6-9. レベルアップと作戦会議(1)
「ふわぁぁ…… 焼きソバ、うまかったぁ…… 俺の以外」
「ヴェリノさんも、上手でしたよ」 と、サクラ。
「サクラ。甘やかすのは、ヴェリノのためにならなくってよ!?」 と、エリザ。
「ま、いいじゃん! 俺はポーションと会計、がんばるから!」
「あっ、でも。たぶん、ヴェリノさんにも焼きソバ作ってもらう時間帯あると思うんです……」
「わかってる! 練習する!」
「ぅおんっ」
とりあえず、俺は、もふもふガイド犬のチロル様を抱っこしてカーペットのうえに転がった。
ふぅうううう……
(自分の腕前のなさに) 傷ついた心が、癒されるぅ……
そんな俺のそばにどーんと立ち、目だけで見下ろしてくるのは、エリザだ。
「さて、時間は有限よ! さっさと作戦会議、始めましょ」
「そうですね」
サクラがこくっとうなずいた。
―― いま、俺たちは学校から寮の部屋へ戻ってきたところ。
サクラもいるのは、ログアウト前に作戦会議をするためだ。
会議の目的は、いかにして美味い焼きソバを作るか、ではなく……
『いかにして美味しい逆ハーレムを育てるか』
である!
「これから協力して、ヴェリノさんの逆ハーレムを育まないといけませんからね」
サクラの清楚感あふれるかわいい顔も、落ち着いた口調も…… なんかいつもより、ウキウキしてるな!?
そんなに欲しいのか、逆ハーレムのスチルが……!
「あ、まあ、まずはお茶でも……」
「お気遣いはいいですよ、ヴェリノさん」
「そうよ! あたくしたちに、お茶してる余裕などなくってよ」
エリザが腕組みをして、ばーんと胸をそらす。
「ほら、急がないと! サクラの飢えた弟妹がリアルで姉の帰りを、待っていてよ?」
「エリザ、言い方!」
「あ、大丈夫です…… お気遣いすみません」
サクラがペコッと頭をさげた。
―― なんと、サクラは5歳下、7歳下、10歳下に妹、弟、弟のいる4人きょうだいの姉。
なので、お昼は働いてる両親に代わって昼飯を作ってるんだって! 偉人伝かな?
とにかく、サクラときょうだいのためにも、急いであげなきゃね。
「じゃ、ま、さっそく! 俺のステータスみせるよ…… ぽちっとな」
「くぅぅん」
【みなさんに見せるには、右下の 『チーム内公開』 ボタンを押してくださいww】
「ありがと、チロル…… これだな!」
ぽちっとな。
チロルに言われたとおりにボタンを押すと、空中に大画面があらわれた。
≡≡≡≡ステータス ①≡≡≡≡
☆プレイヤー名☆ ヴェリノ・ブラック
☆職業☆ 学生
☆HP / MP☆ 33 / 11 ※
☆所持金☆ 1,620 マル
☆装備☆ 制服 /学生バッグ / 普通の靴 /ー /ー /ー
☆ジョブスキル☆
・勉強 lv.1
☆一般スキル☆
・掃除 lv.2
・料理 lv.2
・飼育 lv.2 ペット数:1
・買い物 lv.4
・おしゃれ lv.1
・外出 lv.4 商店街、小運河 (舟)
・魔法 lv.2 プチファイア、プチアクア
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「あれ? HPとMPが、ちょっとだけ上がってる!」
「ぅおんっ」
【新しい称号 『諦めない心』 の効果ですね。HP・MP10%ずつup】
「おおおっ、やった!!!」
「ぅおんっ、ぅおんっ」
【諦めなくて、よかったですねww】
「うんっ…… あと、みてみて、エリザ、サクラ。俺、買い物と外出、もうレベル4になってるっ」
「「…………」」
あれ?
なんか、エリザもサクラも……
表情、ちょっと厳しめ?
