探し物 -吸血鬼の物語- ~失われた愛を探して~
【美容師の娘】
1-11.風魔法をテーマパークで の 短編
イアンが幼いアリーに語る吸血鬼の物語
【美容師の娘】
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/
【美容師の娘シリーズ】
https://ncode.syosetu.com/s0641g/
ヴラデウス・ドラクリヤは、背が高く ハンサムな 男だ。
ヴラデウスは、大きな館に 住み、永遠の若さ をもち、夜を 支配する。
ヴラデウスは、人の 血を吸う。
ヴラデウスに 血を吸われた 人間の 選択肢は 2つだ。
「死」か「奴隷」か である。
血を吸われた 人間の 生命力が 削り取られ
ろうそくの 火のように 消えてしまった時、その命は 失われる。
永遠の 死だ。
しかし、ろうそくが 最後の一瞬に 燃え上がることが あれば、
その人間は 起き上がることと なる。
永遠の 奴隷だ。
不幸にも 起き上がった人間は
ヴラデウスの 眷属として 生きることとなる。
ヴラデウスが その娘を 見かけたのは、冬の日の 夜であった。
少しの 空腹を 覚え 館のある 森から 出ようとしたのだ。
「あぁー だれかっ」
女の 悲鳴が 聞こえる。
ヴラデウスは、女の 血を吸う。
『ちょっとした 食事でも しようか』
ゆっくりと 足を向ける。
そこには 金色の髪をした 若い女が いた。
先が とがった 倒れかけの木 によって 串刺しに なりそうな 男と共に。
2人は、必死で 木を 持ち上げ、押し戻そう とする。
とがった木は、いまにも その胸に 刺さりそうだ。
「だいじょうぶか?」
「助けて・・お願い・・・」
「安心しろ。今助ける。」
ヴラデウスは、彼女だけを見て こたえる。
切羽詰まった 男の声が、「急いでくれ」と 繰り返した。
ヴラデウスは、人差し指と中指の 2本の指だけで
簡単に 木を 持ち上げた。
「指だけで 持ち上げるなんて・・・痛くは ないのですか。」
「あのまま イチイの木に 串刺しに なっていたか と思うと 涙が出そうだ。
助かった。本当に ありがとう。」
ヴラデウスは、吸血鬼だ。
その指に 痛みを 感じる ことも ないし、
その目から 涙が こぼれる ことは ない。
女の 名前は、ルシウ・エステラ
男の 名前は、ドン・ヨルシング
ヴラデウスが そこで 手を 伸ばせば、
男の首を 折り、
村娘の首に 牙を たてることも できたであろう。
しかし、村娘を 一目 見た 瞬間、
ヴラデウスは、従順な 羊のように なってしまった のだ。
ヴラデウスは 荷車に 木を 乗せるのを 手伝い、
彼らの 村までの 帰路を 2人と 歩いて進んだ。
聞くと、神父と 彼女が、
聖霊祭で 広場にたてる 心柱を 切る 作業を していた ところ、
倒れた 神父の上に 削った木が 滑り落ちてきた らしい。
「明日の 聖霊祭も、いらっしゃるんでしょ?」
彼女は、美しい 笑みを うかべた。
聖霊祭は、聖なる 神を 祀り 祈るもの であった。
広場の 中央に たてられた あのイチイの木の 前に 5人の職人が並び、
息をつく間もなく、木から「聖なる十字架」「聖鏡の木枠」「聖杯」など
次々と 聖具が 削り出される。
彼らの村では、
古来から、鏡に 人間の魂を 映し出す力がある と 信じられており、
イチイの木から 削り取った 聖十字架 や 聖鏡、聖杯 を 用いて
人間の 心臓と血を 神に捧げる 血の儀式が あった。
さすがに 今は その儀式は ない。
ワイン を 使うのだ。
神父が 聖具に 祝福を与え、
イチイの 木から 削り出した 聖杯に
血に 見立てた ワインを 注ぐ。
聖鏡を イチイの木から 削り出した枠に はめこみ 天に掲げる。
ヴラデウスの姿が 聖鏡に 写らないことを 気づくものは 居ない。
にぎやかな 音楽が 鳴り始め、あたりが 歓声につつまれる。
祭りだ。
そっと 手が 握られた。
恥ずかしそうに 笑う彼女の 顔が 隣にあった。
酒を 飲み、ダンスを 踊り、二人きりで 小川の 辺へ。
ロマンチックな夜を 星が 飾る。
「今夜は 月が きれい ですね」
彼女の 口から 言葉が 出ると
魅了の 魔法を かけられた かのように
ヴラデウスの 青白い頬は 赤くなる。
やがて 赤い頬に、彼女の 吐息を感じ、
ヴラデウスは、吐息に 唇をかぶせ、月明りに 2人の影は 倒れた。
小さく 手を振る 彼女の 姿を 想う時間を 楽しんだのか、
ロマンチックな 夜の、余韻が 過ぎ去るのを 惜しんだのか。
ふらりふらりと ヴラデウスは 小川沿いを 時間をかけて 一人で歩いた。
月が隠れ、あたりが 完全な 闇に 包まれる まで・・・。
闇は ヴラデウスと 眷属の 衣だ。
夜は、眷属たちが 宴をはじめる 時間 である。
彼が 館に もどると、厄介な 荷物を 眷属が 持ち帰っていた。
おそらくは、あの場所に しばらく とどまっていた のであろう。
荷物は、ロープで 縛られ、口には さるぐつわ を 装着されていた。
ヴラデウスの 到着に 気づいた 眷属は、静かに その場所を あける。
『彼女を、逃がそう。たとえ この館に 居られなくなっても。』
そっと 近寄る。
ヴラデウスの 長く伸びた爪は、 彼女を 縛る ロープを 一瞬で 断ち切る。
口の さるぐつわ を、そっと、やさしく、はずす。
「だいじょ・・」
「助けて・・お願い・・・」
『安心して。今助ける。』
ヴラデウスが 声を 出す前 に
彼女の 美しい声は、「殺さないで」ただ それだけを 繰り返した。
ヴラデウスは、吸血鬼だ。
その胸に 痛みを 感じる ことも ないし、
その目から 涙が こぼれる ことは ない。
そっと 指に 魔力を込め、扉に 手をかざす。
ぎぃぃ という 音が 響く。
開いた 扉を 指さすと、彼女は 後ずさりをし 何も言わず 扉から 飛び出した。
『最後に 一目・・・もう一度・・・うしろ 姿 だけでも・・・』
逃げる その姿も 愛おしく、ヴラデウスは 失われた 愛を 探すように
ドアの向こうに 一歩 踏み出した。
「吸血鬼。見よ、これが 正義 の 十字架だ」
扉を出た ヴラデウスの眼に 飛び込んできたのは、神父であった。
ヴラデウスの 姿が 聖鏡に 写らなかったことに、
神父だけが 違和感を持ったのだ。
皮肉なことに 神父が 手にかざす十字架は、
あのとき 神父を 救うために
ヴラデウスが 持ち上げた イチイの木から 削り出されたモノで あった。
手の先から 灰になっていく 自分の体を 感じながら、
ヴラデウスの 眼は 神父の 後ろに 隠れる
長く美しい金の髪 を チラリと 捉え、そして 全ては 闇に溶けた。
Q.童話の定義を教えてください。
A.「幼年、児童に向けた内容の読み物」としております。
うん、きっと大丈夫・・・。