7-12. レベルアップと天然王者(1)
俺たちが寮の部屋に戻ったときには、夕方の6時を少し回っていた。
「ふぃぃー! 楽しかったなー!」
俺は、ごろん、とフワフワのカーペットに寝転んで、シェルティ犬をお腹にのせる。
チョロン、と出された舌と丸い瞳、ゆさゆさと嬉しそうに揺れるしっぽが相変わらずラブリーだ。
「エリザもサクラもお疲れさま!」
「お疲れ様だなんて、頭が高くってよ!」
エリザはソファにすわりパピヨン犬の背をなでつつ、アゴをツンっと上げた。
サクラはその隣でトイプードルを抱っこしている。
「色々ありましたけど、楽しかったですね」
「うん! それな」
「ヴェリノさん、エルリック王子のフォローありがとうございます」
「オッケーオッケー、無問題! エルリックも1時間くらいで立ち直ったしな!」
「なによ、それ?」
エリザが顔をしかめた。あたくしは知らなくってよ! って感じか。
俺とサクラは交互に、サクラがエルリック王子をフった件について説明する。
「まさか恋愛段階ギリギリ行ってないキャラに、あんなに落ち込まれると思ってなくて…… ヴェリノさんがフォローしてくれて、良かったです」
「あら、そういうことなら」
エリザの目がギラッと光った気がした。
「エルリック王子の好意値、かなり期待できそうね!」
「ジョナスさんの好意値もですよ、エリザさん」
「そうよ! あの、攻略ボーナスタイム! 効果があれば、相当よね!」
「いや、あのさ」
その攻略ボーナスだけど、以降のジョナスの態度を見るにたぶん、勘違い ――
俺はそう言おうと身体を起こしたけど、言えなかった。
エリザの紫がかった青の瞳と、サクラの南の海みたいな色の瞳が、俺を熱烈に見つめている……!
だめだ。とても言えない。勘違いだなんて……
けど、ステータスを見たら一目瞭然、ってやつだよな。
つまり、なんか納得いかないけど、俺は祈るしかない。
ジョナスの好意値…… いや友情値でもいい。
せめて、少しは上がっていますように!
「とっとと、ステータスをお出し、ヴェリノ!」
「え…… 明日の後夜祭のあとにしようよ」
「ステータスを見て、後夜祭の作戦を決めるのよ!」
「わたしも、そっちのほうがいいと思いますよ、ヴェリノさん」
「サクラまで……!」
エリザとサクラ、ふたりにリクエストされちゃったら仕方ない。
俺は空中に指をのばして、大きくステータスを表示させた。
≡≡≡ステータス ①≡≡≡
☆プレイヤー名☆ ヴェリノ・ブラック
☆職業☆ 学生
☆HP / MP☆ 33 / 11 ※
☆所持金☆ 34,120 マル
☆装備☆ 海軍制服 /学生バッグ / 普通の靴 /ー /ー /ー
☆ジョブスキル☆
・勉強 lv.1
☆一般スキル☆
・掃除 lv.3
・料理 lv.4
・飼育 lv.2 ペット数:1
・買い物 lv.5
・おしゃれ lv.2
・外出 lv.4 商店街、小運河 (舟)
・魔法 lv.2 プチファイア、プチアクア
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「うぉぉぉぉ!」
感動の叫びを上げる、俺。エリザとサクラが 『はやく好意値みましょ』 って顔をしてるけど、俺はここで止まらずにいられない……!
学園祭でいろいろ働いたおかげだろう。
掃除や料理、買い物に、おしゃれのレベルまでが上がってる。嬉しい!
そして!
今回の目玉は、なんと言っても、所持金だ ――
「初! 俺史上初の! 5ケタであります!」
屋台の収益は、原材料費と出店費を覗いて3人で等分に分けている。
思った以上に、儲かったんだなあ……!
―― 原材料費をばーん! と出してくれたエリザにも、焼きソバの作り方を教えてくれたサクラにも。
改めて、感謝したい……!
「エリザ、サクラ! ありがとうっ!」
「なにいってるの! あたくしとサクラも、同じだけもらっていてよ?」
「いや、でもさ! 俺ひとりでは絶対になしえなかった偉業だよ、これは!? もうエリザとサクラには感謝してもしきれないっ……!」
「良かったですね、ヴェリノさん」
サクラがニコニコしてくれる一方で、エリザは扇で目から下を隠してる。
「ま、あなたのことだから、すぐ無くなって、またコッペパン生活に戻るんでしょうけどね!」
「エリザ、そんなことまで心配を……!」
「ばっ…… ししし、心配なんて! まったく全然、カケラも!? してなくってよ!」
「OK、わかった! だいじに使う!」
これで、欲しかったスチル用フレームと、チロル用の夏向け冷感シートが買えるなぁっ!
