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輝ける陽のあたる世界~ツンデレ悪役令嬢と一緒に幸せ学園生活!のんびり日常するだけのVRMMO~  作者: 砂礫零


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7-11. 学園祭を廻ろう(5)

「ここが 『幻想生物ふれあい体験』 か! あれ? 思ったより、人いないな?」


 学校の裏庭。

 急ごしらえの 『幻想生物とのふれあい体験』 のバルーン屋根下に、人影はまばらだった。


「行列できてたらどうしようって思ってたのに!」 


「逆で良かったではないですか」


「えーなんか寂しいよ!」


「ぜいたくなひとですね」


 言い合う俺とジョナスの足元で、チロルが、ぅわぅ、と小さく吠える。


【普通に触れ合うだけで生キズが絶えないのと、普段から 『幻想生物学』 の授業もありますからねww】


「わざわざ学園祭で行かなくても、ってことか」


「ぅをんっ」

【ですですww】


 なるほどな。

 ま、生キズ絶えないっていっても、ゲームだから痛覚は発生しないし。

 『幻想生物学』 の授業も気になるけど、 『授業』 と 『好きにモフる』 なら断然、後者だし!

 この際、ちょっと寂しいとかは置いといて、むしろ俺とジョナスで盛り上げちゃおう!

 とりあえずバンザイだ!


「貸切状態バンザイ!」


「舌の根も乾かぬうちに…… 恥ずかしいひとですね」


「切り替えが早いと言ってくれい、ジョナスよ!」


 なんだかんだで、ジョナスもちょっと打ち解けてくれてるなあ…… 口数がさっきの休憩時間より、明らかに多いもんね!


 俺とジョナスは、風船で飾られている段ボールっぽい素材で作ったゲートをくぐろうとした ―― と、そのとき。


「ちょいネエちゃん、料金」


 入り口にいた、ちっちゃくてシワクチャで浅緑色の肌をした、耳の尖ったおっさんに声を掛けられた。笑顔 (だろうと思う) がわざとらしくて卑屈で、向き合ってると、なんだかいたたまれない気分になってくる……

 【ゴブリンですよw】 と、チロルがくんくん鼻を鳴らしつつ、こっそり解説してくれた。

 あーこれが噂の被差別民族!

 どう見てもおっちゃんだし、NPCなのかな? 選べるのにわざわざなるプレイヤー(女の子)がいたら、ずいぶん珍しい趣味だ。いや別に、好きでやってるんならいいと思うけど。


「入場料いるの? いくら?」


「200マルでんな」


 ゴブリンのおっちゃんは口の両端を耳まで引き上げてニタニタ笑いながら、やせこけてシワシワになった手を俺に向かって伸ばす。


「そんな……!」


 俺はガックリと膝をついた。サイフの中身、現在、20マル。とても入場料は払えない。


「悪い、ジョナス。俺はこれ以上、先に行けない……」


 無言で俺を見おろすジョナス。たぶん 『情けないひとですね』 とか思ってるんだろうな…… 口に出して言わないのは、ジョナスなりの気遣いなのかもしれない。

 俺はカメラを取り出し、光る銀縁眼鏡に向かって捧げた。


「どうか、これで! 王子と俺のために、不思議なモフモフどもを……! いっぱい、撮ってきてくれ……!」


「…………」


 ジョナスの手が、ぽん、と俺の頭に乗り、離れた。今日何度めかの 『あたぽん』 だが…… 俺はもう信用していない。攻略ボーナスタイムだなんて。

 きっとサクラとエリザが、なにか勘違いしてるんだろう。

(だってあたぽんの回数、多すぎるし)


「〜〜〜〜」


 ジョナスはそのままゴブリンおっちゃんに近寄り、なにやらボソボソと耳打ちしている…… いったい、何を話してるんだろう?


「〜〜〜〜」


 ちっ、とおっちゃんが舌打ちし、ジョナスはそのまま中に入っていった。


「おーい! ジョナス! カメラー!」


 俺の叫びは、無視された。


「ねえカメラ! エルリックに見せてあげるんだよね、モフモフ!?」


「ちっ…… ねえちゃんも、入んな」


 ゴブリンおっちゃんが、アゴで 『とおれ』 と俺に示す…… えっ、いいんですか!?


「あざまっす!」 「ぅおん!」


 俺とチロルはありがたく会場内に入らせてもらったのだった。


 ―― あとで聞いたところによると、じつは 『幻想生物ふれあい体験』 は無料。

 入場係だと俺が思ってたゴブリンおっちゃんは、あそこで小遣い稼ぎをしていただけだったらしい。それで、人がいなかったのだ。

 ゴブリンおっちゃんに、ジョナスがなにを言ったのかは知らないが…… 以後、ゴブリンおっちゃんが客から入場料をせしめることはなくなったという ――


「わぁぁぁぁ! なんだここ! すごいなー!」


 会場内に入ると、バルーン天井は消えてしまった。青空と草原、森、小川(おがわ)。遠くには雪をかぶった山までそびえている……!

