葡萄酒
月に1回、その感覚はやってくる。
全身を燻る、そわそわした、落ち着きの無い感覚。それは、苛つきにも似ている。
下腹部は熱を保ち、あらゆる箇所が痛みに敏感になる。同時に、心地よくもなる。
女の子は恋愛関係の話題が大好きだ。誰が誰を好きだとか、フラれたとか。数人と戯れながらそんな会話を楽しむのは嫌いではない。むしろそんな話題で友人をからかったり、悩みを聴くのは相手が私に心を許しているとさえ思う。
目の前で微笑を絶さない獣が、どんな奴かも知らないくせに。
友人たちは言っていた。
「理想の人と結婚して早く仕事辞めたい」
「20代のうちに家庭が欲しいよね」
皆にとっての恋とは、そういうものなのか。将来が楽になるからか、子を作るのが目的か。それぞれの価値があるのは分かっている。
否定するつもりもない。だが、その一般的な恋で満たされるのは、羨ましい。
数年前から気付いていた。
柔らかい色合いの服装や華奢な体つき、なびきながらふわりと薫る長髪、紅い唇。二重に包まれた瞳と視線が重なったあの時から、その感覚はあった。
脈が速まり、全身が段々とのぼせてくる。攻撃的な目付きで彼女を捉える。標的に狙いを定めた獣のように神経が張り詰め、次第に思考が侵されていく。
想像するのだ。液体で満たされた袋のように、爪で簡単に割けてしまいそうな白い乳房。美しくくびれた胴体は呼吸に合わせて波打っている。
誘惑のままに手の平を滑らせ、独り占めができたなら、どんな喘ぎ声が聴けるだろう?
その弱い身体を傷つけて、全身から溢れる赤黒い生の証拠を、正確には生きていた証拠を、透明のグラスに注いだらどんなに見惚れてしまうだろう?
誰にも理解し難い、私の身体に取り憑く獣が、今日も、頭をもたげる。