第3話 “マイトの追いかけっこ”
「ハァハァ……!“瞬足”が使える体力が残ってて、助かった!……けど……」
マイトは、なるべく目立たないように城下町を走っていた。
キリアとの会話の中で、捕まったらろくな事にならないと判断したマイトは、逃げる意向を固めた。とは言っても後ろは海なので、前に進むしかなかった。
煙を出す技でキリアの目をくらませ、視界を遮ってるうちに、マイトは“めちゃくちゃ速く動く奥義”を使って、開きっぱなしの扉から城下町の中に入り、そのまま走り続けていた。
キリアが追いかけて来ている様子はまだない。逃げ切れる可能性があるとしたら、ここしかない。
さっきの会話から推測するに、今のが北門。真っすぐ走っていけばいずれ南門に到達する可能性が高い。その門を抜けてしまえば、おそらく逃げ切れるのではないだろうか。ただ……
「体がもうキツイ!!もう無理!死んじゃう!師匠!もう死んじゃう!!」
元々ボロボロだった上に、万全の状態でも一日に一回使うのが限度な“瞬足”を使った事で、マイトはまさに満身創痍であった。今はもう隣にいない、師匠への叫びがこだまする。
そしてそのこだまを受け取ったのは、
「むっ!?貴様!!さっきの“魔神の剣”!!」
つい数刻前に見た顔の兵士であった。
「この悪魔め!!どうやって団長の手から逃れた!?副団長!!副団長ーーー!!!!」
「やべえええええ!!!!!」
マイトは半泣きで兵士からドタドタと離れた。
「そりゃそうだよね、そっちも南門目指してんだもんね……!!」
目的は違えど、あんなに大勢の兵士と同じ場所を目指しているのだ。見つからない方が不自然だった。
自分が逃げている事が“副団長”にもバレてしまったであろう事に絶望しながら、マイトは半泣きで、なるべく陰になりそうな道を走り続けた。
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どれくらい走っただろう。
マイトはついに城下町の反対側までたどり着いた。先ほどと同じような、大きな扉。おそらくあれが南門だろう。当然、しっかりと閉まっていて、門番も控えている。
さて、どうすべきか。
体力の限界に達していたマイトは、一旦扉から離れ、壁沿いを這うように進み、陰になっている部分に壁を背にして座り込み、もたれかかった。
「ふぅ……落ち着けよ、マイト」
マイトは少し目をつぶり、できるだけ冷静になりつつ、先ほど得た少ない情報を整理する。
「僕はどことも知れない場所に流れ着いた。そして門をくぐって城下町に入った。そしてその中をつっきり、反対側の門から城下の外に出ようとしている」
マイトは一人でブツブツと呟いた。
これは、決してマイトが寂しい人間だからという訳ではなく、こういう場合、頭の中で整理するよりも、口に出して整理していった方が思考がクリアになる、という師匠の教えによるものであった。
「走ってる途中ででかい城があったから、城下町である事は間違いない……でも、思ってたより城下町って狭いんだな」
走った距離はおそらく大したものではない。城を中心として、その周りを小さい町が取り囲み、そしてそれを城壁が取り囲んでいる。そのようなイメージをマイトは持った。
度々目に入る太陽の紋章は、どこかの国章である事は明らかで、確実に地理を教えてもらってる時に本で見た記憶はあるのだが、勉強が嫌いだったマイトはあまり覚える事をせず、どこの国の紋章だか忘れてしまった。てへぺろ。
「さっきのヨロイのお姉さん達は、ここを目指してくるはず……」
同じ場所を目指しているであろう、マルシベールや騎士団の面々に見つからないよう、できるだけ離れて走ってきたので、彼女らの現在位置は不明だが、ひとまず自分の方が早く到着したようだった。
そして確か、“南門側”で暴れている賊をどうこう、と彼女達は言っていた。そしてとりあえずこの付近で、トラブルがあった形跡やざわついてる様子は見受けられない。すなわち、
「暴れてる人たちは、この門の外側にいる、っていう可能性が高い」
おそらくこの城壁の外側にも街があり、輩たちはそこで暴れているのだろう。そう考えれば全ての辻褄が合う。そうなれば、
「もう少し待てば、この扉は開く可能性が高いっていう事だ」
マルシベール達が到着すれば、この扉……というよりも、城門というべきか。いずれにしても、討って出る為にこの門は空くだろう。となれば、その瞬間を見計らって、兵士達に紛れて門をすり抜けてしまうのが、最も楽だ。
あとは、そこで巻き起こるであろう混乱と、ごたごたに乗じて。
「城下から離れられれば、何とかなるかな……」
北側は海だったのだから、こちら側の門の先は、道が途切れるという事はまずないだろう。ここが、自分のいたような、小さな島で無い限りは。
マイトはそう結論づけると、座ったままうつむいた。
「そうとなれば、ヨロイのお姉さん達が来るまで、ちょっとでも休んでおこう」
いずれにしても、門が開かなければどうにもならない。なら今は、逸る心を押さえて、少しでも体力を回復するのが吉。
城壁にもたれかかり、改めて心を落ち着けようとした、その瞬間――――
「あ、危なーーーーーーーーーい!!!ぶつかるーーーーーーーーーっ!!!」
はるか上から、鈴のような声が鳴り響いた。
マイトが反射的に視線を上げると、はるか上空、城壁の上から、女の子が落ちて来るのが見えた。
「―――――――!?」
人間は、本当に驚いた時には声も出ないらしい。
くりっとした大きな瞳と一瞬だけ目が合った。すっげぇ可愛い顔してるなぁ、と、マイトはどこか呑気に思った。
そして、その刹那飛び込んできた光景を目にして、かろうじて一言だけ絞り出した。
「み……!!」
ドッカァァァァァァァン!!!!!
避ける間もなく、とんでもない衝撃がマイトの体を襲った。あたりに轟音が鳴り響き、破片や土埃が所せましと舞い上がる。
マイトは、薄れゆく意識の中で、ぼんやりと思った。
やっぱり、水色のしましまって最高だな、と。
登場人物紹介
キリア:アルガンド王国騎士団団長。肩くらいまでの赤髪に、切れ長の眼を持つ、王国一の実力者。
鎧などは付けずスーツを着ており、鞭を使って戦う。常にだるそうにしている。
マルシベール:騎士団副団長。オレンジの長髪で、きりっとした出で立ちのしっかり者。
金の甲冑に身を包む。武器は無く、持っているのは盾のみ。強さはキリアに並ぶ。
二人とも相当な美女で、国民からのハンパない支持率を誇る。
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