「勉強とオシャレが、lv.1……」
サクラがつぶやいた。
エリザが腕組みをして、うなずく。
「大問題ですわね」
「ええっ……!? そうなの?」
「はい、ちょっと……」
サクラが言うには、エルリック王子とミシェルは、いまのままでも問題ない。
エルリック王子は天真爛漫な女の子がタイプだし、ミシェルはステータスよりもまず、庇護欲を炸裂させることが大切だからだ。
「けど! ジョナスとイヅナは、そうはいかなくてよ!?」
「そんなっ……!」
「イヅナさんはオシャレレベルを上げませんと…… そしてジョナスさんは、完璧主義、と言われています」
「言われている、って?」
「ジョナスさんは王子命なので。攻略情報が、少ないんですよね。攻略対象としてより、薄い本のなかで攻受ともに研究されてますから」
「薄い本? 攻受?」
「それは 「別にいま、ヴェリノが知らなくてもいいことですわ!」
エリザがサクラをさえぎる……
だが、サクラは目を輝かせて 『薄い本』 と 『攻受』 について詳しく説明してくれたのだった。
おぉふ……
いや、引いてる場合じゃない!
俺は当事者なんだから、シッカリしなきゃ!
「だいたいわかった、サクラ…… ありがとな……」
「いえいえ。わたしも表紙イラスト頼まれるときがあるんですけど、人気があるのが意外と王子×ジョナスの誘い受けで 「ごほごほごほごほっ」
エリザがむせた。
「だっ、ですから! ヴェリノはイヅナとジョナスは、とりあえず後回しにすれば、いいと思いましてよっ」
「うっ、うん! そうだよね! わかった……!」
なんだか残念そうなサクラは置いておいて、俺はステータス画面に集中する。
「やった! 料理レベルと、魔法レベルが上がってる! 使える魔法、増えてる! プチアクアってなに?」
「プチアクアは、鍋が焦げ付きそうな時に重宝します」
「お料理で 『水 大さじ3』 にも使えるわね」
サクラとエリザが、口ぐちに説明してくれた。
「エリザさん、料理されるんですか?」
「し な い わ」
サクラとエリザ、本当に仲良くなったな!
みんなで楽しく逆ハーレム作り、か……
うん、悪くないかもね!
「さて、次は持ち物と称号だな!」
俺は空中に手をのばして、画面をスクロールした。
≡≡≡≡ステータス ②≡≡≡≡
☆持ち物☆
制服★ 学生バッグ★ 普通の靴★
潮干狩り基本セット レターセット(白)
Pブラシ Pトリミングセット(バリカン付) Pフリスビー
P骨カルガム
B『犬種別☆おしゃれカット集』
B『ヴェリノのお料理メモ (焼きソバ)』
☆称号☆
◆潮干狩り初心者 ◆なりそこないライフセーバー ◆企画初心者 ◆生き物ふれあい初心者 ◆幸運の使者見習い・初級 ◆恋愛強者 ◆諦めない心
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
「こっちは、称号増えた以外、特に…… ん? んん? あぁぁぁぁっ!」
思わず、指さして叫んでしまう俺。
「持ち物に、俺のメモが増えてる!」
「当たり前でしょう!? 書いたんだから!」
と、エリザは言うが。
「いや、けっこう、感動……」
俺、このゲームの住人なんだなぁ…… しみじみ。
サクラが、にっこり笑う。
「わたしも、初めてデザインのアイデアノート作った時には感動しました」
「そっかー! やっぱり、みんな通る道なんだな! エリザは? 最初何だった?」
「そっ、そんなのどうでもいいでしょ!」
「えーっ、なにかを思い出してるみたいだったから聞いてみたのに!」
「早く次に行かないと、サクラが帰っちゃうわよ?」
それも、そうか。
「じゃ、積もる話は、またこんど…… 次、いくか」
次はいよいよ、キャラとの交遊関係だ ―― !
7/6 誤字訂正しました!報告下さった方、ありがとうございます!