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閑話6~ピクニック前日(4)トリミング③~

「さー、どーぞどーぞ! ちょーど今、『皇室御用達老舗・(はちす)』 の醤油煎餅を開けたところなんですー!」


「その店は存じませんけれど、自ら 『皇室御用達老舗』 と名乗るだなんて三流としか思えませんわね?」


「あーでもでも、ネーミングはアレですけど、味は本当に一流ですからっ!」


 ザザザッ、と煎餅をお皿の上に出しつつ、エルミアさんは 「ゲーム内のどこかに本気であるかもしれませんよー 『皇室』 がっ……」 などと妄想している。


「ありえないでしょ」


 即座にバッサリ断ち切るエリザ。


 ――― なぜなら、このゲーム内の国はあくまでも 『平和な王国』 であり、あるのは 『王室』 なのだから。

 ちなみに、実質はヒロインコース選択者の数だけいる 『王子』 は、そこの長男であり、学園には複雑な人間関係や下々の暮しをリアルに体験するために入学されている設定。


 そしてヒロインたちも、 『公爵令嬢』 『男爵令嬢』 などと肩書きはあっても、実は…… 『実家の○○家』 には足を踏み入れたことはおろか、その場所すら分からない。


「……。よく考えたら、酷い扱いよね」


 プレイ2周目の今頃になってその事実に気づき、思わず呟けば、エルミアさんが 「そう、それ!」 とコクコクうなずいた。


「なんか 『虐げられた令嬢! 物心つく前から寮に押し込められて育ち、親兄弟の顔さえ知らず、世話人の1人もいない。唯一つながりを感じるのは、週イチの小遣いのみ…… (涙) 』 って感じですよねー?

 悪役令嬢にもなるわそりゃ、的な!?」


「まっ…… 悪役令嬢を何と心得ておられるのかしら。そんな安い不良中学生みたいな者を、あたくし悪役令嬢とは認めなくってよ!」


「えーっ、そうなんですか!? その話、もーちょい詳しくっ!」


「良くお考えになれば分かるんじゃなくて? 語るほどのこともございませんわね!」


「だってー、『ザ・ベスト・オブ・悪役令嬢』 のエリザさんから聞いてみたいじゃないですか!」



 ――― だから、ヴェリノは自分のことをどう宣伝したんだろう。


 非常な疑問を感じつつ、いつの間にやら、ズルズルと引っ張り込まれてしまっているエリザであった。


「まー、どーぞどーぞ。はいっ、お茶は 『皇室御用達老舗・長政』 の高級お番茶ですよー!」


「……いただくわ」


 ふんわりとふくよかで、それでいてスッキリとした香りと味わいのお茶は、ひとくち含めば、それだけで緊張が解けてしまうようだ。


「ふーっ、落ち着きますねー!」


 エルミアさんも、煎餅をばりっと噛り、満足そうにモグモグと口を動かしている。


「あーもう! お友達とお茶だなんて最高に幸せーっ!」


「……ふんっ、あたくし、あなたと友達になんてなった覚え、ありませんわ?」


「わーん、ほんっと最高! これが、真性悪役令嬢のツンデレ技というヤツですね!? ねーっ?」


「違うわ。ツンはしてるけどデレはないから!」


「きゃーんっ♡ エリザ様ったら、まじラブリーっ」


 どうやら何を言っても、エルミアさんの中では 『エリザ = ラブリー』 で固定されていそうである。


(も、もしかしたら、それって……)


 ヴェリノがエリザのことを 『ラブリー』 と喧伝しているからに他ならないのではないだろうか……?


 ふと、その可能性に気づき動揺したエリザは思わず、上品に手に持っていた煎餅を、ばりん、と勢い良く噛ってしまったのだった。



 ◆♡◆♡◆♡



 シャワー室で、俺とサクラは、真剣にお尻を見つめていた…… もちろん、自前トリミング中のガイド犬の。


 女の子の部屋のシャワー室に女の子と2人で入ってようと、むふふ♡ な展開にはならないのが、全年齢対象ゲームクオリティーなのだ!


