閑話 5 ~エリザとサクラとお買い物(1)~
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これから4話ほど、閑話が続きます。
またしても衣装ネタ…… ま、まぁ学園祭終わってないので(目そらし)
お楽しみいただければ幸いです m(_ _)m
学園祭本祭の翌日、5月7日の午前9時40分。
エリザは寮のエントランス・大時計前でサクラを待っていた。
このゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 の中では今日は休日設定だが、現実には学校のある日なので、この時間の待ち合わせは少々キツい。
普段より1時間早く起き、学校の勉強を急いで済ませてログインし、変装をして待ち合わせ時間の10分前に到着。
「サクラったら遅いわね! きっと待ち合わせ時間ピッタリに来る気なんだわ。このあたくしを待たせるなんて、良い根性じゃないの、あの子」
などと、抱っこしたガイド犬、パピヨンのアルフレッドにぶちぶちと愚痴ってみるのは、照れ隠しである。
……ようは、自分が張り切って早めに来てしまっただけなのだ。
【悪役令嬢が10分前なら、ヒロインは15分前には来るべきですよねw】
そこにツッコミ入れずにひたすら調子を合わせてくれるアルフレッドの優しさがキュウン、と胸に迫り、長い毛で覆われたアゴに、すりすりすりすりと頬擦りしてしまうエリザである。
「もうNPCなんて要らないっ…… あなただけ居たらいいわ、アルフレッド」
【光栄ですwww】
パピヨン犬はキュウン、と嬉しそうに鳴き、しっぽをパタパタと振った。
と、そこへ、アンアンアンッ、という元気の良い鳴き声と共に、軽やかな足音。サクラと、ガイド犬のトイプードルである。
「ごめんなさい! お待たせして!」
「ふんっ…… たまたま、少し早くなっただけよ! このあたくしが、たかだかあなた、サクラとの待ち合わせ程度で、小学生みたいにワクワクするわけないでしょうっ!?」
「そうですよね。すみません」
ふふっ、とサクラは笑って、「エリザさんの変装なかなかいいですね」 と、ほめた。
――― 本日のエリザのいでたちは、いつもの豪華な赤いドレスではない。
季節に合わせたパステルカラーの青のワンピース。それに、少し濃い青の眼鏡を合わせ、髪は清楚な白レースのリボンで纏めている。
……貧乏かつ正統派ヒロインとしてプレイしなければならなかった、一周目プレイで買った攻略用ファッションなのだが、その効果あって見事にその辺にゴロゴロいるヒロインと同化していた。
「すごく気づかれにくそうです」
「そう言うサクラは、普段とあまり変わらないのね。眼鏡と髪型だけじゃない」
「わたしは、普段からヒロインですから」
サクラのスタイルは、ライトベージュのワンピースに茶色の縁の眼鏡。
ストロベリーブロンドの髪を三つ編みのお下げにしているのが、名作童話の主人公っぽくて、よく似合っている。
「ま、もともと存在感ないあなたなら、眼鏡と髪型だけでも誤魔化せるわね! その地味な感じもお似合いだわ」
似合っている、とほめたくても口に出すとこうなってしまうエリザであるが、サクラは 「でしょう?」 と笑っただけだった。
――― さて、ふたりがこうして、早い時刻に待ち合わせしたのには、わけがある。
今日、うまくいけば10時から、ヴェリノとイヅナが買い物に出かけるはずなのだが…… イヅナは誰が見ても明らかにサクラ狙いであり、一方のヴェリノは誰が見ても明らかに及び腰であるため、デートがうまく進むか、ふたりは心配になってしまったのだ。
要は、『イヅナとヴェリノのデートを陰から見守り隊』 である。
「まずは、イヅナが来るかどうかよね」
「便箋にわたしの香水を少しつけていますから……」
「さすがはヒロインですわ。抜かりなくあざといわね」
「ありがとうございます」
場所を大時計からは死角になる、ソファ上に移動し、ヒソヒソおしゃべりしつつ、待ち合わせ場所をちらちら窺っていると…… きた。
イヅナだ。
ツンツンと立たせた緑色の頭に、スポーツマンらしいガタイの良い身体つき。日本人らしい濃すぎない顔立ちが、また爽やかである。
「リアルではモテそうなタイプの、良い人ではあるんですけど」
「ゲームとしては、ソソらないのよね」
恋愛方面でのアレコレはヴェリノに一任、とすでに決めるからできる、くちさがない女子トークもまた、楽しいものだ、とふたりは思った。
そうこうしているうちに、やっと。
「あーーっ、遅刻遅刻遅刻ぅぅぅっ!」
「をんをんをんっ!」
叫びながらやってきた、ヴェリノとそのガイド犬を見て。
「やるわね」 「さすが、天然王者です……」
――― エリザとサクラは口々に呟いたのだった。