 雄大な景色のあちこちで、不思議な生き物たちが寝そべったり自由に駆けまわったり…… 壮観だな。

 逆に、これが無料でいいんですか!?

 俺はその場に立ちすくんだまま、周りを見回す。珍しい生きものが多すぎて首、もげちゃいそうだよ!

 

「羽が生えた生きもの、多いな!」


「ぅおん!」


 目につくのは大なり小なり、なんらかの羽を持った生きものだ。やっぱり人類の憧れなんだろうな、翼って。気持ちは超わかる!


「翼のあるドラゴン! カッコいい!」


「ぅおんっ」


「ペガサスの群れ……! エクセレント!」


「ぅおん、ぅおんっ!」


「あー、あそこの木! 蛇にまで、なんか飛べなさそうな羽ついてる!」


「ぅおんぅおんぅおんっ」

【威嚇目的じゃないでしょうかww】


「それありそうだな、チロル …… おおっと!」


 とたんに、俺の腕のなかに、バターみたいな色のモフモフのかたまりが飛び込んできた。

 ちょうど腕にすっぽり収まるサイズ。手触りのいい毛に、もちゃっと温かく適度な重さをもった身体…… 「くすぐったいよ!」

 たくさんの尻尾がパタパタと俺の顔や胸をはたく。


「九尾の子狐……!」


「ぅおんっ」


「かーわーいーなー!」


 俺が子狐を思うさまモフってると、ふいに日がかげった。


 ぐぉぉぉぉ……!


 見上げると、でかくて獰猛そうな鳥の顔と目が合った。

 俺を見下ろしてうなり声をあげるのは、上半身が鷲、下半身がライオン。グリフォンだ!

 キリッとした眼差しは、俺の腕のなかに注がれている ―― 九尾の子狐を追ってきたのか。


「襲ってはこないんだな」


「ぅおんっ」

【安心安全が第一の乙女ゲームなのでw】


 俺はグリフォンをまじまじと観察した。

 ―― 飛ぶのはあまり得意じゃなさそうだけど、走るのはけっこう、速いんだったっけ。この身体の大きさなら、納得。

 たぶん翼を使って走りを補助してるんだな。


「よし、スチル撮って、エルリック王子に見せてあげよ!」


 言っとたん、子狐がするりと俺の腕から抜け、グリフォンの背によじ登る。サービスいいな!

 俺は慎重に、九尾の子狐&グリフォンのスチルを撮ったのだった。これ、かなりレアじゃない!?


「ジョナスにも見せてあげよっと! どこにいるのかな?」


「ぅおんっ」

【あちらですww】


「え? あれ? おおっ…… なんかウッフンなおねえさんに絡まれてる!」


「ぅおんっ、ぅおんっ」

【サキュバスですねww】


 ジョナスはなんと小川の岩に乗った、無修正のおっぱい丸出しの美人お姉さんにハグされているところだった…… う、うらやましい!

 近くまでいってみると、お姉さんの下半身は羽毛みたいなのに覆われて見えず、背中には羽、お尻には尻尾が生えてて、手の爪は痛そうな感じに尖っている。

 サキュバスのお姉さんは、俺にはまったく注意を向けず、ジョナスに夢中だ…… とりあえず、スチル、スチル。

 エルリックに見せたらどんな顔するかな (にやり)


 お姉さんはジョナスにおっぱいをグイグイ押しつけつつ、誘惑していた。

 大魔王(ジョナス)を誘惑だなんて…… さすがはサキュバスというか。勇気あるな!


「ねーえ? あたしと、イイことしないぃぃ?」


「好意値が1000超えてから、おいでください…… あなたでは無理でしょうが」


「いやだ! あたしのおっぱい、見えてる!? ほら、揺れるのよ!」


「人はおっぱいより頭脳です。頭脳よりおっぱいに重点を置いて設計されたあなたには興味ありませんね」


 ジョナス、クールが過ぎるぜ!

 だんだんサキュバス姉さんが可哀想になってきた……


「俺のほうに来てくれれば……! あんな思いはさせないのにっ」


「ぅおんぅおんぅおんっ」

【あの胸にプレイヤーが自らの意思で触っちゃった場合は、即、垢バンですねww】


「それ、なんで作っちゃったの開発さん!?」


「ぅおんぅおんっ!」

【多様性の確保のためですよw いちおう、プレイヤーに近づかないよう設計はされています】


「このゲーム、開発サイドにひねくれものが1人以上いる……!」


「ぅおんっ…… ぅおん!」

【wwww…… あ、ユニコーンがきましたよ】


 けっきょく俺はサキュバスのお姉さんには指先でタッチすらできず……

 ふんすふんす、と鼻息も荒くベロベロとほっぺをなめてくるユニコーンのたてがみを両手でわしゃわしゃとかきまぜたり顔を埋めたりして、やるせない気持ちを癒したのだった。


 こうして1時間は、あっというまにすぎていった ――


「エルリック、不思議生物スチル喜んでくれるかな?」  「おそらくは」  「ジョナスの浮気現場もバッチリだけど、怒られない?」 「王子殿下は寛容なおかたですので」 「おかしい浮気へのツッコミがない……!」 「…………」