「こうやって、お尻の穴がよく見えるように、しっぽを持ち上げて、ティッシュで左右から軽くつまんで、下から上にきゅっと押してやるんですよ」


 トイプードル(りゅうのすけ)のお尻を触りながら、実演つきで説明してくれる、サクラ。


「中を傷めちゃわないよう、力の込め過ぎには注意です…… ほら、出ましたよ」


 出てきた液を、手際よくティッシュでキャッチして見せてくれる…… 白く柔らかい紙に黄色っぽいシミができていた。


 チロルが傍で、わう、と鳴く。


【本来なら、けっこうキツい刺激臭があるんですがww 女の子向けゲームなので割愛していますwww】


 肛門絞り。


 サクラの口からそのワードが出た時には、めちゃくちゃドギマギしてしまったが…… 実はそれは決してR○○的なプレイではなく、単に(ワンコ)の健康上必要なケアだったのだ……!


「このままキレイにシャンプーしてあげます。シャンプー後は(コーム)で毛を解かしながらドライしますよ」


「よっし、俺も頑張るぞ!」


 張り切って、チロルのフサフサのしっぽを持ち上げ、付け根のぽっちり穴をキュッと押し……


「わぅん!」


「すまんっ、強すぎたか……?」


 慌てて力を弱めて、空中に現れたリセットボタンを押す。

 気を取り直して、今度は、プックリした穴回りの筋肉を優しく撫でさすってみると……


「クゥゥゥン……」

【あっwww イヤっwwww】


 身をクネクネさせて喜ばれ…… じゃなくて、嫌がられた。

 …… 難しいんだなー!



 こうして、どうにかこうにか肛門を絞り終わり、シャンプーとドライを済ませた、その時。


 シャーン、という効果音がどこからともなく聞こえ、チロルの周囲をキッラキラのイケメンオーラが取り巻いた。


「おおっ…… チロルぅぅ! 今更だけど、お前、イケメン犬だったんだな!」


【恐れ入りますwww】


 何よりも、シャンプー&ドライでよりいっそう、ふっわふわになった長い毛が美しい……!


「これは…… カットもしてみたいけど、カットすんのが惜しいぞ!?」


「普通は、シェルティのケアはここまでみたいですね」


 『犬種別☆おしゃれカット集』を見ながら、サクラも言う。


 ――― うん、それは分かってるんだけどね!? …… いろんなチロルを見てみたい、っていうのも、やっぱりあるんだよね……!


「ねーねー、後で全リセットするからさぁ…… 1回だけ、()らして?」


【『骨カルガム』 食べ放題ならいいですよww】


「わたしも、ちょっと遊んでみたいです…… 最後はいつものにしますから、いいですよね、りゅうのすけ?」


「きゅうううん……」


 ――― どうやら、りゅうのすけは 『ささみジャーキー』 食べ放題でOKしたらしい。




 その後、俺とサクラは、ガイド犬たちの毛をライオン風だのうさぎ風だのキツネ風だのにカットしてはスチルを撮って、何時間も楽しく遊ばせてもらったのだった。


読んで下さり、ありがとうございます!


閑話6、これにて終了です。

次回は本当にピクニック編! うるさいくらいに大人数でワイガヤしていますが、お付き合いいただければ幸いです(笑)

更新は10月14日(水)の予定です。しばしお待ちくださいませ m(_ _)m


台風が襲来しそうですね。

何事もありませんよう、お祈りしております。

外出お気をつけくださいねー!


ではーー!

感想・ブクマ・応援☆、めちゃくちゃ感謝しております!


10/8 誤字訂正しました! 報告ありがとうございます!


※追記※

犬用おやつのお値段は……


骨カルガム すなわち  『骨calガム・3種の味ミックス』 は

 900マル (25個入り)。

ささみジャーキー (300g入り) は 1000マル です。

ただし、ささみジャーキーは、サクラさんが時々手作りもしてるのでもっと安くなるかも……(笑)

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[一言] エルミアさん……これは強いッ!!(笑) これには思わず、エリザ様もタジタジですね〜! ……そして、犬の健康ケアの描写に力を入れている作品というのは、私ここで初めて遭遇したかもしれませぬ…
[一言] >ふと、その可能性に気づき動揺したエリザは思わず、上品に手に持っていた煎餅を、ばりん、と勢い良く噛ってしまったのだった。 アッッッ!!!(萌死)(デジャブ) ガチの肛門絞りが読めるのは『輝…
[良い点] とにかく押しに弱いエリザ様。(笑) そして、そもそも「悪役令嬢」って単語自体が色々おかしいので、なんともカオスな議論である。(笑) あと、肛門絞りて……。 力入れるトコ完全に間違えとりま…
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