8-2. 後夜祭(2)
「わぁぁっ、やっぱりカワイイです! すっごく素敵です! 似合ってますよ、お姉さんっ!」
「素敵だよ、ヴェリノ…… 次は私からもプレゼントさせてくれたまえ」
エントランスの大時計前。
待ち合わせに行くと、NPCの皆は既に待ってくれていた。
ミシェルとエリック王子が、真っ先に口々にほめてくれる。
イヅナは 「そのドレス、めちゃくちゃ似合ってるぜー、サクラ。妖精……いや、女神かなっ!?」 なんてデレデレした後、こっちを向いて目を丸くした。
「うぉぉっ、カワイイな! けど、ちょっとさぁ、その…… あ、脚、見せすぎじゃないかな……っ なんてな?」
ははは、と笑ってゴマかしてる頬がちょっと赤くなってる。
……しかし、サクラいわく、脚は俺のチャームポイントらしいからな!
「カッコいいだろ? ほらほらほらー!」
長所は惜しみ無く発揮する!
それが漢だ! ……たぶん。
ほらほら、とイヅナに脚を見せびらかしていると。
「……………………」
それまで黙っていたジョナスが、ひとこと、言い放った。
「破廉恥な」
……ううっ……!
言葉の刃が、めちゃくちゃ突き刺さるんだぜ……!
そして、怖い。
細い銀縁眼鏡の奥の冷たい瞳が 『お前は汚物だ。消毒だ』 と物語っている気がする……!
「……調子に乗って、スミマセンでした……っ」
「……全く。踊り子じゃないんですから、弁えなさい」
しょんぼりと謝る俺に向かってこれ見よがしにタメイキなど吐き、ジョナスが懐からスッと取り出したのは……
裁縫セット
だった。
「じっとして……」
身をかがめ、素晴らしいスピードで俺のスカートの切れ目の、膝から上の部分を縫い付けていくジョナス。
「すげー! 器用だなー! こんなことまでできるなんて……!」
「……王子の服のボタンがとれた時など、ヘタな者につけさせるわけには行きませんからね」
「ふーん」
王子、ボタンがとれるような服着てるのか……?
首をかしげる、俺である。
――― サクラとエリザがコソコソと 「誰が引きちぎるんでしょうね?」 「それはやはり、つける人じゃないかしら?」 などと話し合っているが……
なんで、引きちぎるって限定してるんだろうな?
さっぱり、わからん。
と、それはさておき。
「……できました」
「おっ、サンキュー!」
「動きにくいでしょうから、膝下は残しました」
本来なら全部縫いつけるべきなのですが…… と再びタメイキをつくジョナスに、ミシェルが涙目でくってかかってる。
「なにするんですかぁっ! ボクがせっかく……! いちばんお姉ちゃんに似合うのを贈ったのにぃっ!」
「センスを疑いますね」
ジロリ、とミシェルを見下し、 「このような下品なスカート」 と吐き捨てるジョナス。
「………………っ!」
ミシェルが目に一杯涙をためて、握りしめた拳をフルフルさせる……
のが。
ミシェルには悪いが。
めちゃくちゃ可愛らしい件!
――― うーむ。庇護欲をソソってくれるぜ、ミシェルのやつ……!
「大丈夫、大丈夫!」
たまらず、ミシェルを抱っこして、くるりと回ってやる俺である。
「ほらー、こんなこともできるし、ちゃんと膝から下は見えてるぞ。
余裕余裕!」
「お、お姉ちゃん……っ!」
えくえぐとしゃくりあげながら抱きついてくる、鳶色の柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でてやる。
「縫う前からそれほど下品でないし、縫った後も似合っているよ」
「そうですね、後で元に戻せますし、大丈夫ですよ」
エルリック王子とサクラが口々にフォローに回ってくれて、ミシェルがやっと泣き止んだ。
「よーし! じゃあ、お兄ちゃんが肩車してやるなー、ミシェル!」
張り切って歩きだそうとした俺だが。
「「「「「それはやめといた方が」」」」」 「をん!」 「きゅんっ!」 「あんっ!」
「おおっとぉっ!」
全員から止められたのとほぼ同時に、コケかけてしまった。
「危ないよ」
ミシェルをエルリック王子が受け止めてくれる。
「おっと」
素早く俺を支えてくれたのは、イヅナだ。
「気を付けろよな? 裾長いんだからさー」
「膝上のスリットを閉じたので、歩幅にも注意していただかないと」
と、ジョナスが補足すれば、エルリック王子の腕の中からミシェルが 「ジョナスが余計なことするからですよ」 と頬を膨らます。
こ、これはまた……!
ジョナスが何か言い返す前に止めないと、またミシェルが泣き出すパターン!
可愛いけど、困るんだぜ……!
「ごめん、次からちゃんと気を付けるから! それより、そろそろ後夜祭行こうぜ?」
俺は慌ててふたりの間に割って入る。
「ケンカはやめて! な?」
「………………はい」
「………………。」
ミシェルがこくん、とうなずき、ジョナスは無言で俺の頭にぽん、と手を置くと……
何事もなかったかのように、さっと歩き出したのだった。