8-3. 後夜祭(3)
ひゅぅぅぅぅっ どぉんっ
ぱっ、ぱっ、ぱっ、ぱっ、
ぱぁぁぁぁぁぁんっ !
5月7日、午後6時、学園の運動場。
薄暗くなってきた空に花火が上がり、会場は無数の光がフワフワと飛び交い出した。
――― 光の中心にはよく見ると、薄くて透明な羽が生えた小さい人がいる。
ガイド犬たちに追いかけられて、楽しそうに逃げ回ってるのが、めちゃくちゃ和むなー!
【フェアリーたちですよw】
鼻の先に止まった光に、くしゃみしそうな顔になりながら、チロルが教えてくれた。
「でっはぁぁぁ!」
中央に設えられたステージの上で司会が声を張り上げる。
運営側のオリジナルキャラであるらしい、陽気なピエロだ。
「後夜祭、スタートぉぉぉっ!!」
わぁぁぁっ、と皆が拍手をする中を司会が引っ込むと、早速オーケストラが音楽を奏で始めた。
――― そういえば、昨日は、体育館のステージは全然見に行けなかったんだよなー。
チロルがくぅーん、と鼻を鳴らす。
【演目は昨日と大体同じですw】
「おー! それは嬉しい! チロル、グッジョブだぜー!」
【何もしてませんけどねwww】
後夜祭のプログラムは、これから午後7時半までがステージ、それから午後9時までが花火大会、合間に表彰式、となっている。
――― どうやら、適当に飲み食いしながらステージやら花火やらを鑑賞する、というのが後夜祭のプランのようだ。
会場にはたくさんの丸テーブルと椅子がセットされており、少し離れた場所にある長テーブルには、軽食や飲み物がところ狭しと並んでいて、その間を企画委員らしきプレイヤーとNPCたちが忙しげに動き回っている。
「とりあえず、ここでいっか! みんなの飲み物とってくる!」
「私も行こう」 「ボクも!」
ひとまず端の方のテーブルを確保して行こうとすると、王子とミシェルが立ち上がった。
「自分が参りますので。エルリック様はここでお待ちください」
すかさず制止してくるジョナスに、少々複雑な眼差しを向ける王子。
「だが……」
「王子ともあろう方が小間使いのマネをなさろうなどと、許されぬことでございます」
なるほど、それももっともだ。
しかし。
「えー!? 昨日、思いっきり焼そば作ってくれてたよね、エルリック!?」
「それは非日常だからでございます」
ついついツッコミ入れてしまい、ジョナスにギロリと睨まれる俺。
……こいつ、ほんとに俺のこと好きなのか……? と、思わずにはいられない。
「それを言うなら」
王子がほんの少し苦笑する。
「後夜祭もまだ 『非日常』 だろう?」
「しかし……」
「ああもう、鬱陶しいわね!」
さらに何か言おうとしたジョナスに被せて、エリザが扇の先をNPCの面々に向ける。
「み ん な で お 行 き !」
王子が嬉しそうに 「わかったよ」 と先に立つ。その後に続くジョナスが 「不敬な」 と呟くのが…… なにげに怖い。
「あれーっ!? オレはオレは!?」
なぜか存在アピールなどしてくるイヅナに、エリザは、わざとらしくもシラッとした目を向け 「唐揚げとサンドウィッチとピザとパスタとおにぎりとおでんとポテト……くらいかしら?」 と注文する。
「おうっ! 任せときな!」
張りきって駆けていくイヅナ。
そして、最後に残ったのは、俺とミシェルなんだが……
「お姉ちゃん、ボクがエスコートしてあげます!」
ミシェルが、俺に肘など差し出してくるのが。
――― なんっつーかもう、可愛すぎて……! キュンキュンするぅ……っ!
これは、不可抗力というやつだ。
そうに、違いない。
「なに? 腕組めばいいの?」
つまりはスクラム組んで飲食物を獲りにいきましょうと、そういうことだな!
よし! 気合い入れるぞ!
俺はミシェルと腕をガッチリと組み、いつぞや何かのアニメで観た通りの掛け声を再現した。
「えい、えい、おー!」
ミシェルが瞳を輝かせる。
「面白い声ですね!」
「えっ、知らないの?」
「えー…… ちょっと検索してみます」
なんて会話を交わしながら、いつの間にか、ずりずりとミシェルに引きずられていっている、俺であった。
もちろん、腕は組んだままだ。
――― あれ。
スクラムって、こんなだったっけ?