だってことだよ」


「ふふっ……」 


 ノゾミは小さく笑みを浮かべた。彼女はいつもリョウの優しさに支えられてきた。

なんとなく弟のように感じていたリョウが、今はなんだか大きく見えた。

リョウがそばにいることで、彼女の心の雲も晴れつつあった。


 ノゾミは微笑みながらリョウに尋ねた。


「リョウ、まだ時間あるよね。これから一緒にどこか行こう。どこでもいいわ」


 リョウは少し考え、この近くにあるカフェを思い出した。


「あそこのカフェに行こうよ。今行けばもっときれいな夕陽がみられるよ」


「前に高校入学の記念に行ったところね。いいよ」


 二人は久しぶりに手をつないで歩きだした。

夕陽に照らされた二人の影が岸壁に長く伸びている。


 カフェに入り、海を臨めるテーブルに着いた。

太陽はほとんど水平線に隠れており、空は鮮やかな赤に染まっていた。

いくつかの星も見えだしてきた。


 店内の灯りが徐々に明るくなり、ノゾミはリョウに向かって微笑んだ。

言葉にならない感謝の気持ちがその笑顔に宿っていた。


「リョウ、本当にありがとう。あんたがいなかったら、私は今、こんなに元気に笑っていられなかった」


 リョウは照れくさい笑顔で答えた。


「ノゾミが笑顔でいてくれるなら、オレにとっちゃあ、それが何よりのご褒美だよ」


 二人はお互いの手を取り、互いに見つめう。

カフェの窓から見える海の波は穏やかで、心地よい光が二人を包み込んでいた。


本文中の女の子のイラストは堀田真裏さまに描いていただきました。


他の『夕焼け企画』参加作品や、アホリアSSの他の作品はこの下の方でリンクしています。



挿絵(By みてみん)

謎の小学生の豆知識♪

「太陽や月は、地面に近くになると赤く見えるんだよ。

空気の層を通る距離が長くなって、赤い光だけが伝わりやすくなるからだよ。

途中の空気で反射した赤い光で、夕焼け空になるんだよ。

日本上空には西から東に吹いている偏西風があって、雨雲は西から東に流れるんだよ。

夕焼けが見えたら西に雲が少ないから、翌日はいい天気になりやすんだよ。

でも、偏西風が日本上空にあるのは春と秋だけで、夏と冬はズレるんだよ。

とくに湿度の高い夏は、夕焼けの次の日も雨が降りやすいんだよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 何度も振ってもめげずに寄り添い続けてくれたリョウ君の存在は、ノゾミさんにとっても大きな物なのですね。 失恋の痛手を感じながら眺めていた夕日が、次の瞬間には新たな恋の始まりを彩る景色になるの…
[一言] 夕焼けの海岸で、二人いるのがいいですね。 そこで想いが通じ合うのが良かったです。 明日はきっと晴れでしょう。 二人の心みたいに。
[良い点] 悲しみから立ち直るのって一人だと時間がかかるし、やたらめったら苦しいですよね。 それをちゃんと分かった上で寄り添ってくれる存在って本当に大切だよなぁ~と改めて考えさせられました。 大切な存…
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