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7-7. 学園祭を廻ろう(1)

「よっしゃ、やっと休憩! トイレトイレトイレトイレ……!」


 午後1時30分。

 お客さんが少なくなってきたところでエリザが 『あなた、なぜジョナスを放置してるのかしら!?』 と言い出した。

 もちろんエリザなりの気遣いで、俺はありがたくリアルのトイレに駆けていってる、ってわけだ。

 大切なのはジョナスより生理現象!

 このゲーム、学校では女子トイレの個室からログアウトできる仕様だ。はじめて入ったときは緊張したけど、いまや俺も慣れたもの。

 女子トイレの個室までダッシュ、ログアウト、本物のトイレに行って、ついでに、ばあちゃんが作ってくれていたおにぎりを頬張って、ジャスト5分で再ログイン。


『マジカル・ミラクル・はじまるよっ!』


 改善要求が何度出されても変わることがない伝説の小っ恥ずかしいログインワードを唱えれば、あっというまにゲームのなかに逆戻りだ。


「さて! じゃ、さくさく見てまわりますか! どこ行こっかな」


 ポケットからプログラムを取り出し、案内図を確認する。

 午後2時まではあと25分……


「焼きソバ屋台に帰りながらほかの屋台をみてまわって、美味(うま)そうなのを、みんなへのお土産にするか!」


 うん、悪くない。むしろ楽しい!


「ぅおん!」


 チロルが俺を黒くてまんまるな瞳で見上げて鳴く。


【ジョナスはどうするんですかw】


「会うかもしれないし、会わなくても良いし! つまりは探す時間がもったいない」


 ジョナスはNPCだからシフト表に忠実に従って時間どおりに休憩中だ。

 逆ハーレムづくりを第一に考えるならば、ジョナスを探してくっつきに行かなきゃいけないんだろうけど……


「初めてじゃないこわいお兄さんと、初めてのお祭り! どっちを取るかっていったら、エリザやサクラには悪いけど明白だよな」


「ぅおん、ぅおんっ」

【wwww】


 時間がないから急がなきゃ。

 俺とチロルは人ごみをぬって走る。

 まずは購買所(こうばい)でスチル用カメラをゲット。

 15枚撮りで500円…… 高いと思ってたけどスチルボーナス (撮られるたび10マルのインカム) でまかなえた。


「3時間ちょいで50枚も撮られちゃったもんね、俺!」


「ぅおん、ぅおんっ」

【よかったですねw】


「うん! やっぱこれって、俺の軍服が似合ってるからだよね!?」


「ぅおんっ」


 さて、カメラを買ったら残りは1,620マル。

 学園祭が終われば、焼きソバ屋台の収益から分け前が出るはずだから…… これは、全部使えるな!


「さぁてー、何を買おうかな!」


「ぅおんっ」

【嬉しそうですねww】


「俺はいまから真実を言うぞ…… めちゃくちゃワクワクする!」


 お祭り会場のまわりをずらっと囲む屋台と、たくさんの人。

 かき氷や綿アメは作るの見てるだけで飽きないし、たこ焼きの美味そうな匂いも、クレープ屋から漂ってくる甘い匂いも、たまらない……!

 おめんにヨーヨーすくいまである!


「おおーっ、あれ、やってみたい!」


 俺が目をつけたのは 『射的』 という看板のかかった屋台だ。

 銃で(まと)あてをするゲームみたいだが、その銃がかなり本物っぽくてカッコいい……!


「俺、いま軍服だし、似合いすぎじゃない?」


「ぅおんっ……」

軍服(そのコス)で的中度が上がる……】


 「えっ、そんなオプションあんの!?」 


「ぅおんっ、ぅおんっ」

【……といいのですけどねww】 


「だと思った……!」


 俺はチロルと一緒に急いで目的の屋台まで走る ―― と、見覚えのめちゃくちゃある人影が、周囲の女子プレイヤーの注目を一身に集めつつ銃を構えていた。

 メイド服をまとったそいつの美しい姿勢と眼鏡の奥の凍えるような眼差しに、冷たい()()を帯びた黒い銃身が似合いすぎるほど、似合っている……!


「じょ、ジョナス…… 射的とかするんだ……」


「ぅおんっ」

【ここでヴェリノに会えると計算して、待っていたんでしょうww】


「まさか!」


 しかしまあ、せっかくだからこの勇姿、スチルカメラにも残しておいてあげようかな…… なにしろ、本職のスナイパーと言っても全員が信じそうなくらい、板についてるし。メイド服なのに。

 俺はスチルカメラをジョナスに向け、その瞬間を待った ――


 カチッ


 引き金にかけた長く形のいい指が、動く…… いまだ!

