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7-3. 学園祭~開始前~(3)

「よっし! 屋台の準備! 完了ー!」


 俺がバンザイをし、エルリック王子が 「手際よくできたね」 とほほえんだ。

 時刻は9時30分。

 10時の学園祭開始まで、まだちょっと時間がある。


「女の子たちだけで、少しだけ離れませんか?」 


 サクラが提案してきたのは、そんなタイミングだった。


「もしかして」 ぴくり、とするエリザ。


「ええ」 とうなずく、サクラ。


 2人とも、真剣な表情…… だいじな話っぽい。


「じゃ、食堂へでも行くか!」  「ぅおんぅおんぅおんっ」


 チロルが嬉しそうに俺の脚にまとわりついてきた。学園祭の今日は、ガイド犬たちもやることがなくて暇なんだろう。


 まだ朝の時間帯だからか、食堂はがらんとしていて俺たちしかいなかった。吹き抜けから木漏れ日が、床に優しいまだら模様を作っている。

 俺たちは隅の椅子に腰をおろし、ガイド犬を膝に乗せる。

 エリザのパピヨン(アルフレッド)はよっぽど退屈してたんだろうか。さっそく、飼い主の胸のあたりに手をかけて後ろ脚で立ちペロペロと頬をなめている。


「今日の屋台のシフトのことなんですけど」  「きゅうん」


 サクラが、トイプードル(りゅうのすけ)の背を優しくなでながら、口火を切った。


「シフト、変えた方がいいと思うんです」


「ふっ…… あなたにしては良い着眼点ね、サクラ!」


「えええっ、なんで!?」


 俺はシェルティ(チロル)の耳の後ろをモシャモシャかいてあげていた手を止めて、サクラとエリザを交互に見た。


「俺、ミシェルと一緒に会場まわる約束、しちゃったよ!?」


 学園祭では、1時間単位でプレイヤーとNPCが1人ずつ組になり休憩をとることになっているのだ。


「今からシフト変えるなんて、大変じゃん!」


「いえ、たぶんNPCは対応できるでしょうから、大丈夫です」 


 やたらと冷静に言うサクラの手元には、すでにシフト表が用意されている ―― 最初から、そのつもりだったな。

 エリザが 「むしろ対応できなければ運営案件よ?」 と腕を組んだ。


「ヴェリノ」 とおごそかにのたまう。


「あなたは今日1日、ジョナスにくっつきまくりなさい……!」


「えええええっ!? ミシェルが泣くよ!」


「泣かせておおき!」


「なんで!?」


「それがですね」 と、サクラがここで初めて、少しばかり気の毒そうな顔になった。


「ヴェリノさんは先ほど、ジョナス攻略タイムのスイッチを押してしまったんですよ」


「そう。勝負は、ジョナス攻略 『激ツボ発言』 を押さえてからの24時間 ――!」


 エリザが立ち上がり、扇の先を俺に向ける。びしっ。


「ジョナスを誘惑して誘惑して誘惑しまくりなさい!」


「ええええええええっ!? それ絶対に毒盛られるやつ!」


 あっ、俺の目から汗が……!

 ミシェル…… おにいちゃんは、ミシェルと一緒に学園祭みるほうが、1億倍たのしいよ!

 ジョナスこわい。

 ―― だが、シフト表は無情にもサクラの手によって書き換えられてしまっている。

 休憩タイムにならぶ、俺とジョナスの名前……!


「だいたい、俺いつ、ジョナスのスイッチを押したっけ!?」


「高貴な御方には軍服など似合いません、ですね」


 シフト表を書き終えたサクラの手が、再びパピヨン(りゅうのすけ)の背中を優しくなで始めた。


「ちなみに、スイッチが入った合図は 『あたぽん』 ―― すなわち頭に軽く触れる仕草です」


「そんなばなな!」


 びっくりしすぎて旧石器時代のギャグが出ちゃうよ、もう!


