7話
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「実はね....」
少し神妙な面持ちで、喋り出す遥。
「私が電話で受けた話なんだけど、今も美咲とそこそこの付き合いをしている友人の話によると、数年前から彼女が痩せ初めて、特に最近のこの半年は、特に周りが大丈夫か心配しそうな位、細くなってきて、その友人が、最近また美咲と会ったら、一年前とは見違えるほどに、痩せてたんだって」
「ダイエットなのか?」
「う~~ん、それがどうも違うみたいで、顔の表情も最近は変わってきているみたいで、少し前に会った時には、会話中に一度も笑顔が無かったって言ってた」
「はるちゃん、それっておかしいよ、明らかに、生活面で何かあったに違いないと思う、わたしは」
それだけを聞いただけで、3人が、美咲のまわりで何かがあったと言う事に、気が付いた。
「それも、望んでの痩せ方では無い事は確かだな」
「そうね、お兄ちゃんの言う通りだけど、話の内容だと、久しぶりに会った友人に、美咲に笑顔が無いと言われた事がまた変だよね」
「でもオレ、美咲と付き合っていた時に、何度も実家に行ってみたんだが、家庭内の雰囲気は結構、好印象だったんだ、だから、家庭内では無いな、絶対に」
3人が、不思議に思っていると、翔が。
「で、いまだに美咲とアイツは付き合っているのだろうか? そこは聞かなかったのか?」
「それなんだけど」
遥が、不思議そうに言うが、次の言葉でさらに不思議さが不可解さになった。
「未だに付き合ってはいるみたいなんだけど、美咲の方が、ずいぶん前から会いたくない様な事を言っているらしいの」
「じゃあ、もう分かれるんじゃないの?」
萌が単純に聞いてみた。
「それが、どうも別れられないって言うのよ、おかしいでしょ?」
「それ明らかに、大輝が何かしている様にしか取れないんだけど」
「やっぱそう思う? 翔も」
「そりゃそうだろ、あの明るい性格の美咲だぞ、少なくとも、俺と付き合っていた時には、そんな変な表情は全くなかったからな」
3人の思いは一致した。
「コレは、大輝の行動に問題がある。一度美咲と会わなければいけないと思っていたが、それ以外の意味でも会って事情を聴かないといけないな」
「そうね。 いくら今、交流が無くなったからと言って、ほっとく訳には行かないわね」
「そうと決まれば、今からでもすぐにその友達に連絡して、明日にでも会えるか聞いてみてくれ、一刻も早い方がいいみたいだからな」
「うん、今から連絡してみる」
そう言い終わった後。遥はスマホを取り出し、早速電話をかけ始めた。
△
一度切った電話から、約30分後に再び着信音が鳴り、数分話した後に。
「うん、分かった、ありがとう、じゃまたね」
そう言って、遥は通話を終わり、兄妹に向き合い、今の事を話し始めた。
「あのね、取りあえず、明日の朝9時に、以前に良く行っていた、ファミレスに行くからって言っていたわ」
「あの24時間のファミレスだな、分かった」
「でね、取りあえず、私だけが会いに行くって言っておいたから、翔は私がスマホで呼びだしたら、店に入って来てね、でも、美咲がそう言う気持ちにならなかったら、そのままよ」
「分かった。それじゃあ、俺は店舗には入らずに、駐車場の車の中で待ってればいいんだな?」
「うふふ、そう言う事ね」
「お兄ちゃん、久しぶりに見る美咲ちゃんに、惚れるなよ」
「ば!....」
それを聞いた遥が。
「翔。 私 信じてるから。これ以上待たせないで」
「わわ!、はるちゃん、それ告白?」
「そう受け止めてもらってもいいわ」
「だいた~~ん」
「ね? 翔」
「翔??」
こんな色っぽい顔で、言われて、翔は完全に固まってしまい、返事すら返す事が困難だった。
萌に軽く頬を叩かれ、我に返った翔は、遥を見て、続きを聞いた。
「さっきの話って、明日の予定だけだったのか?」
「あ、....」
思い出したように、遥が叫んだ。
「美咲、私との後、午後から予定があるから、用事は午前中で終わりにしたいって言ってたんだって」
「そうか」
「多分だけど、大輝と会う事になってるんじゃないかな?」
「まあそうだろうな」
「なんか、腹立つね、お兄ちゃん、その大輝ってヤツ」
「はは、今思えば、数発殴ってやればよかったって、思った事も何回かはあったな」
「普通そうだよ」
普通はそうだ、まるで略奪みたいに奪っていった大輝には、今でも怒りが収まらない。
だが、それをしなかったのは、分かれ際の美咲の、悲しい目がそれを静めたのだ。
話し合っているうちに、萌のスマホが鳴った。
画面を見て。
「一階のお母さんから、早く順番にお風呂入っちゃいなさい、だって。どうする?」
「私は後でいいわ、翔、先に入って来て」
「男の後っていやだろ? 遥こそ先行けよ」
「だって、悪いじゃない」
「いいから」
「だって....」
それを聞いていた萌が。
「はるちゃん、私と入ろ?、 ならいいでしょ?」
「おお、それが良い、二人で入ってくれれば、時短にもなるし。行ってこい二人とも」
「じゃあ行こ、はるちゃん」
「う、うん....」
「おお、行け行け」
「ごめんね翔、じゃあお先に入って来るわ」
「ん~」
翔は二人を見送った後、再び考えていた。
「何か変だ、あんな美咲に笑顔が無いなんて。 おかしい、何か対策していかねば」
と、独り言を言いながら、正式に 分れ と言う言葉をお互いに言っていない関係なのに、それでも、何かしら心配をする翔だった。
△
その後、若い女性陣が風呂から出て、入れ替わりに翔が入って行ったが、ココで爆弾が待っていた。
翔が、脱衣所に入って、脱ごうとトレーナーに手を掛けた時に、洗濯機の上に明らかに妹とは違うサイズのブラが置いてあったのだ。
それを見た瞬間に、遥のモノだと分かったので
「あいつら~....やったな」
と思って、仕返しに、翔のボクサーショーツを、その横に畳んでくっ付けて置いた。
風呂上がりに、何事も無かった様に自分の部屋に行こうとしたすぐ後に、脱衣所に入って行く遥の姿があったが、入った瞬間に悲鳴が聞こえた。
「きゃ~!!」
と、叫ぶ遥の声に、翔は ウシシ と、してやったりの顔をした。
しかし、その後、すぐに黙った遥が、翔のボクサーショーツを、一度胸に抱いたという事は、誰も知らない事実である。
△
夜も更け、午後11時前になり、翔の部屋のドアがノックされ、遥がおやすみの挨拶に来たが。
「翔、私達もう寝るからね、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
と、お互いに言って、ドアを閉める直前に。
「翔の えっち....」
と言い、遥は顔をほんのり赤くして、ドアを閉めた。
コレに翔はまた、ウシシ と思うのだった。