 俺は夢中でスチルカメラのシャッターを押した。

 同時に、蒼白い光が銃口から飛び出す。

 耳をつんざくような、派手な音。

 棚の上の中央。 1等の札の上に置かれた、倒れにくそうな箱が、ゆらゆらと大きく揺れる。


 ―― 倒れるのか、倒れないのか……?


 あたりが一瞬、しん、と静まりかえった。

 みんなが、注目しているのだ。この勝負の、行方に……!


 ―― 景品は、大きく前後にゆらぎ、やがて。

 軽い音をたてて棚から転がり落ちた。


 「大当たりー! 1等! ミラクル・リゾートへの旅です!」


 シャランシャランシャラン、と鈴を鳴らしながら、店の女の子が声を上げた。


「すごいな! ジョナス!」


 やはりコイツの本職は、暗殺者(スナイパー)で間違いない……!


 しかも、それだけでは終わらなかった。


「…………」


 無言でライフルを構えなおすと、ジョナスは再び引き金をひいた。

 冷徹そのものの視線が狙う、その先には ――


「またまた大当たりー! 金の 『初代まじかるガイド・ちちふさくん』 ドールです!」


 次にジョナスが当てた景品は、もふもふガイド犬のヌイグルミだった。

 『初代』 ってことは、このゲームにいちばん最初にログインした子についたガイド犬なんだろうな。

 ポメラニアンっぽいが、毛が金糸でできている…… ネーミングもアレだけど、センスも微妙だな。かわいいけど。


「ジョナス 『ちちふさくん』 がほしかったの?」


 いやほんと微妙なネーミング!


 ―― と、いきなりジョナスがツカツカと俺に近寄り、手に銃を押しつけてきた。


「…… どうぞ」


「なに? もういいの? 本気でほしかったの、あのヌイが!?」


「…… あと3発残っていますから、よろしければ。どうせ金欠なのでしょう」


「おおっ! ありがとー! 助かる!」


 射的の料金は500マルだから、お財布的にちょっとキツいな、と思ってたとこなんだよね。

 遠慮なく使わせてもらおう。

 ジョナスは怖くても、残った3発に罪はないもんね。


「よし! じゃあ俺は、2等狙う!」


 ジョナスと俺で、射的屋さんを大慌てさせちゃうぜ……!

 ―― だがそんな余裕は、実際に銃を持ってみると消えてしまった。


「え…… (おも)っ! (かた)っ! 使いにくっ……!」


 持つだけで、手がふらふらしちゃうよ!

 ゲームの中でここまで再現度高くしなくても、いいと思うんだけど……?


 と、ジョナスが俺の背後に立った。

 殺される……!

 反射的に首を縮める、俺 ―― だが、ジョナスの手は、意外にも俺の腕に添えられている。

 銃の持ちかたを、なおしてくれてるみたいだ……!

 もしかしてジョナス、意外といいやつなのか……?


「ど素人が片手でできると思っているあたり、愚鈍がすぎますね」


 俺、前言撤回。ジョナスの声が冷酷すぎてこわい……!


「両手で持つんです。脇は締める」


 それでも親切に指導してくれている感は、ある…… あるけど……

 なんだか、からだが勝手に震えてきちゃうよ……!

 ちゃんと指示通りにできなかったら、延髄に針打たれそうでさあ!


「どど、どうか、あたります、ように……!」


 俺は手の震えをおさえ、なんとかライフルの引き金を引いたのだった ――

こんにちは! 梅雨明けですねー。

しかしこちらの世界では、まだ5月の最初。

日常話なんで、調子に乗ってダラダラと学園祭を続けております(←書いてる方は楽しいww)


こんなお話ですが、読んでくださってありがとうございます!

感想・ブクマ・応援☆には、なおのこと感謝でございます。m(_ _)m


これから暑くなりそうですので、体調お気をつけくださいー。今週は金曜日まで、毎日更新予定です。

でーーはーー!

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[良い点] うむ、そう……射的のライフルを、近い方がいいハズって片手で扱うのはシロートのやることだぜ……。 そんな程度の距離、詰めたって大して威力は変わんねーよ……。 それより片手は、引き金を引き絞る…
[一言]  射的……。最後にしたのはいつでしたかね……。  ジョナスさん、スペックが高いですね!これがキャラ補正ってヤツですか!  ありがとうございました!
[一言] 前回から、ジョナスの株が上がりまくりな件について……!! 出番はそこまで多くないはずなのに、魅せ方が上手いからか、前情報から一転して凄くイケメンぶりにトゥンク……♡と、させられますね! …
感想一覧
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