 俺はジョナスとどうでもいい会話をしながら (やっぱり仲良くなれたと思う!)、小走りに屋台に戻り、片付けを手伝う。

 みんな、少し疲れ気味だけど上機嫌だ。


「焼きそばもポーションも完売ですよ」 とサクラはニコニコしてる。

 「ま、当然よね! おーっほっほっほっほ!」 と、エリザは胸を張って気持ち良く高笑いを決めている。


「みんな、よく頑張ったね」


 エルリック王子は、さわやかに俺たちを(ねぎら)ってくれて、ミシェルは俺に抱きついてきた。


「おねえちゃんがMVPだねっ」


「な、なんてかわいい子なんだ、ミシェル……! だが、MVPは全員だ!」


「おねえちゃん、こころがきれいなんだね……!」


 うーん、ミシェルのほうが心がキレイだと思う!

 ジョナスは 「王子、本日も素晴らしい采配(さいはい)でいらっしゃいました」 と腰巾着ぶりを発揮。

 こうしてるのがやっぱり、いちばんジョナスらしいな!


「サクラ、これ、よかったら……」


 イヅナは、屋台で買ったらしいアクセサリーをサクラにプレゼント。

 断るなよ、サクラ……!

 俺はハラハラしながらそっと見守っていたが、サクラは普通にお礼を言って受け取った…… よかった!


 そして俺は。


「エリザ、エルリック! みてみて、スチル!」


 エリザとエルリック王子に、スチルを見せびらかしていた。

 俺のイチオシは、雄々しく焼きソバを調理する軍服姿のエリザだ……!


「まっ、こんなものまで撮ってたの!」


「カッコいいじゃないか、エリザ」


 エルリック王子はほほえんだが、エリザは扇で顔を隠してしまった。耳が赤い。


「まさか、部屋に飾るとか言い出さないでしょうね……?」


「ふふーん! どーしょっかなー! 焼きソバの軍神っぽくて映えそうだしな、まじで!」


「ゆっ、ゆるさないから……!」


 しばらくエリザの反応を楽しんでいると、空がうす暗くなってきた。

 もう、6時だ ――


 どぉぉんっ ぱぁぁぁんっ


 黄昏(たそがれ)のスミレ色に染まる空を、花火が彩り始める。

 俺たちは花火と屋台をバックに、みんなで記念スチルを撮った。

 ―― 長いようであっというまだった、学園祭。

 エリザとサクラの軍服も、エルリック王子たちのメイド服も、これで見納めかぁ……

 まだ後夜祭もあるとはいえ、ちょっと寂しい気もする。

 でも…… よかったなあ……!

 今日いちにちで、みんなと、いままでよりもずっと、仲良くなれた気がする。

 サクラがエルリック王子をフっちゃったり、それでエルリック王子が落ち込んだり。

 予想外に王子に落ち込まれすぎて責任感じたサクラが俺のぶんまで働いて、俺を王子のフォローに専念させてくれたり。

 ジョナスが、俺の頭をぽんぽんさわりまくるもんだから、サクラとエリザがすっかり勘違いして、俺とジョナスが一緒に学園祭まわれるよう仕組んでくれたり。

 それでミシェルが大泣きして、いっそう可愛かったり (かわいそうでもあったけど) ――

 イレギュラーばっかりだったけど、それがかえって、楽しかったよな……


 花火で彩られた夕空をバックに、それぞれの思いをかみしめながら俺たちは、みんなで協力して屋台を片付けたのだった。


読んでくださり、ありがとうございます!


さてー、学園祭の屋台編(←え?) が終了しました!お付き合いくださった皆さま、ありがとうございますm(_ _)m

土・日お休みいただきまして、月曜日からは恒例・数値発表ターイム! が、二話続きます。


ではー、暑いですが、熱中症にお気をつけて、良いお休みを!


感想・ブクマ・応援☆ めちゃくちゃ感謝しておりますー!


※8/7誤字訂正しました!報告くださった方、ありがとうございます!

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[一言] ほのぼの……怖がらずに読めてとてもいい…… いや結構あれこれ事が起きているからけっして平坦な物語ではないので飽きなくていい、だけど処刑とか追放とか物騒なものは全くない……! のほほほほん~
[良い点] 屋台編楽しかったです☆彡 やはり屋台の王者はやきそばでしたね (*´▽`*) [一言] や……やっぱりお金は200マルじゃ足らなかったぽい? (;'∀')w
[良い点] こりゃアレですかね、少女マンガの方が少年マンガよりよっぽど描写がきわどかったりするのと同じような感じ……なんですかね~。 触れてダメならなぜ見せる……。(笑) [気になる点] >ちっちゃ…
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