10-5. ピクニックに行こう(5)~お弁当を食べよう①~
芝すべり。
――― 芝生の丘をソリに乗って滑るという、ゲームでしかできない、高級スポーツだ!
やってみると、意外と速い。
風がビュンビュン顔に当たって、目の前の芝が高スピードで後ろに流れていく。
コントロールに必死なせいで、周りの景色を見る余裕ゼロ!
だけど、重力とスピードと風を実感するのが、めちゃくちゃ楽しい!
「これはハマるぜ!」
……ってわけで、園内に入って早々、俺たちは手近な丘でひたすら、芝すべりを繰り返していた。
散策中にほかのことをしたくなる。あるあるだよな!
「うっあーーーーーー!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ひゃっほーーーーーっ!」
「あたくしはっ! こんなの恐くなくってよっ!」
ひとしきり、思い思いに叫び声を上げてのソリ遊びを楽しんだ後。
「そろそろ、行こうか」
というエルリック王子のひとことで、俺たちは再び弁当を食べる場所を求めて散策することになった。
目的地は一応、犬たちが思い切り走れそうな草原だが、その間に良さそうな場所があれば、そこに落ち着く予定だ。
「うっわー。花畑みたいだな!」
【4月まではチューリップ、パンジー、桜草の花壇だったのですがw】
両側に花が咲き乱れている道を前後になりながらチロルが説明してくれたところによると、ここ王立自然公園では、約1ヵ月ごとに花の植え替えをやっているらしい。
【5月はカーネーション、スズラン、ポピー、芍薬、あやめ、カスミソウ…… 種類豊富な時期なので、時々の担当者の好みで適当に植えられてますww】
なるほど、どうりであんまり統一感がないわけだ。
派手な赤や黄色、かわいらしいピンク、落ち着いた青や紫。
色も形もとりどりな花が、小さい子のラクガキみたいに並んでて、見ていて面白い…… 名前は全然わからないけどな!
「これは? ポピーってこれ?」
白い細かい花弁が丸い形についている花を指してきいてみると、 【残念w デイジーですww】 とのことだった。
ガイド犬たちが、それぞれの飼い主に解説しているせいか、芝すべりでちょっと疲れたからか、大人数で歩いているのに話し声は割と静かだ。
高い木の枝を風が揺らす音だとか、小川の流れる音、遠くで滝が落ちてる音にミツバチの羽音…… そんなものを聴きながら、犬が花の匂いをフンフン嗅いだりするのを眺めながら、俺たちの散歩は続く。
「…… 自然っていいなぁ……」
どこまでも見渡せて、壁の代わりにあるのは森とかで…… うーん。これが、開放感ってやつだろうか。
エルリック王子が微笑む。
「気に入ってくれて良かったよ」
「うん、すげー気に入ったぜ! さすがは王立! ここが入園料たった600マルだなんて、太っ腹ー!」
いや、最初は、高いと思ったけどな? それが間違いだったことは、すぐにわかった…… あの芝すべりだけでも、600マルの価値はある!
「あーまた来たい…… 癒される」
呟くと、ミシェルが俺の腕にぎゅーっとぶらさがってきた。
「ボクは、お姉ちゃんに抱っこしてもらう方が癒されます!」
「うんうん、わかりみー!」 と、ミシェルと反対側の腕をがっしと組んでくるのは、エルミアさんだ。
「ヴぇっちの癒しオーラ半端なーい!」
「えええ!? 俺が!?」
びっくりして聞き返した、その時。
「誰の癒しオーラが、半端ないんだって?」
銀髪に薄い青紫色の目、物凄い優しげな顔立ちのNPCが俺たちの前に立ち塞がった。
表情もだけど、声も。
悟ってるの?って、聞きたくなるほど穏やかだ…… 癒される、っていうのは、こんな子のためにある言葉だよな、うん。
「きゃーっ! ハッチ! 」
どうやら、知り合いらしい。
エルミアさんが、パッと俺の腕から離れて、彼に駆け寄った。
「えっへー? 来てくれたんだ! 心配になっちゃったり、したー?」
「…………」
ハッチと呼ばれた彼は、ひときわ柔和な笑顔を見せつつ、エルミアさんの耳元になにやらボソボソと囁く…… すると。
……をを!?
見よ、彼女の嬉しそうな表情を!
何かとんでもなく、イイコトを言われたに違いないなー!?
「えーじゃあハッチ、ひとりなんだー? 良かったー! じゃあ、後で皆で一緒にお弁当、食べよー?」
実はハッチの分も作ってきたんだー、とバッグから取り出したのは、朱塗りの二段重…… 俺らが朝6時から集まって作ったウィンナーに卵焼きの弁当より、よっぽど高級そうだ。
――― エルミアさん、一体キミは、何時起きなんだ、今日っ!?
と、ツッコミ入れたくて仕方ない俺の前では……
「へえ…… 僕のためにわざわざ作ってくれたのかい? ありがとう」
「えっへー! どういたしましてー! ハッチのためだからね!」
「エルミアさんさんは、本当に良い子だね……」
『これぞベストカップル』 的なやりとりが、ほのぼのと繰り広げられている。
が。
お重を受け取った時にうっかり、手を滑らせてしまったらしい。
「あああっ……」
大袈裟なハッチの悲鳴と共に、エルミアさん渾身作らしき豪華二段重は…… 地面へと、落ちてしまったのだった。
「ああ…… 折角、君が作ってくれたのに……」
「大丈夫だ! すぐ拾おう!」
嘆くハッチを励まして、地面にしゃがむ。
「ヴぇっち…… ありがとー…… でも…… もう……」
「大丈夫だ、30秒ルールだぜ!」
「きっと、なんとかなりますよ」
「大丈夫よ、カフェでもうどんくらいは売っていてよ!」
嘆くハッチとエルミアさんをエリザが励まし、俺とサクラはひたすら、散乱したご飯やオカズを拾うのを手伝う。
錦糸卵とでんぶと、うなぎで華やかに彩られた、ちらし寿司。
ミニハンバーグと、唐揚げと、アスパラのベーコン巻きと、温野菜サラダ。人参が花の形に切ってある…… って、めちゃくちゃ手が込んでるな!?
「こんなに一生懸命作ってくれたのに……っ ごめん……」
うなだれるハッチに、「いやいやいや!」 と反論する、俺。
「これは、たとえホコリまみれだろうと、食べなきゃいけないヤツだぜ!」
だってそうだろ!?
NPCだから、腹壊したりはしないはずだし! (暴言)
「へえ……?」
にこやかに、ハッチがエルミアさんを振り返る。
「キミはどう思う? エルミアさんさん?」
「あっ、あたしはー…… 食べなくても、いいかなー、なんて……」
ええええええ!?
本当にいいの!?
あと、エルミアさんたら……!
なんで、そんな嬉しそうな顔してるんでしょうかっ!?




