■神隠し
かくれんぼ。
それは子供の遊びである。
しかし、この地域に至っては神隠しを行うための手段の一つであった。
大昔からの風習で生贄を捧げるルールがあった。
私の両親がどこまで知っていたのかは知らない。私は何一つ知らなかった。
アキちゃんも知らなかったらしい。事後、口止めという形で知らされたそうだ。
あの日、私は確かに鬼もやった。
だけど隠れる側もやった。
ミコちゃんが鬼になった時、私は――神社の中へ連れて行かれ――
そこからの記憶はとても曖昧だった。多分薬を盛られたんだと思う。
『私は……こんな制度間違っていると思うんですよ。だからあなたは死にます。ここで。もう戻ってこないでくださいね』
私は一度死んだ?
「せっかく拾った命をわざわざ無下にするなんて……。さんざん警告したでしょうに」
ミコちゃんは深いため息をつき、私から横たわるレイくんの方へ視線を落とす。
「次の生贄にはまだ早過ぎるんですよ。どうせ死ぬならタイミングをあわせてくださった方が犠牲は減るのに……」
そしてミコちゃんはアキちゃんを睨んだ。
小さい声で「ひぃ」と声がした。
「犠牲って、生贄ってどうゆうこと? 私がみーちゃんなら、しーちゃんはどこに行ったのさ」
「「…………」」
沈黙がしばらく続いた。
血のニオイのせいか、虫の羽音だけがうるさい。
「自分の名前をしっかりと思い出してみては? どちらもあなたでしょう」
言葉足らずなミコちゃんに続いてアキちゃんが解説を加えてくれた。泣きながら。
「みーちゃんはあの日……生贄に選ばれて死んじゃったから……それからしーちゃんになっんだよ……。わたしが、きみのこと、「しーちゃん」って呼んだのも今日が初めてなの。覚えてないの、みーちゃん」
『ミナト、あなたは今日からシオンですよ。シオン。いいですね?』
「どうして。私は生きてるの……?」
「生贄の処理はうちの仕事ですから。私だって妹のように可愛がっていた子を殺したくないですから」
もう一度ミコちゃんはため息をつくと、私とアキちゃんにゴム手袋を投げ渡してきた。
「手伝ってくださいますよね?」
アキちゃんは鼻をすすりながらも、すぐに手袋をハメた。血がべったりとこびりついた斧を拾い上げ、「はい」とか細く鳴く。
「もう一度“かくれんぼ”をしたってかまいませんよ。次は巫女として対応しますが……」
ゴム手袋って、こんなに柔らかかったっけ。
指を通すのに、こんなに手間かかるんだっけ……?
「さぁ、誰にも見つからないように隠しましょう。これは神隠しなのですから」