3話
3
「え?!」
いきなりの満からの告白に、驚きを隠せない翔。
「ダメでしょうか?」
いきなりの告白。 でも今までの接点を考えるが、特に親しく接していたと言う訳でもなく、ただ業務中の会話は確かにしていたものの、それ以上に突っ込んだ会話は無かった翔と満だった。
なので、反対に聞いてみた。
「何で告白?」
その一言で、この場がシラケた。
は~~~っと、息を吐きながら、満がぽつぽつ話だした。
「実は.....、同じ社内の運転手に、最近迫られていて、私自信が先日彼氏と別れたばかりで、そんな気分じゃないのに、その人ってグイグイ来るんで、最近特に鬱陶しくなってきて、その話の最後に、『私、今彼氏が居るので、困ります』って、言って、牽制したんだけど、それじゃあ証拠見せてくれたら諦めるからと言われて、今こうして翔さんにお願いしているんです」
見た目が普通に可愛く、身長こそ高めだが、この娘は多分、会社内で男性に人気があるのだろうと、翔は思った。
「社内の誰かに頼めばよかったんじゃないの? こんなオレよりも」
コレにはすぐに満は否定した。
「同じ社内では、フェイクな事案なんて、すぐにバレそうなんで、こうして社外の人の翔さんに、お願いしてるんです」
だが、この時に翔は、喫茶店の外から遥の目線に気が付いた。
今この状況は、窓越しに、まるで女の子が、翔に対して、必死に何かを懇願している状況に見えてしまう。
そうだ、この後、遥とも約束があったのだ。
もう一度窓から外を見ると、すでに遥の姿は無かった。
△
その後、結局 満との カリ彼 ってのを暫く引き受けることにしたのだが、あくまでも、フリだからと言う事で、偽装証拠の時だけと、例の男が諦めてくれるまでのみ、満と付き合う事で、話は終了した。
もう時間は6時半に近い。
さっき遥を見かけてから、30分は経つ。
取りあえず、連絡を取ってみるために、スマホを取り出し遥を呼び出す....が、出ない。
1分ほど時間を開けてから、再び呼び出す....、すると今度は出てくれた。
「もしもし、遥?」
『....、はいそうですけど』
いつもと違う冷たい口調だ。
取りあえず、翔はこの後の事を聞く事にした。
「待ち合わせどうする?」
『私なんかと会っていいの?翔』
と言う言葉が帰って来た。 これはついさっきの喫茶店の事を気にしての言葉だと思った。
「って言うか、なんで? いいに決まってるじゃん」
社外では、翔と遥は同期とと言うのもあって、言葉使いが変わる。
『でもさっきの....』
そう言い、遥は黙った。
少し沈黙が入ったが、翔が問う。
「遥、取りあえず、さっきの喫茶店に今から集合な。待ってるから、必ず来いよ」
そう言って、会話を閉じた。
△
10分後、二人は先ほどの喫茶店に、その姿があった。
遥の姿は、下を向いていて、少ししょげている様にも見える。
「何で最初電話取ってくれなかったんだ?」
その言葉に、遥は黙ったまま俯いたままだ。
「何か言ってくれ、でなきゃ話進まないぞ」
「だって....、」
その一言で大体を悟った翔が、見透かすように聞いてみる。
「もしかして、さっきの彼女の事が気にかかるのかな?」
その言葉に、やっと顔を上げて、翔を見つめる。
「だって....、」
「だって、何なんだ?」
「....、だって、あの子に告られてたんでしょ?」
そこは正直に言う翔。
「そうだが」
また、肩をすくめ、しょげる遥。 その後も暫く黙ったままになる。
「また」
全然事が進まない事態に、翔が先ほどの事を打ち明けた。
「あのなあ、さっきの事を気にしてるんだったら、あれは 告り であって、告りじゃないんだ」
先ほどの満との事を、掻い摘んで話していくと、遥の目が輝いてきた。
「じゃあ、あのトラックの女の子とは付き合うんじゃないんだね、翔」
「そうだが」
「じゃあ、今は 翔はフリーなんだよね?」
「そうだが」
「これからも、誰とも付き合う予定は無いんだよね?」
「そうだが」
それに気を良くした遥が、当然昔の事を聞いてきた。
「翔。 あの事ってまだ、引きずってる?」
この言葉は、本当に親しい間柄ではないと、言い出してはいけない事案だ。あえてこの事を引き出すと言う事は、遥に何かの決心があるという事だ。
「そうだな、美咲とは生涯共にするだろうと、就職してからは同棲も考えていただけに、あれは相当キツかった。でも、最近はやっと落ち着いてきたかな」
「そう....。 少しでも気持ちが落ち着いてきたっていう事ね。だから、さっきの満さんだっけ、その子からの依頼を受けてあげられるのね」
「そうなんだが、当然、彼女はこの話を知らないんで、そのまま引き受けたんだが」
「そうね、知っていたらこんな相談、とても出来ないからね」
「今でも遥が近くにいてくれるのが、結構オレにとって心の支えになっている事に、とても感謝しているんだ。いつもありがとな、遥」
「ううん、いいのよ。 しょげている翔なんて、似合わないから」
今更ながら思うと、アレから翔は内気気味になり、大学卒業までの期間は特に、陰キャと言う言葉が当てはまる程に、気分が落ち込んでいた。
しかも、容姿が良いのに、性格が陰湿となるが、それでも何とか卒業までに至ったのは、今 目の前にいる遥の存在が、当時からあったと言うのが、大きな支えとなった。
就職にしても、遥が翔の尻を叩いて決めたのだ。
一緒の会社にしたのは、遥の思惑でもあるが、第一は、若い人材を補している会社で、家から結構近いというのが、大きな選択の内の一つでもあった。
「遥、今回の要件ってのは何かな?」
この一言で、我に返る遥。
「ううん。もういいんだ。要件は些細な事だから、また近いうちにって事で」
「へえ....、いいのか?そんなんで」
「うん、いいの。じゃあ私帰るから、また明日ね、ありがとう」
「いいや、話せて嬉しかったよ。じゃあ」
そう言って、二人は店を出て、家路に着いた。
翔は、遥からの自分に対する気持ちを、実は十二分に知っていて、今もこの関係を続けているのだが、これ以上進展しないのは、やはりあの件が、今でも大きく躊躇させる根源と言うのが大きな障害だ。
(待たせているんだなオレ。 ごめんな 遥)
心の中で、謝罪する翔だった。