「ふっ、しかたないわね。説明してあげてよ!」

 

 エリザによると ――

 ジョナスは、このゲームで一番クセがあるキャラらしい。


「王子の腰巾着、侯爵家嫡男。王子(いのち)で彼に近づく者は全員嫌いで唯一、認めてるのは格上の公爵家令嬢こと王子の婚約者。つまり、あたくし」


 エリザがパサリ、と扇を翻す。


「それも、あたくしが王子の婚約者だから、よ。好意値が高いから、とウカツに近づけば…… あっという間に、浮気を咎められて、ゲームオーバー。

 舞踏会(パーティー)で華々しく婚約破棄されて、逆に相手の腰が抜けるほど罵り返して差し上げるという、あたくしのプランが台無し、というわけ」


 ……え、エリザ…… すごい野望(プラン)を持ってるな……?


「つまり、ジョナスにとっては、王子以外はゴミ同然だが関係者はギリセーフ。平民などゴミクズ以下。裏切り者には死あるのみ、ってこと?」


「ま、そういうことね!」


「えーっ、それ! 普通に嫌なヤツじゃん!」


「でも、悪人とも言い切れないんですよね、ジョナスさんは」 とサクラ。


 ジョナスは、悪役令嬢が機能しない場合には代わりにヒロインをいじめることで王子ほか(ヒーロー)の恋心を高める役割も担ってくれているらしい。

 嫌な役柄ではあるが、ストーリーを進行させるための便利キャラでもあるわけだ。


「って、いやいやいや…… そんなヤツ、攻略したい女子いるの!?」


 ふっ、とエリザが鼻で笑ってくる。


「ヴェリノは、ゲーマー魂というものを理解していないようね!」


「コンプリートは基本ですよね」 と、サクラもうなずく。


「そうよ! それも、攻略し難いキャラほど燃えるのよね!」


「難しいキャラは、攻略した後と前のギャップにクラクラくるんですよね」


「あら、そうなの、サクラ? あたくしはどっちかといえば、ざまぁ見なさいませ、と思うわね!」


「それ! ちょっと、わかります」


 エリザとサクラ、変なところで気が合ったな!?

 まあ、それはさておき。

 そんなクセがあって攻略の難しいジョナスを崩す方法は ――

 

「ジョナスの 『あたぽん』 があれば、そこから24時間は攻め時です!

 いつもはイベントそのものが起こりづらく、好意値の上昇も他のキャラの半分な人ですが、この間だけは他のキャラの2倍に上がります」


 掲示板で見たという情報を、サクラが丁寧に教えてくれる。


「なるほど」 とうなずきつつも、俺は控えめに抗議してみた。


「でも、ミシェルも俺も楽しみにしてたんだけどな? いっしょに学園祭まわるの」


 だがその抗議も、サクラとエリザに一蹴される。


「ミシェルさんとヴェリノさんはもともと相性がいいみたいなので、問題ありませんよ」


「気になるなら、あとで埋め合わせでもしておあげ!」


 うーん…… 攻略をとるか、きょうだい愛をとるか、難しいところだ。


「とりあえず、ミシェルに事情を説明しなきゃな!」


 俺はチロルを抱っこして、勢いよく立ち上がったのだった。

7/27 誤字訂正しました!報告くださった方、ありがとうございます!

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◆日常系の異世界恋愛作品です◆ i503039 

バナー制作:秋の桜子さま
― 新着の感想 ―
[良い点] フツーにスキップ機能があるADVでも、フラグ立てがシビアなキャラとか、よー分からんキャラとか、何周もやり直して攻略するのはキレそうになること多々というのに……。 スキップしようのないVRを…
[一言] NPCに感情移入してしまうヴェルノとゲームと割り切る二人の差ですね。
[一言]  難しいほど燃えるのは、よ〜くわかります!(攻略できるとは言ってない……。何でかな……?)  悪役令嬢の代わりを用意している辺り、しっかりゲームなんですよね……。  更新お疲れ様です!
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