7-6. 学園祭スタート!(3)
12時までの1時間は失意のエルリック王子に焼きソバ食わせたり飲み物飲ませたりしている間に、ほぼ終わった。
「そうだ、そもそもが…… 設定されているからと深く考えずに婚約者以外の女性に親切にすべきでは、なかったんだ…… 新入生で困っているからといって、話しかけたりせず、無視していれば、こんなことには……」
「いや、それはそれで人としてどうかと思うぞ!?」
「…… 私は……最低だ……」
「いや、そんなこと前から、俺が言ってやってるだろ? 今さら気にすんな!」
俺はエルリック王子と肩を組みヨシヨシと頭をなでてあげた。気分は盟友だ。
逆ハーレムといい、都合のいいヒーロー設定といい…… 意に添わない恋愛っていうのはキツいもんなんだな。俺やエルリックみたいにメンタル普通のやつだと、特に。
「ありがとう、ヴェリノ」
「おう、いいっていいって!」
「私は私なりに、私への対処法を考えてみることにするよ」
「うんうん! でも、あんまり悩みすぎるなよ? ストレスは病気のもとだからな?」
「ヴェリノ…… きみはなんて、いい人なんだ……!」
「うんうん。エルリックもそんなに悪いヤツじゃないって、俺も知ってるからな」
「ヴェリノ……!」
―― こうしてエルリック王子が少し元気になったころ。
ぅおんっ
チロルが俺をふさふさのしっぽでなでてくれた。気持ちいい!
【お疲れ様です。あと1時間とちょっとで、休憩ですよ! といってもこれから休憩までがまた、大変ですがw】
「お! もうすぐ12時か!」
「ぅおん、ぅおんっ」
【ちなみに、この1時間でスチル30枚撮られました】
「えーっ! すごいな!?」
「あら、ギャラリーの声、聞こえてなかったんですか?」
サクラが会計台から振り返る。
「いやー、王子の世話でそれどころじゃなかったし……」
「みなさん 『尊い』 って言いながら、カメラ向けてましたよ」
「……なんだそれ」
「みなさん、どうもヴェリノさんをNPCと間違えてるらしくて、男の娘どうしのゆ 「あー! うんわかった! うん大丈夫!」
俺はあわててサクラをさえぎった。
これ以上はノーマル嗜好の俺が聞いてはならない…… そういう内容だってことくらいは俺にもわかる。なにしろ、妹の漫画読んで学習済みだからな!
「おねえちゃん、スチル30まい!? すごいねっ」
「おほほほ! ヴェリノも、なかなかやるじゃないの?」
休憩に行っていたエリザとミシェルが戻ってきた。
お土産のチョコバナナを人数分バックヤードに並べつつエリザは、ふんっと軍服の胸をそらす。
「あたくしとミシェルは、さっきの1時間で40枚撮らせてあげたわよ?」
「たいへんだったんだよっ、おねえちゃんっ」
ミシェルは、うるうると目をうるませながら俺の膝に身を投げ出して訴えた。
「ぼく、いっぱい見てまわりたかったのに! エリザさんが、ぜんぶスチル撮影うけちゃうんだもんっ」
「ミシェルが、あたくしの引き立て役として適任だったのが悪いんじゃなくて?」
「ちがうもんっ! ぼくだって、かわいいっていわれたもん!」
ミシェルは不本意だったようだが、撮りたくなる気持ちは、わかるかも。
―― キリッとした軍服のエリザ。ほわんとした雰囲気をただよわせる、メイド姿のミシェル。ふたりならぶと、ほんと絵になる!
「やっぱ、ふたりともカッコいいしかわいいからじゃない? 屋台が終わったら、俺たちもみんなで写真とろう!」
「ふっ、やぶさかではないわね!」 とエリザがのたまい、ミシェルががばりと身を起こす。
「うんっ、おねえちゃん! たのしみだねっ」
「うんうん! めっちゃ楽しみだな!」
俺がミシェルの柔らかな髪をなでてあげると、その下の大きな緑の目が嬉しそうに輝いた。
【12時です!】
チロルがふたたびほえ、時計台から華やかなメロディーが流れてきた。
「よっし!」 「いこう」
俺とエルリックは顔を見合わせてうなずき、立ち上がる。
食べもの屋台の、お昼12時~13時 ―― それはまさしく、戦場である……!