それにそれに、俺の目標だった魔法の杖も!
「あしたは後夜祭の前に、ログインしよっと! さっそく買い物だ!」
「お買い物なら、イヅナさんを誘ってくださいね」
ぎくっ……
サクラが、軍師の顔になっておる……!
「学園祭では、イヅナさんの好意値だけは伸びてないと思いますので」
「えー! ミシェルとエルリックがいい!」
「ダメですよ、ヴェリノさん。わたしから、正々堂々、イヅナさんを奪るんでしょう?」
「うっ……」
覚えていたのか、サクラ……!
かわいらしく小首をかしげる仕草が、なんか悪魔に見えてきた…… って、いやそんなこと考えちゃダメだよ、俺!
「ちゃんと誘ってくれないと、イヅナさん、フッちゃいますからね?」
「ううっ…… わかった」
「ではイヅナさんに手紙を書いてください」
サクラが四次元ポ○ット的な機能をもつポシェットに手をつっこんで、レターセットを取り出した。淡い色の花模様が全面についた便箋だ。
「これを使ってください。イヅナさんは、旧世代のジェンダー平等論者が目の敵にしていたような、いわゆる 〈オンナノコらしい女子〉 が好きなので」
「えええ…… 俺、イヅナの攻略なんて絶対に無理な気がしてきた……」
「ヴェリノさん?」
口元だけでほほえむサクラの目が、なんか怖いだなんてきっと気のせい……!
「イエッサー! かきます、手紙!」
「なるべく丁寧に、きれいな字でお願いしますね? 文言は……」
『明日、お買い物に付き合ってくれませんか? 〈リーナの万屋〉 の前でまってますね♡』
「♡とか、いる?」
「イヅナさんには必須ですよ」
「へえ…… よっしゃ、かけた!」
俺は手紙を折り畳んで封筒に入れ、チロルに渡した。
「チロル、イヅナに届けて」
「ぅおんっ」
【お疲れ様w 了解ですw】
しっぽをふりふり、とびはねて、くるっと回って消えていくチロルを見送ったら ――
次のステータス 【持ち物・称号】 の画面だ。
≡≡≡ステータス ②≡≡≡
☆持ち物☆
制服 レースのドレス 海軍制服★ 学生バッグ★ 普通の靴★
潮干狩り基本セット レターセット(白)
Pブラシ Pトリミングセット(バリカン付) Pフリスビー
P骨カルガム
B『犬種別☆おしゃれカット集』
B『ヴェリノのお料理メモ (焼きそば)』
☆称号☆
◆潮干狩り初心者 ◆なりそこないライフセーバー ◆企画初心者 ◆生き物ふれあい初心者 ◆幸運の使者見習い・初級 ◆恋愛強者 ◆諦めない心
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「②は、服以外、大した変化はなさそうだな…… お?」
俺は、たまたま長押ししてた軍服の横の★アイコンが、動くことを発見した。
制服の横にスライドさせてみると……
おお! 俺の服が、制服にかわった!
「こ、こんな便利機能が!?」
「知らなかったのね、ヴェリノ……」
「ヴェリノさんですから」
エリザとサクラが生温かい目で、早着替えを楽しむ俺を見守ってくれている。
「面白いな、これ!」
「こんな感じで、わざわざ脱ぎ着しなくても、簡単に服を替えられるので……」
サクラがほほえむ。
こんどは、口元だけじゃなくて目もちゃんと笑ってるな。
「後夜祭は、レースのドレスにしましょうね、ヴェリノさん!」
ま、まあ…… 覚悟はもう、できてるぜ。
「そんなことより、はやく次にいきましょ」
エリザが扇子を指先でパチパチと開閉する…… イライラしてるんだな。
しまった俺、着替えで遊びすぎたっぽい。
「急がないとサクラのログアウト時間が来てよ!」
「あっ、そっか! ごめんサクラ!」
「大丈夫ですよ、ヴェリノさん」
エリザさんありがとうございます、とサクラが丁寧に頭を下げる。
―― お礼を言うほどのことじゃ、なくってよ!
ふたりのやりとりを聴きながら、俺は空中に腕をのばし、画面をスクロールした。
「じゃ、交遊ステータス! いっきまーす!」
―― ジョナスの好意値、どうか上がっててくれますように……!
8/10誤字訂正しました!
報告下さった方、ありがとうございます!




