7-1. 学園祭~開始前~(1)
いまの現実世界では、5月5日が 『地上最後の日』 なら、5月6日は 『創建記念日』 。地下の街本格スタートの日ってことで祝日になってる。
それに合わせたのか、VRゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 の学校の創立記念日と学園祭も、5月6日 ――
いよいよ今日だ。
「すごいなー! プログラム盛りだくさん! どれも楽しそう!」 「ぅおんぅおんぅおんっ♪」
「ふっ、残念ね、ヴェリノ。あたくしたちも出店するから、あまり観られる時間はないわね!」 「くぅーん……」
「幻想生物との触れ合い体験は、やってみたいですね」 「きゅぅん、きゅぅん♪」
あらかじめ渡されていたプログラムを見ながら、俺は、サクラ、エリザ、それにガイド犬たちと学校に向かう。
「屋台の食べ歩きもしてみたいな!」
「金欠なんでしょ? せいぜい、ミシェルにおごってもらうのね! おーほほほほ!」
エリザが高笑いする。
「あーエルリックとミシェル、率先しておごってくれそうだな! けど、ミシェルはこないだも (俺の趣味じゃないけど) ドレス買ってくれたし……」
「断然、ミシェルさんにおごってもらうべきです」
サクラが軍師の顔になる。
「王子は好意値がダントツですから。これ以上upさせるより、他のプレイヤーとのバランスをとった方がいいと思います」
「お、おう…… とりあえず、サクラ! 頼りにしてる!」
「あーら、ヴェリノが頼りにするのは、サクラだけなのかしら!?」
「もちろん頼りにしてるよ、エリザ! いや大将!」
「えええいっ! 姫君とお呼びっ」
いつものやりとりも、いつもよりはずんでる感。
なにしろ今日は、衣装だって違う。昨日ミシェルに買ってもらった、おそろいの白い軍服だ。
―― すっきりタイトなボディラインと、ひるがえる裾。海軍制服を参考にしたデザインなんだそう。
控えめに言って、めちゃくちゃカッコいいよ!!! ありがとうミシェル!!!
「いいなー、エリザもサクラも、いかにも 『男装女子』 って感じ! 凛々しい、っていうんだっけ? こういうの」
「ほっ、ほめてもなにも出ないわよっ」
いやエリザのその真っ赤なお顔が、ご褒美だって。素直にかわいい。
サクラがニコッとわらった。
「ヴェリノさんも、素敵ですよ」
「マゴにも衣装、とはよく言ったものね!」
エリザの目が言っている。
ざまぁご覧なさいませ!
「アニメの女性士官みたいよ、ヴェリノも」
「いわないで……」
俺はついに、ガックリ肩を落とした。せっかく意識をそこから外して、忘れることに成功してたのに。
「……なんで、俺だけ、タイトスカートなのかなー?」
「ミシェルの意向ですからね! おーほほほ! お気の毒!」
そう。
ミシェルは先日、俺たちの衣装を人数分買ってくれる代わりに…… 俺の軍服を、タイトスカートにしやがったのだ。
抵抗する俺をヤツはキラキラした瞳で見上げ 『お姉ちゃんはこれがカッコいいですよ!』 と断言。
で、そのキラキラがウルウルに変わって 『ぼ、ぼく、ぼく…… お姉ちゃんに似合うと思って…… いっしょうけんめい、選んだのに……』 とか、半泣きで言われたら。
もう、きいてあげるしかないよね!
しかたないんだから、俺の弟は、もおっ!
―― って、なっちゃったんだよな……
「あのとき…… ほだされるべきでは、なかった……」
5月の爽やかな風が、俺たちのあいだを吹き抜けていく。
「ま、いいんじゃなくって?」
興味なさげな声でエリザがなぐさめてくれる。サクラも 「そうですよ」 とうなずいた。
「ヴェリノさんは脚がキレイだから、そっちの方が絶対似合ってます」
「そうかなー? ミシェルにも同じこと言われたけど……」
「ミシェルさんの見立ては確かですね」
「そう?」
オシャレなサクラに言われると、そんな気もしてきた。
―― うん。ま、いっか!
それより学園祭だよね!
俺は、青空に拳を振り上げる。
「よーし! 張り切るぞー!」
「そんな台詞は焼そばが上手くなってから、お言い!」
「お姉ちゃんの焼そばはっ! 心がこもっていました!」
学園の門から、俺たちを見つけ猛ダッシュで走ってきたのは、やっぱりミシェルだった。
俺にひし、と取りつき、猛然とエリザに食ってかかる。
「ちょっとベチャッとしていたのは、焦げ付かせないように、という心遣いですし! 麺がやたら細切れだったのは、水分を飛ばそうと頑張ったからなんです!
そんなことも、わからないんですか、エリザさんっ」
……ミシェル……
可愛すぎる……!
「だ、大丈夫だ…… お兄ちゃん、しっかり、練習してきたから!」
そう。現実の夕食で俺は、祖母につきっきりで焼そば作りを指導してもらったんだ。
俺んちは6人家族だけど、18人分は作った!
―― 上手くできなかったぶんは、冷凍庫にとっておいてアレンジメニューにするんだって。
だから、好きなだけ作ってみなさい、ってばあちゃんは言ってくれた……
ほんと、ありがとうな、ばあちゃん!
ふんっ、とエリザが鼻を鳴らす。
「ま、あれだけヘタだったら、練習は当然よね! 自覚していたことを誉めてあげるわっ!」
「おうっ! ありがとっ」
「そこ喜ぶとこじゃないですよ!」
ミシェルはまだ怒ってるが、互いに目配せしあう俺とサクラの口元は、ついつい緩んじゃってる。
―― エリザのアレは 「ちゃんと練習できて偉い」 ってことなんだよね!
まあ、説明するのもなんだから……
話題を変えよう!
今回の学園祭、俺たちのグループの話題といえば、やっぱコスチュームだよね。
「ミシェルも似合ってるね、その服!」
「でしょー!?」
えへっ、とミシェルが笑って、くるりと回る。
スカートが、ふわりと風にひろがった ――
読んでいただき、ありがとうございます!
そしてすみません、予告してた更新予定遅れてしまいました!m(__)mペコペコ
言い訳ですが、先週は脳内がホラー化してたのと子供の胃腸風邪が移ったのとで…… 全然こちらの方の筆が進みませんでした!
ボチボチ書きながら、なるべく毎日upを目指します。
さて、いよいよ(というか、やっとw)学園祭です! お祭りの雰囲気を楽しんでいただければ、嬉しいですー。
では! 胃腸風邪、なんだか流行ってるようなのでお気をつけてくださいね。