8-8. 後夜祭(8)
予定外。
それは、人生はもちろん、ゲームにも結構、つきものだ。
<<さぁっ、ヴェリノさん! お返事をどうぞぉぉぉっ!>>
――― 日常系ゲーム、いたる所に落とし穴あり。
などと、格言めいたことを心の中で呟いてみながら、すーはー、と深呼吸して、司会のピエロからマイクを受け取る。
エリザは予定外の婚約破棄でも立派にエルリック王子を罵り倒していた。
俺も、見習う。
予定外にNPCたちから愛を誓われても、誤魔化すことなく、立派に返事をしてみせる……!
「あのですね……」
うん、マイクが感度良好過ぎて、珍しく緊張しちゃうな!
「こうして、えーと…… か、過分なご好意をいただきまして、み、身に余る光栄ではあるんですが……
俺、実はですね、女の子の方が好きなので、男の子への恋愛感情はよくわからないんです。
……けど、皆、俺にとってはすごく大事な仲間で、友だちでもあるんで、これからも、皆で仲良くしたいな、って思ってて……」
また花火が上がる音がして、夜空全体に、光が、上から下へと流れていく。……確か、『ナイアガラ』 とか呼ばれてる花火だった。
――― 皆の好意をちゃんと受け取れないのに、『仲良くしたい』 なんて言うのはズルいのかな。
――― けど、これが、俺の正直な、精一杯の気持ちで……
みんなと友達になれて、すごい嬉しくて楽しかったし、もし、そうじゃなくなったら、めちゃくちゃ悲しくて、嫌だ。
――― ズルくても何でも、そうなんだ、って思う。
光の雨の中で、俺は深々と頭を下げた。
「だから、みんな、できたら、これからも、ずっと俺と友達でいてください!」
ついに、言った。
言い切った。
――― 皆、何て言うかな!?
――― せっかく上げた好意値返せ、とか、もう友達ですら無い、とか……
(ランチ代やドレス代は返せないぞ! ないから!)
――― いや、そんなこと言うようなヤツらじゃない! けど、けど……
怖くて頭が、上げられないぃ……!
――― と。
――― ぽん、ぽん、と軽く頭を撫でる感触がした。
少し遅れて 「ジョナス…… 抜け駆けか?」 とエルリック王子の声が聞こえる。
「いえ、王子の心情を代弁したまでです」
ジョナスの澄ました声に、被せて。
「ボクも、ボクもぉっ!」
ぼすん、と適度な弾力の小柄な身体がぶつかってきて、そのまま俺の首にぶらさがる。
「うぉっと…… 危ないだろー、ミシェル!」
よろめきかけて、そのまま抱っこしてやる。
チロルが 「をんをんをんっ!」 とはしゃいで俺たちにまとわりついてきて、キャッキャと楽しそうなミシェルの笑い声がステージに響き……
誰かが、拍手してくれた。
拍手は、どんどん大きくなっていって、会場が、パチパチと手を叩く音でいっぱいになった。
拍手の中で、 「……尊い!」 とかいう、ちょっとよくわからない掛け声と共に、スチルカメラのシャッター音があちこちで鳴った。
イヅナがサクラに 「そういうワケで、オレはサクラに永遠の……」 と言いかけて 「ストップ!」 と止められた。
「まだ早いですよ。それに、流れでついでに、は嫌ですから」
「じゃあまた今度、ふたりきりで本格的にな!」
止められたのに、イヅナは嬉しそうだった。
そして、最後に。
<<ミス・学園祭ぃぃぃっ!>>
という賞で、俺の名が呼ばれた。
――― なんでも、学園祭中に得られた好意値が最多のプレイヤーに贈られる賞らしい。
最多だったのか……、と今さらながらに、ジョナスの攻略ボーナスタイムの恐ろしさに唖然とする、俺である。
<<おっめでとうございます!>>
初代ガイド犬・ちちふさくんの像が先端についたトロフィーと賞状が、司会のピエロから授与された。
記念品は 『抱きちちふさくん』 ……つまりは抱き枕だ。
<<先程に引き続きですが…… ひとこと、御挨拶をどうぞっ!>>
俺は再び、すーはー深呼吸をして、ピエロからマイクを受け取った。
「あの…… どうもありがとうございます、皆さん」
うんうん、やっぱり、感度は良好。
「人生で初めてのお祭りで、めちゃくちゃ楽しかったし、その上に、こんな賞までもらって……
でも、あの、実は、俺より、この賞が相応しい人たちがいます」
トロフィーとマイクを抱えて、エリザとサクラの前に行く。
察したらしいエリザとサクラが小声で口々に、「ちょっとやめてよ」 「そんなのいいですって」 と言ってきても、俺はもう、止まらない。
――― さっき、俺が心配してたのは、NPCたちの反応だけじゃなかった。
もしかしたら、エリザもサクラも 『今までそんな目で見てたの!?』 って引くんじゃないかと…… ふたりを信用してはいたけど、やっぱりちょっと、そう思ってしまってたんだ。
でも、ふたりの態度は全然変わってなくて、それが俺には何より嬉しい。
…… それに、ここまで来て止まったら、かえって変だしな!
深々と息を吸い込んでから、精一杯、声を張り上げる。
「俺の友達の、エリザとサクラ!
ふたりに、この賞を捧げます……!」
降り続ける 『ナイアガラ』 の光の粒に照らされて。
――― この時、俺たちは、これまでで一番大きな拍手と歓声に、包まれたのだった。
ちちふさくん型抱き枕は、エルリック王子にあげた。
読んでくださり、ありがとうございます!
後夜祭はこれにて終了です。
1日お休みいただき、金・土曜日にボチボチと恒例・ステータス発表をさせていただきます m(_ _)m
書けてはいるんですけど、この回が筆者的にはかなり好きなので余韻に浸りたいという……w
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