表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

プロローグ “狂いだす歯車”

どうぞよろしくお願い致します。

「……やっと……やっと見つけた!!」



「ボクは、君を探してたんだ!!」


 

 黒髪の少女は、大きな瞳を喜びと興奮で輝かせ、目の前の少年に言った。



「ボクに代わって、魔王になってほしい!!」




 ――瞬間、少年の思考は停止した。何を言っているのか分からなかった。

 血を流しすぎたせいでぼんやりとした頭が一気に覚醒し、しかし思考は感情についてこれず。

 

 精いっぱいの表現として、絞り出すように、一言漏らした。




「え?」



 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 



 世は、悪逆非道の魔王が支配する、暗黒の時代。


 ひとりの少年が、ある島から旅立とうとしていた。


 長身の女性が、長い青髪と、銀色に光る刀を風になびかせながら、少年に問いかけた。


「さぁマイト。準備はいいかい?」


 金髪の少年が、拳を突き出しそれに応えた。


「ばっちりだよ!師匠!」


「じゃあ、行くとしよう。もう船の準備はできてる」

「うん!……これでやっと、勇者になる第一歩を踏み出せる……!」


 師匠と呼ばれた女性は苦笑した。


「そうだね。でも浮かれるのは早いよ。何年も修行してきたとはいえ、これからリサーベルの一兵卒としてスタートするんだからね」

「そりゃ分かってるけど……」


 マイトと呼ばれた少年は口を尖らせた。


「やっぱり、師匠は一緒に来てくれないの?」

「ああ。君を育てるという仕事が終わった今、私には私で別にやらなければならない事がある。私が一緒に行くのは、君をリサーベルに送り届けるところまで。そこから先は、君次第さ」


 女性は片目をつぶり、マイトの口元に指を当てた。


「いきなり一人は不安だなぁ……」

「大丈夫。すでにリサーベル国王にも君を迎え入れるよう話はしっかり通してあるし、騎士団長のイルーナは凛としていて、誰よりも強くて、それでもってとびきりの美女らしいよ。君の好みじゃないか。良かったね」

「ぼ、僕は別にそういう目的で行く訳じゃないんだよなぁ……」

 

 マイトは挙動不審な動きをしながら言った。


「……鼻の下を伸ばしながら言っても説得力がないな。まぁ、一兵卒からとは言ったけど、君の強さだ。最初からイルーナの副官くらいにはしてもらえるんじゃないかな?」

「だとしたら、ありがたいんだけど……」

「彼女はそれこそ、リサーベルでは“勇者”と呼ばれていて、魔王打倒への期待も高い。隣で戦えば、色々と得るものもあるだろうさ」

「……うん、もうじっとしてらんないや。早く行こう、師匠」

「ああ。じゃあ、レイラ。あとを頼んだよ」


「…うん。…マイト、ローエン…気をつけて…ね…」


白髪のショートカットに、首にマフラーを巻いた女性が、眠そうな顔と声でぽつぽつと言った。


「…マイト、辛くなったらいつでも帰ってきていいんだよ…」

「お母さんかな?」

「…お姉さん…だよ…」

「分かってるよ。ありがとう、レイラ姉。じゃ、ちょっと行ってくる」


 そう言うと、マイトとローエンは船に飛び乗った。


「よし、出発だ!」


 

 魔王を倒す為、勇者を目指す少年の、ありふれた物語が幕を開けた。




 少年の名前はマイト。年は十七歳で、元々は大陸に住んでいた。

 十歳の時に、魔王の軍勢に村を焼かれ全てを失い、失意の中放浪しているところを、偶然通りかかったローエン達に拾われた。

 元々ローエン達が、ある国で騎士団に所属していた事を聞いたマイトは、涙を流しながら叫んだ。


「僕は……!勇者になって……魔王を倒したい!!」


 よくある話だ。昔から好んで読んでいた、勇者が魔王を倒す英雄譚。魔王が支配する絶望の中、弱き人々が唯一できたことは、そういった、いくつもの絵本や小説を世に送り出し、平和を夢見ることくらいだった。


 そして、ありふれた英雄譚をいくつも読んできた少年は、本物の勇者になりたいと願った。

 家族を、友人たちをいたずらに奪った魔王を倒し、大陸に平和を取り戻すために。



 紆余曲折あり、ローエン達はマイトの願いを聞き入れ、大陸の外れ、東の果てに位置する小さな島に移り住み、マイトに修行を施すことにした。


 七年の修行の果て、ローエン達も認める程に強くなったマイトは、まず、西の大陸にある一国、リサーベルを目指す事を決めた。

 リサーベル王国騎士団は長年、魔王軍と第一線で戦い続けており、そして騎士団をまとめる女性は、“勇者”と呼ばれているという。

 

 ローエンから以上のような情報を得たマイトは、共に戦い、自分も“勇者”となるべく、この決断に至った。

 そこでリサーベル国王と旧知の仲であったローエンに頼んで、自分の存在をあらかじめリサーベルに認知させる事によって、スムーズに騎士団に入れてもらう、という算段であった。




「いい風だなぁ。旅立ち日和だ」


 そして無事、リサーベルを目指し出航するところまで漕ぎつけた。あとは、魔王を倒すのみ。マイトは、自分の道が開けていく事を感じ、気持ちも新たに、拳を握りしめた。



 しかし、その数時間後。



「いい風……いや、ちょっと強すぎない?これ……」



 突然、空に雷雲が立ち込めた。そして、瞬間、数刻前までの晴天が嘘のように、船は激しい嵐に見舞われた。


「し、師匠!!これ、まずいんじゃ……」

「参ったね……ここは穏やかな海。嵐どころか、ろくに天気が崩れる事さえ無いはずなんだけど……」


 ローエンは空を見上げ、呻いた。


「師匠、魔術でどうにかできないかな……!?」

「いくら私が強いといっても、しょせんは人の身だ。天災に対抗できる魔術を持ち合わせてはいないよ。うーん……想定外だね、これは」

「のんきに言ってる場合か!……僕は魔術は使えないし……え?嘘でしょ?僕、ここで死ぬの!?まだ、何も始まってもいないのに!?」

「死を恐れないのも、勇者の条件じゃないかな」

 ローエンが冷静に言った。


「だから言ってる場合か!!あ、ヤバい、舟が……!」


 雷が轟々と鳴り響き、高波がそこかしこを暴れ回る。もはや小舟ではどうする事もできなかった。


「うわあああああああーーーーーー!!!!!!」



 舟は木っ端微塵に破壊され、二人はむなしく海に叩きつけられた。そして、なすすべなく暗い波に飲み込まれていった。




 ――こうして、勇者を目指す少年を乗せた舟は、あえなく転覆した。



 どこにでもある、ありふれた英雄譚になるはずだった、少年の物語。




 ―――運命の歯車が、今、狂いだす。







もし、気に入っていただけましたら、ブックマークや、評価いただけると、すごく嬉しいです!

よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