この時間帯は俺たちも休憩をとらず、全員総出で働く予定なのだ。
焼きソバは一番上手なサクラとエリザ。ポーションとお客さん対応を俺とイヅナが臨機応変に担い、計算が得意なミシェルときっちり几帳面なジョナスはお会計を受け持つ。
「焼きソバ2!」 「ポーション、ソーダ味とコーラ味!」 「はい焼きソバとポーションお待ち!」 「1200マルです」 「おつり! おつり忘れてるよ、おねえさんっ」
「スチル撮っていい?」 「どうぞ、ご自由に!」 「ツーショットいい?」 「悪い! それはあとでな!」
お客さんの声も俺たちの声も、入り乱れて飛び交ってるなか、俺たちはとにかく猛然と手と足と口を動かす……
いっそがしいいいいいい!
けど、充実感は、すっごいある!
―― どんどん人が来てくれて、いろんな人と話せて、商品が次々、売れていく……!
俺はポーションを運びながら、エリザに話しかけた。
「楽しいな!」
「ほーほっほっほっほ! 企画に誘ってあげたあたくしに、感謝してもよくってよ!」
手を動かしながら、振り返って高笑いをするエリザ。器用だよな、ほんと。
その向こうではサクラが、すごい勢いでできた焼きソバを箱詰めしていっている。
―― ふたりとも、キビキビ働く白の軍装が、めちゃくちゃカッコいい……!
部下にしてください!
……とか、言いたくなっちゃう!
怒濤のような1時間が過ぎ、時計台から午後1時のメロディーが流れる。
チロルが俺の脚に黒く湿った鼻をこすりつけて 「ぅおんっ」 と鳴いた。
【休憩ですよ】
スケジュールではこれから1時間が、俺とジョナスの休憩タイムだ。
ジョナスが無表情+棒読みで俺に言う。
「行きましょうか」
「でもなー、まだお客さん、あんまり減ってないから……」
俺はチラチラとミシェルをうかがった…… ミシェルと目が合う。
ミシェル、やっぱり俺とお祭りまわりたかったんだろうな…… ううう、いきにくい。
と、ミシェルの目がすごい勢いでうるんでいく…… 泣いちゃうのか、ミシェル!?
ミシェルは頭をぶんぶん振った。
メイド服のそでで、目をぬぐった。
俺を見て、ひまわりみたいにわらって、サムズアップしてみせた。
(行ってきてねっ、おねえちゃん!)
―― うん。やっぱ、行けないね!
「やっぱごめん、ジョナス! 俺、もうちょいこっち手伝ってくから!」
「休憩時間ですよ?」
「いや、お客さん減るまで、俺もここにいる! よかったらジョナス、先に休憩いってきて!」
「…………」
俺を見る銀縁眼鏡の奥の目が、微妙な感じに細まった。
そして、ぜんぜんジョナスに似合ってないメイド服の腕が、俺に向かって伸びてくる……!
―― あれ、もしかして、タメで話したのがダメだった?
あーそれだ! なにしろ高貴なおかただからな! それだわ俺、やっちゃったわ……!
―― つるしあげられる! 物理的に……!
俺は反射的に、ぎゅっと目をつむった。
―― ん?
いつまでたっても、首がしまる感覚がやってこない……
かわりに。
ぽん
俺の頭に軽く手が置かれる感触。
―― その手が素早く離れていく感覚から、心の中で5秒数えて、そっと目を開けてみると。
ジョナスの背が、スタスタと離れていくところだった。
―― へ?
―― つまり 『ジョナスのあたぽん』 再び、って…… ことですか?
な ん で ! ?
ちょっと混乱した俺だが、これ以上考えるひまはもちろんなく…… 俺は結局このあと30分ほど、がっつり働いたのだった。
読んでくださり、ありがとうございます!
次回は学園祭のほかのお店も出てくる予定です(やっとか!)
土日は更新お休みして、月曜日からまた、更新再開させていただきますので、宜しくお願いいたしますーm(_ _)m
感想・ブクマ・応援☆、めちゃくちゃ感謝です!
でーはー。熱中症や夏風邪にもお気をつけてください!




