閑話5~エリザとサクラとお買い物(3)~
【エリザ・サクラ視点】
「なるほど。本人の女装願望ね」
「予想外でしたが、たしかに…… メイド服似合っている、って言われた時は嬉しそうでしたよね、イヅナさん」
サクラのコメントに、ふっとエリザはほほえんだ。
「ヴェリノ、やはり恐ろしい子!」
―― エリザとサクラはいま、モブプレイヤーを装い 『リーナの万屋』 に潜入している。
水着や浴衣など、気の早い夏用のアイテムが並べられた一角だ。
ここならヴェリノとイヅナに見つかることなく、しかしふたりのやりとりだけはバッチリとわかる…… そう考えていたエリザとサクラだが、ふたりの会話内容は、予想の範囲を超えていた。
『大丈夫だって、イヅナ! 現実世界では、服はユニセックスが常識なんだから!』 『いいいや、だってな、ヴェリノ! オレにはカワイイ花柄とか似合わないだろ!?』 『だから、探そうぜ! イヅナに似合うカワイイ花柄、ってやつをよ……!』
まさか、攻略対象とのデートでこの流れになるとは ―― さすがヴェリノ、としか言いようがない。
「ガタイの良いスポーツマンに似合うカワイイ花柄、ですって?」 とエリザが浴衣を物色しつつ首をかしげれば、隣で同じように水色とベージュの生地を見比べていたサクラが顔をあげる。
「あると思いますよ? ほら、アロハシャツとか」
「あら。ほんとうだわ! けれど、ここにはないわよね?」
「近場でアロハを売ってるとしたら…… むしろイヅナさんのマリンショップでしょうか」
イヅナは学生のかたわら、家業の一端であるマリンショップの住み込み店長もやっているのだ。
「あったかしらね?」
エリザが1周目のプレイを思い出そうと眉毛をかすかに寄せ、つられてサクラも考えこんでしまった。
イヅナの隠れた趣味がファンシー系だったのはいま、ヴェリノとのやりとりでわかったこと。それまでは…… いわゆる 『男らしさ』 がウリのキャラだったのだ、イヅナは。
そんな彼が、店に堂々とカワイイ花柄を置いたりするだろうか……?
「こんどマリンショップに行ったら、気をつけて見てみましょうか」
もしかしたら隅のほうに、さりげなく飾ってたりするかも。
そうサクラが結論づけたとき、ヴェリノとイヅナの声が近づいてきた。
『まあまあ! 遠慮すんな? 俺もイヅナと一緒にカワイイの、着てあげるから!』 『そんなことしたら! よけいに差が目立つだろ!』 『差? なんだそれ』 『だから、ヴェリノはオレとは違うだろ!? もともと可愛いのが似合う女の子じゃん!』
イヅナの困ってる顔が想像できるようだ…… と思う間もなく、本人たちが姿を表す。
エリザとサクラは慌てて目配せしあうが、逃げる暇はもちろんない。
かくなるうえは、偶然の出会いを装うのみである……!
「違うよ! 俺はもともと、女の子じゃ…… いや、違わないか? あれ?」
「どう見ても、ヴェリノは女の子だろうがっ!」
ここで、ふたりもエリザとサクラに気づき、言い争いを止めた。
「おっ、エリザにサクラ!? 偶然だな!」
イヅナの声が若干、裏返っているのはキャライメージの崩壊を心配しているためだろう。AIもここまで芸が細かいと、かえってキャラが揺らぐ気がするのだが。
そして、ヴェリノの口元は心底から嬉しそうにほころんでいた。
「エリザ! サクラも! 来てくれてたんだ!」
「ぅおんっ、ぅおんっ、ぅおんっ!」
ガイド犬のチロルが駆け寄り、もふもふのからだをこすりつけて挨拶してくれるなか。
「あら、奇遇ですこと!」
「ヴェリノさん、イヅナさんもお買い物ですか?」
サクラとエリザはもちろん、しらを切りとおしたのだった。
♡◆♡◆♡◆
【主人公 (ヴェリノ) 視点・一人称】
「―― で。まずは次の夏祭り用に、俺らに似合ってカワイイ浴衣を買おうと思うんだ!」
俺は (たぶん俺のことを心配してきてくれた) エリザとサクラに、ドヤ顔で 『イヅナ・カワイイ化計画』 のアイデアを語る。
「学園祭のメイド服みたいに、コスプレ気分から慣れていけばいいと思うんだよな! 俺もおそろいで!」
良いアイデアだよね?
エリザとサクラは、半分笑って半分考え込む、みたいな複雑な表情になってるけど。
「けど、イヅナは、あまり乗ってないようね?」
エリザが指摘すると、イヅナは 「あたりまえだろ」 とふくれてみせた。
どさくさに紛れて、ちゃっかりサクラの肩に手を置いてるあたり、さすがNPCヒーローだな。
「オレにカワイイものなんて、似合うわけがないじゃん?」
「いえ、それはものにもよると思いますけど……」
言いながらサクラは、俺にアイコンタクトを送ってくる。その意味するところはたぶん 『嫌がることしたら好意値が下がっちゃいますよ!』 かな……
だが、俺は確信している。
イヅナは 『カワイイものは似合わない』 とは言っても 『カワイイものは嫌い』 とは、1度も! 言っていないのだ!
俺はKY力を発揮して、手近な浴衣を手にとった。
「あっ! でもさ、イヅナ、このヒマワリ柄とか、まじで似合いそう!」
「え、どれどれ? ……おお、可愛いな!」
ほら見ろ。イヅナ、ノリノリじゃないか (にやり)
俺はさらに、隣の朝顔の柄を手にとった。ちょっと大人っぽい感じだな。
「ほら、こんなのもあるし…… なにか似合うの、探そうよ」
「えーでもな……」
イヅナは迷っている…… が、チラチラと浴衣に送られている横目から察するに、あと一押しってところかな。
その一押しは、やっぱりというか、サクラとエリザだった。
「ここではイヅナさんのサイズがないので、着物専門店のほうがいいですよ」
「あら、専門店なら、あたくしも行きたいわ!」
「なら、わたしも付きあいます」
さすがパイセンがた、グッジョブ!
サクラが行くなら、イヅナも当然、行くよね!
俺はすかさずイヅナの手をひっぱる。
「じゃさ、この後、専門店に行こう! お金のことなら心配すんな! 俺がなんでも買ってあげるよ、イヅナ!」
「そ、それはオレの役目だろ?」
「いいんだ! なにしろ俺は今日、3万マルも持ってるんだからね」
浴衣を買うとなると、魔法の杖はまたしても諦めなくちゃいけなくなるけど……
イヅナにイヅナがほんとうに着たいものを着せてあげるほうが、魔法の杖より、ずっといいよね!
俺はスチル用フレームだけ急いで買ってから、エリザ、サクラ、イヅナと一緒に 『リーナの万屋』 をあとにしたのだった。
着物の専門店は、商店街のなかほど。華やかなドレスショップと競うように、その存在を誇示しているお店だ ――




