6-8. 家庭科室(6)
「こねすぎないでください! ベタッとなります!」
「りょーかい!」
「それ、麺が切れてしまいます!」
「おっけー!」
「あっ…… こげちゃう……!」
「うわわわわ……!」
ぜいぜいぜいぜい(息切れ)
俺の初めての焼きそば作りは、こうして、なんとか終わった……
「ごめんなさい、注意しすぎちゃって……」
「いや、むしろ俺のほうこそ、ごめん!」
サクラが申し訳なさそうに謝ってくれたけど、ほんとの話、申し訳ないのは俺のほう。
ソバと具、ソースを混ぜ合わせながら炒めるのが、めちゃくちゃ難しいんだよね…… (しみじみ)
「サクラが指導してくれなかったら、食えるものが、つくれなかったかも」
「そんなことは」
「いや、ほんと! むしろ、しかりまくってくれて、有り難かった……!」
「えっ、そんな……」
サクラの顔がめずらしく、ほんのり赤くなる。
「俺、明日の晩御飯、家で焼きソバ作ってみる」
「はい! ありがとうございます」
「いや、練習しなきゃ、ガチでやばいから……」
サクラのおかげで、今回はなんとか食べられるのができたけどね!
このままじゃ、危機感しかない。俺が。
さて、次はエリザだ。
エリザは、さっきもちょっと麺を炒めたりしてた…… 初めてのはずなのに、けっこういい感じにカッコよかったんだよな。
悔しいが、焼きソバ王・敗者復活戦 (俺vs.エリザ) は、試食するまでもなく、エリザだろう。
実際……
「ほーっほっほっほっほっ! こうしてあげるわっ!」
脚を踏んばり胸を張り、雄々しく仁王立ちになって、麺調理用のでかいフォークを両手に構え、麺と野菜と豚とソースに勝負を挑んでいる、そのさまは……
「ほらほらほらほらほらっ! いい加減、降参なさいっ!」
熟練とまではいかなくても、かなりいい線いっている。
しかたがない。
ここは、いさぎよく、負けを認めてあげようではないか……!
「エリザー! カッコいいぞ! 頑張れー!」
俺はエリザに声援を送った…… と。
ぷにぷにな手が、俺の腕をやわらかくつかむ…… ミシェルだ。
「お姉ちゃんのほうが、カッコいいよ!」
ミシェルは俺の腕にとりつき、ぷうっとほっぺをふくらませた。
もー! かわいーなー!
「ボク、エリザさんの応援なんか、しないもんっ!」
「えっ、してあげないの?」
「だって…… だって……っ」
ミシェルの緑色の目に、じわりと涙が盛り上がる。
「エリザさん、お姉ちゃんに、いじわるいった……!」
もー!! かーわーいーなー!!
なんだ、ミシェル!
なんて、いじらしいんだ!
もう 『お姉ちゃん』 呼びでもしかたないか、って思っちゃうよ!
―― けど、ミシェルがこのままエリザのことを嫌っちゃうと、後味が悪い。
ゲーム的に、NPCのミシェルには 『エリザは悪役令嬢』 って説明ができないから、難しいけど……
せっかくみんなで学園祭やるのにさあ!
仲が悪いまま、っていうのも、ちょっとね!
よし。なんとかしてみよう。
「ミシェル……」
俺は、ミシェルの鳶色の髪の毛をポンポン、と軽くなでてみた。うーん、さらさらつやつや!
「ミシェルが、お兄ちゃんに肩入れしてくれんのは嬉しいけどさ。俺たちはチームだろ? だから、エリザも応援してあげよ?」
「やだもん。いじわるな子、きらいだもん」
「けどな、ミシェル…… いじわるな子だからっていじわるしちゃうと、ミシェルもいじわるになっちゃうぞ?」
「…………っ!」
ミシェルの緑色の目が大きく見開かれる。
よしよし、効いてるみたいだな…… あと、ひと押しだ。
俺は、年下のかわいい弟を、きちっと正しい道に導く……! きっとそれがお姉ちゃん、いや、お兄ちゃんの役割!
「ミシェルはさっきも、お兄ちゃんのために、たたかってくれたよね?」
「うんっ!」
「お兄ちゃんは、それ、すごく嬉しかった…… あとは、ミシェルが、エリザにも優しくしてあげてくれたら、もっと嬉しいな」
「そうなの……?」
「うん。お兄ちゃんは、いじわるな子も、ミシェルみたいな優しくて強い子も、みんなで仲良く遊ぶのが好きなんだ」
「……! わかったよ、お姉ちゃん……!」
両手でゴシゴシと目をぬぐうと、ミシェルは大きく、うなずいてくれた……
「ボク、エリザさん応援するよっ! お姉ちゃん!」
「うん、それでこそ、ミシェルだ!」
よかったあ!
せっかくのゲームだもん。
やっぱり、みんなで楽しく遊ぶのがいいよね!
「偉いぞ、ミシェル!」
俺は、ミシェルをよっとかかえあげ、高い高いする。
ミシェルがきゃっきゃっと声をあげて笑う。
もー!!! かーわーいーなー!!!
そんな俺とミシェルを、エルリック王子とイヅナがほほえましく見つめている。
ジョナスは…… 相変わらず、毒でも盛りそうな感じだけどね!
「応援してもらうまでもなく、できたわよ?」
エリザが湯気のたつ焼きソバの皿を、俺とミシェルの前に置いてくれた。
エリザも相変わらず、ツンツンしてるう! (けど、ちょっと耳が赤い)
「ボク! お姉ちゃんとすわる!」
「おっ、もちろんオッケーだ、ミシェル!」
「わーい!」
ぷにっ
ミシェルのおしりが、俺の膝のうえに乗ってきた。
サクラが、目を輝かせてこっちを見てるな…… いいシーンなんだろうな、これ。
(あとで、スチルがないか調べてみよう)
ま、それはともかく。
「「「「「「「「「いただきまーす!!!!!!!」」」」」」」」」
青のりとソースのこうばしい匂いが漂うなか。
俺たちは声をそろえて、手を合わせたのだった。




