■夜のかくれんぼ
レイくんはどこからか懐中電灯を持ってきてみんなに配ってくれた。
「ねぇ、しーちゃん。やっぱりやめようよ。普通に真っ暗で危ないよ」
「みーちゃんのこと教えてくれるならやめるよ」
「…………」
黙ってしまった。頑なに話す気はなさそうだった。
「お待たせしました。ルールはいつも通りで構いませんね。鬼は60秒数えてから行動開始。隠れる場所は神社の敷地内……下の石垣で囲まれている範囲までです」
「チッ。こんなことしたって思い出すもんもねぇだろうよ」
再度確認を取られた後、私は目を瞑って1から順に数を数え始める。
真っ暗な世界。三人が走っていく音だけが聞こえた。
「……55、56、57、58、59、60」
目を開く。懐中電灯の明かりに虫が寄ってきていて気持ち悪い。
私たちのかくれんぼに「もういいかい」と聞くルールはなかった。数え終わればスタート。隠れきれなかったらそこで終わり。
「まずはアキちゃんか」
怖がりなアキちゃんはいつも建物の近くにいた。
「隠れる気ある?」
案の定、アキちゃんは十年前と同じところで懐中電灯を抱きかかえてうずくまっていた。
「……しーちゃん」
「まぁ見つかるならよかった。行こう」
再び手を差し伸べる。しかし、
「逃げて!!」
いきなりアキちゃんが懐中電灯の灯りをつけ、後ろから小さなうめき声がした。
私もとっさに光から逃げるように横へ避け、そしてそこになにか重たいものが振り下ろされた。
「おい、暁。お前なにしたか分かってんのか? ……次はお前かもしれないからか? こんなことして助かると思ってんのか?」
鬼のような形相でアキちゃんを睨みつけていたのは、明らかに大きな斧だった。
「オレだってお前を殺したくなかったんだ……。まぁ後でな。逃げるなよ。お前はあいつを殺してからだ」
レイくんが私を捉える。私はとっさに懐中電灯を彼の顔面に向かって投げつけた。
とりあえず逃げよう。レイくん相手では敵わない。斧に素手で敵わない。
アキちゃんは敵じゃない、のか? それならミコちゃんは……?
この村は異常だ。助けを求めても消される。
私は人気のない雑木林の方へ飛び込んだ。
「お前が戻ってこなければ……誰も不幸にならなかった。お前があの時死んでくれてりゃ誰も不幸にならなかった」
土地勘がある男の足に都会の女子高校生が勝てるだろうか。まぁ無理だ。
真後ろでレイくんの気配を感じる。私を殺してやろうという殺意を感じる。
「何で死ななかったんだよ、ミナトぉ」
斧が足元をかすめる。
そしてお約束のように私はすっ転んだ。
「中途半端なことしやがって、」
私は死ななかった。
だって、なぜかもう一本出てきた斧が彼の後頭部に突き刺さっていたのだから。
「……ごめんね。ごめんね。お兄ちゃん。……でもわたし、死にたくないよ……」
「アキちゃん……?」
「よかった、無事ったんだね。……みーちゃん」
「みーちゃんなんてどこにも……」
ズキンと頭に何か刺さったような痛みが走る。
「生贄は怜ですか。……せっかくいろいろ上手く運んでいたのに……みなさん、ほんとに好き勝手やってくれましたね」
アキちゃんが懐中電灯の光の元、申し訳なさそうに俯く。
「いかがでした? 十年前のこと、思い出しました? ……四恩湊」