8-3. 後夜祭(3)
ひゅぅぅぅぅっ どぉんっ
ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、
ぱぁぁぁぁぁぁんっ !
5月7日、午後6時、学園の運動場。
薄暗くなってきた空に花火が上がり、会場は無数の光がフワフワと飛び交いはじめた。
――― 光の中心にはよく見ると、薄くて透明な羽が生えた小さい人がいる。
ガイド犬たちに追いかけられて楽しそうに逃げ回ってて、見てるとめちゃくちゃ和むんだが……!?
チロルの鼻先にも、1人とまってるな。
「ぅおんっ、ぅおんっ」
【フェアリーたちですよw】
「へえ! 初めて見た!」
「ぅおんっ、ぅくしゅっ……」
【お祭りの夜にはけっこう…… くしゅっ】
「チロルのクシャミも初めて見た!」
「ぅおんっ」
【どうもww】
フェアリーがチロルの鼻先から、そよ風にでも吹かれたみたいにふわりと飛びたつ。
目でおっかけてると、中央のステージにピエロのかっこうをした人が上がるのが見えた。
運営のオリジナルキャラかな?
マイクをしきりと確認していたピエロは、やがて、うん、とひとつうなずいた。
「でっはぁぁぁ!」
みんながステージに注目するなか、ピエロが華麗に宙返りを決める。拍手。
気をよくしたように2回転、3回転…… おっと尻もちついた!
はずかしそうに頭をかいて、勢いよく立ち上がりマイクに白塗りの顔を寄せる。
「後夜祭、スタートぉぉぉっ!!」
みんなの笑い声と拍手。さっそく盛り上がってるな!
ピエロの司会は跳びはねながらステージを降りていく…… なにげにすごい身体能力だな!?
続いてステージに上がってきたのは、ブラスバンドの楽団だった。
さっそく演奏を始めている。アップテンポの明るい曲 ―― 初めて聞くけど、楽しい!
バンドも俺たちもノりまくってる。エリザもサクラも、エルリック王子たちNPCヒーローズも…… おお、ジョナスまで。指先がなにげにリズムをとってるじゃないか。
チロルたちガイド犬も、曲にあわせて小さな身体でジャンプしたり、宙返りしたり。
「チロル、サービス心が神だな!?」
「ぅおんっ、ぅおんっ!」
【それほどでもww なお本日の演目は、学園祭のステージ演奏の短縮バージョンです。出店でゆっくり見れなかった人のために】
「なんという心遣い! チロル、グッジョブ」
「ぅおんっ」
【いえいえww 私は何もしてませんよww】
後夜祭のプログラムは、これから午後8時半までがステージ。ステージ終了後は花火大会。合間に表彰式、となっている。
会場にはもう、周辺の屋台の食べ物のいい匂いが漂ってきている……
「おなかすいたね、おねえちゃんっ」
ミシェルがもにゅっと俺に抱きついてきたのをきっかけに、俺たちは会場の丸テーブルへと移動した。
ここで飲み食いしながら、ステージ屋や花火を鑑賞するんだな!
ちなみに今回、屋台を運営してるのは、後夜祭の企画委員さんと、彼女らのNPCヒーローたちだ。ありがたい。
いったん席についたものの、イヅナと俺は椅子に座らず、そのまま屋台のほうへと足を向けた。
「オレ、なんか適当につまめるものでもとってくる!」 とイヅナ。
そのまま、イカ焼き屋台へダッシュ…… おっ、一番乗りだな、さすが!
「じゃ、俺は、とりあえず飲み物とってくる!」
「私も行こう」 「ボクも!」
エルリック王子とミシェルが俺に続こうとする。が、ジョナスがすかさず、王子に制止をかけた。
「自分が参りますので。エルリック様はここでお待ちください」
「だが、ヴェリノが……」
「エルリック様。王子ともあろう方が小間使いのマネをなさろうなどと、許されぬことでございます」
眼鏡の縁を指先でクイと持ち上げ、ジョナスは正論らしきことを主張する…… だがしかし。
俺は、ツッコまずにはいられない!
だってエルリック王子、止められてしゅんっ、てなっちゃってるし。
「え!? エルリック、昨日は思いっきり焼そば作ってくれてたよね!?」
「それは非日常だからでございます。すなわち、庶民の生活体験の一環ですが、なにか?」
ジョナスが冷たい眼差しを俺に向ける…… こわいよ! ねえ本当に俺のこと好きなのジョナス!?
あとで見たら好意値が大幅マイナスに…… あり得る。ぶるぶる。
固まる俺を助けてくれたのは、エルリック王子の苦笑だった。
「ジョナス。後夜祭もまだ 『非日常』 ではないかな?」
「しかし、エルリック様」
「私はまだ、みんなと楽しみたいんだ、ジョナス…… わかってくれるかい?」
「エルリック様、しかし」
接近するジョナスとエルリックに、サクラがスチルカメラを向けた。
「いい画が撮れてます」
嬉しそうだな。
一方でエリザは 「ああもう、鬱陶しいわね!」 と、扇の先をエルリックとジョナスに向けた。
おごそかに命令。
「ふ た り で お 行 き !」
「わかったよ」 エルリック王子が、さわやかにほほえんだ。おっ、キラキラエフェクトが1.5倍増。
「お姫様のお達しだ、ジョナス。いいね?」
「厳密には王子に命令するなど不敬にあたりますが」
「いいじゃないか、ジョナス。今日はまだ…… お祭りだ」
「かしこまりました」
ジョナス…… わざわざ、貴族っぽい (?) 礼などを披露しながら……
その静音の舌打ちはなに!?
しかし、エルリック王子は気づいていないようだ。
「ありがとう、ジョナス。では、唐揚げとサンドウィッチとピザとパスタとおでんとポテトを取りに行こう!」
エルリック王子のキラキラエフェクトがさらに増え、ふたりは連れ立って屋台へと去っていった ―― 「スチルがはかどります」 と、サクラ。よかったな。
エリザとサクラは場所キープのために留守番をしてくれるつもりのようだ。
「よし、ミシェル! じゃあ俺たちも飲み物にアレコレ、取りに行くか!」
と、ミシェルが急に、俺に向かって小さな肘を差し出してきた。
「おねえちゃん! ボクがエスコートしてあげるねっ」
かっ、かわいい……!
短い身体をせいいっぱいに伸ばして、肘をちょこんと上げてる、その姿……!
ふぉぉぉぉ! 弟って、いいなあ!
しかし 『エスコート』 って、なんだったっけ?
「ぅおんっ」
【ミシェルさんの腕に、手を添わせてください】
「なに、チロル? ミシェルと腕、組めばいいの?」
そっか!
つまりは、スクラム組んで飲食物を獲りにいきましょう、と! そういうことだな!
「よっしゃミシェル、その意気だ!」
俺はミシェルと腕をガッチリと組んだ。
せっかくだから、アニメっぽい掛け声もやってみよう。
「獲るぞ、ごちそう! えい、えい、おー!」
ミシェルの大きな緑の瞳が、星みたいに輝いた。
「えい、えい、おー! …… じゃ、いこっ、おねえちゃん!」
ミシェルが、先に歩き出す。
お? ミシェル、意外と力強いな?
俺、なんか引っ張られてるような?
――― あれ。
スクラムって、こんなだったっけ?
ま、いっか! とりあえず、飲み物! そして、ごちそうだ!




